虐待疑いのある子どもの見守り 新型コロナ影響で困難な状態に

虐待疑いのある子どもの見守り 新型コロナ影響で困難な状態に
新型コロナウイルスの影響で、虐待を受けている疑いがある子どもの見守りが困難な状態になっていることが、東京23区への取材でわかりました。感染への懸念を理由に親から面会を拒否されたケースなどが179件に上っていて、専門家は「子どもの姿が見えない厳しい状況で、単に訪問するのではなく、支援を通じて安全確認するなど工夫が必要だ」と指摘しています。
NHKは先月、東京23区を対象に、新型コロナウイルスの感染の拡大に伴って、虐待を受けている疑いがある子どもの見守りに影響が出ていないか、アンケート調査を行い、すべての区から回答を得ました。

子どもの状況把握の際、対応が難しいケースがあったか聞いたところ、18の区が「ある」と回答し、状況を確認するための面会を親から拒否されたケースなどが179件に上っていることがわかりました。

具体的には「感染への懸念を理由に面談や訪問を断られた」とか「在宅勤務になっている夫を刺激してほしくないので訪問は控えてほしい」などとなっています。

こうした状況への対策として、江戸川区はLINEのビデオ通話で対象の家庭と結び状況を確認する取り組みを始めるほか、葛飾区は子ども食堂の運営者と児童に関する情報を共有しているということです。

LINEを使った新たな取り組みも

新型コロナウイルスの影響によって、虐待の疑いがある家庭への訪問や面会が拒否されるケースが相次いでいます。

東京都で子どもの数が2番目に多い江戸川区では、先月、都内で初めて区独自の児童相談所を開設しました。

区内には、虐待やネグレクトなどで支援や見守りが必要な子どもが780人いて、職員が電話で相談に応じたり直接訪問したりして、子どもの状況を確認しています。

ところが、感染拡大で人との接触を避けるよう呼びかけられる中、子どもの状況の把握の際、対応が難しかったケースが20件確認されたということです。

活動記録には、子どもや親に面会を求めた際、感染への懸念を理由に拒否されたというやり取りが記されています。例えば、面会を求めた父親からは「この状況で人と接触するのは控えたい。常識的に考えても面談や家庭訪問は理解できない」と拒否されたということです。

また、別の家庭の母親からは「コロナへの感染を気にしていて直接会うのは難しい。外出も極力避け、宅配物も玄関前に置いてもらっていて、直接会うことは避けたい」と伝えられたということです。

こうした中、江戸川区はLINEのアカウントを新設し、対象となる家庭の親のスマートフォンとビデオ通話で結んで、親や子どもと話しながら状況を確認する取り組みを始める計画です。

今月中に始める予定で、職員どうしでビデオ通話の練習を行い、準備を進めています。

江戸川区児童相談所の上川光治所長は「虐待の疑いがある子どもは在宅の状態でリスクが高まっている。そうした子どもたちを1人ずつ目視して安全確認ができるかどうか。児童福祉司が親に連絡しても、外出自粛や人との接触をしたくないという理由で、訪問などを断られることが非常に多くなっている」と話しています。

さらに、外出の自粛や学校の休校などで子どもを見守る機会も減っているとして、「学校や保育園に行くこともできない中で、第三者が虐待の状況を察知することも難しくなっている」としています。

そのうえで「LINEのビデオ通話で子どもの状況を確認することは、一つの手段として、今の現状を打破するために必要だと思っている」と話しています。

専門家「経験したことがない事態」

新型コロナウイルスの影響で虐待の疑いがある家庭への訪問が拒否されるケースが相次いでいることについて、虐待問題に詳しい「子どもの虹情報研修センター」の川崎二三彦センター長は「基本的には子どもや親に直接会って話したり状況を確認したりすることが求められるが、現状では拒否的な反応をされるのはやむをえない。今の状況は経験したことがない事態となっている」と危機感を強めています。

また、学校の休校が続いていることについて「児童相談所や自治体は、土日や連休の間の子どもの状況が心配になるが、今は1か月も2か月も心配が続いている状況だ。学校からはふだん虐待のおそれがあると通告してもらっているが、学校も子どもの姿を見ることができず、家庭内で密室化しているのではないかと心配だ」としています。

そのうえで「虐待のリスクがある家族はもともと支援が必要だが、さらに行動の制限がされたり、就労不安に陥ったりと、厳しい状況になっている。安全確認という従来の考えだけではなく、根本に立ち返り、どうしたら支援できるのか、何に困っているのか、やり取りすることが子どもの安全確認につながる」と指摘しています。

そして、食事の支援が必要なら子ども食堂のスタッフに弁当を届けてもらう中で状況を確認したり、子どもが泣き叫んで困るという場合はアドバイスをする中で親と話す機会を持つといった方法を提案しています。