“変わることを受け入れよう” サントリー・新浪社長の視座

“変わることを受け入れよう” サントリー・新浪社長の視座
新型コロナウイルスで日本の経済界は今、緊急事態ということばでは言い表せないほどの大きな危機に直面している。一方で、オンラインを活用した仕事の進め方や人々の交流は、新しい時代の潮流を生み出し始めている。経済界は今回の危機をどう乗り越えようとしているのか。そして新しい時代にどう立ち向かうのか、各企業のトップに聞く。

2回目は、サントリーホールディングスの新浪剛史社長。
商社マン出身で経営者としての経験は20年以上。政府の経済財政諮問会議の議員も務め、経済界からさまざまな問題提起をしている。
そんな新浪社長が見据える、企業、そして日本が危機を乗り越えるために“必要なこと”とは。(聞き手 経済部記者 仲沢啓)

飲食店に打撃

多くの飲食店が休業や営業時間の短縮を余儀なくされる中、サントリーも大きな影響を受けている。

3月のビール系飲料の売り上げは、飲食店向けが大きく落ち込んだこともあり、去年の同じ月に比べて25%減少。4月はさらに大きな影響は免れない。

現状はどうなっているのか、聞いた。
サントリーホールディングス 新浪剛史社長
「かつてない危機が来ていると思っています。飲食店の方々の悲鳴を毎日聞いています。飲食店の皆さんとは、一緒に戦ってもらっているが、ビールも(ソフトドリンクなどの)飲料も大変厳しい状況です。さらに飲料メーカーにとっては、生活に必要な商品の安定供給がもっとも重要ですが、工場や物流など支える人たちが新型コロナウイルスの感染の危険にさらされている状況なんです。なんとかやりぬく、必要な生活必需品を供給する責任を負っているという自負で社員が一生懸命やっています」
新浪社長
「日本は世界に冠たる食文化の国であり、飲食店が新型コロナウイルスで厳しい状況になっているのは大変な問題です。文化は長年培ってきたものですが、今回の災いで減退、もしくはなくなってしまうことにならないようにするのが大事です。政府に働きかけているのは、サービス業は賃料が大変な負担です。家賃に対する補助や、家主からの支援、そして家主も金融機関から支援されるような取り組みを一刻も早くお願いしたい」
一方、外出自粛で消費者が自宅で酒を飲む機会が増えている。サワーや缶チューハイなど、“家飲み”、“宅飲み”に対応した商品は、3月の売り上げが前年同月を29%上回った。消費に対する意識も大きく変化していると新浪社長は言う。
新浪社長
「飲食店が厳しい一方で、家での消費は活性化しています。飲食店の減少分を家庭向けの売り上げでカバーするのは難しいですが、今後はますます家で飲んだりデリバリーを頼んで家で食べたりすると思います」
「ただ、何度も店に買い物に行くのを避けるため、お酒をケースで買う方が増えていて、そうすると1回の買い物の金額が増えることもあり、安いほうがいいと考えて高い商品から安い商品へのシフトが起きています。もともと新型コロナウイルス感染拡大の前は、人生長いから貯蓄をしなければというような考えがあり、デフレに戻るかもという状況でした。そこに追い打ちをかけたのがコロナショックで、より一層、生活防衛の意識が強くなっています。コロナというわからない敵に対してみんな将来が不安であり、それがゆえに価格に対してもセンシティブになっているのが実態です」

苦境をどう乗り切る

飲食店の苦境に加え、消費者の生活防衛意識の高まりと、メーカーを取り巻く環境は厳しさを増している。新型コロナウイルスの感染拡大を乗り切るためには何が必要だろうか。
新浪社長
「人々の行動変容をもっと見ていく、社会がどう変わるか、もっと早く動かなければなりません。デジタルマーケティングなども活用して人々の動向を知り、商品開発を行っていく必要があると思います。取引先の飲食店では、多くの人が来店するという形が変わる可能性があります。そういった方々に、デリバリーできる仕組みを提供するなど、新たなビジネスモデルを提案することも必要です」
「仕事が在宅になればなるほど、人はストレスを抱えてしまいます。リフレッシュ、リラックスのため、適正飲酒を守りながらではありますが、カクテルなどの新しい商品を提供して、おもしろいと思ってもらうような商品開発がますます重要になっていきます」

“日本は出遅れている”

政府の経済財政諮問会議の議員も務め、新型コロナウイルス対策なども提言している新浪社長。日本社会は変化を受け入れ、変わらなければならないと指摘する。
新浪社長
「日本に突きつけられたのは、デジタルで物事を解決し、デジタルとともに生活をしていくということに出遅れてきたという課題です。オンラインでの診療やe-ラーニングなど、本来であれば実現されてなければならなかったものが、今実現されつつあるが、本来はもっと早くからやるべきで、それが浮き彫りになりました。なにごとも遅いことはないので、急いでデジタル化を進めて、人との接触を最低限にしていき、生活をしていくために必要なデジタルの活用、飲食店であればデリバリーにモデルを変えていく、大きく社会構造や生活が変化しているので、これに合わせた政策をしっかりやっていく必要があります」
「首都直下地震をはじめとした震災が起こる可能性もありますし、今回のパンデミックがまた数年先に起こる可能性もあります。これまでビジネスも選択と集中が効率を上げてきたが、選択肢をとれるようにすることが大事です。日本は変わることに対して抵抗がありますが、今回をばねに変わることを受け入れて、新たな生活の方法論を見つけていかなければなりません」

新時代を生きるには

「コロナショック」で人々が働く環境、ビジネスをする環境は激変している。新浪社長が今経営のトップではなく、1人のビジネスマンだとしたらどう行動するか、聞いてみた。
新浪社長
「もし私が30代だったら…、『ネットワーキング』を一生懸命、やります。なんでもオンラインでできるようになったので、いろんな人たちと勉強するグループを立ち上げたりコミュニケーションをとりますね。そのうえで次の時代がどうなるかを一生懸命考えます。今が時代の変わり目であることは間違いないし、変わるんです。みんなが言っていることを疑い、違う意見にも耳を傾ける、ネットワークを広げるいいチャンスだと思います」
「デジタル社会が一気に進むので事業機会もたくさんありますから、場合によっては起業するかもしれません。先々のことも変化があるからいい機会があると考える。巣ごもりというと暗いイメージがありますが、どうやったらそれを豊かにできるかを考えて、みんなができるようにするということを30代だったら考えます」

経営者のジレンマ

インタビューの最後に、経営のトップを走り続けてきた新浪社長からぽつりと、思いもよらないことばが出てきた。
新浪社長
「将来のことを語れる立場にあるのは幸せなことです。フリーランスなど、仕事がなくなってしまう人もいる有事です。リーダーとして、そういった方々に対してなにができるか、一方で将来のプランも考えていかなければならない、このジレンマの中にいます」
将来のことも考える必要がある一方、今まさに先が見えない飲食店がコロナを乗り越えるためにできることはなにか、頭を悩ませる日々だという。新浪社長は、この危機にどんな手を打ち、何を見いだしていくのだろうか。
経済部記者
仲沢啓
平成23年入局
福島局、福岡局を経て
現在、流通・食品業界などを担当