東京五輪・パラ1年延期 会場確保にさまざまな課題

東京五輪・パラ1年延期 会場確保にさまざまな課題
東京オリンピックの開幕が来年7月23日に延期されて1か月余りがすぎました。開催に向けた最初のハードルは1年先の会場確保ですが、影響を受ける企業などへの補償や、都市の街づくりにも遅れを与えかねない、課題が分かってきました。
新型コロナウイルスの感染拡大で、東京大会は開幕がオリンピックが来年7月23日に、パラリンピックが来年8月24日に延期されました。

感染の終息が見えない中、大会組織委員会はあくまで延期した1年後の開催を目指して、現在、各分野で課題の洗い出しを行っていて、具体的な計画の基となる会場と競技スケジュールをことし夏までに決めたい考えです。

最初のハードルは、43の競技会場と選手村、それにメディアの拠点となる同じ会場を、1年後にも確保できるかどうかですが、実現には影響を受ける企業などへの補償や都市の街づくりにも遅れを与えかねない課題が分かってきました。
具体的には、メディアの拠点となる「東京ビッグサイト」は、施設のおよそ半分が大会終了後の来年秋までビジネスでは使えないなど利用が制限されることになり、「日本展示会協会」では、影響を受ける企業は延べ5万社以上に上ると試算していて、関係する企業からは代わりとなる場所の確保など補償を求める声が出ています。

また、野球・ソフトボールの会場となる「横浜スタジアム」では球場脇の横浜市庁舎を競技運営のために利用する計画ですが、街づくりの再開発事業で大会前の来年3月に解体などの工事が始まる予定で、難しい調整が避けられない見通しです。

組織委員会は今後、すべての会場の所有者らと本格的な交渉を進める予定で、丁寧な配慮が求められます。

そのうえで、延期に伴う追加経費がどれだけになるのかを積み上げ、削減する項目を含めて大会全体の計画の見直しを進めていくことになります。

展示会の企画会社「五輪 新型コロナ 延期の三重苦」

東京 江東区にある「東京ビッグサイト」は展示場や会議室を備える国内最大のコンベンション施設で、年間を通してあらゆる業種の展示会やイベントが開かれています。

影響を受ける企業の1つ、東京 中央区に本社を置く「ジールアソシエイツ」は従業員100人余り、展示会やイベントの内装や企画を手がけ、去年の売り上げはおよそ22億円です。
去年、展示会関係の仕事のおよそ4割を東京ビッグサイトが占め、ことしは東京オリンピック・パラリンピックが終わって東京ビッグサイトの利用が再開される秋以降に、業績のV字回復を期待していました。
しかし思わぬ1年延期で、東京ビッグサイトのおよそ半分に当たる「東展示棟」が大会準備で来年秋まで利用できなくなり、ことし12月に予定されていた工作機械の大規模な見本市が中止になるなど、すでに影響が出ています。
さらに、現在は新型コロナウイルスの影響で4月以降の仕事が激減している状態で、子会社の工場には材木が使われないまま積み上げられています。

展示会業界は、出展する中小企業の営業の場としてだけでなく、1つの催しにさまざまな業種が関わるすそ野の広い業界で、大会延期は業界の雇用にも影響が出かねないとして、新たに利用できなくなった期間は代わりとなる場所の確保などの補償が必要だと訴えています。

永門大輔社長は「展示会の仕事がオリンピックの当初の計画で減り、新型コロナウイルスで減り、さらにオリンピックの延期で減り、“三重苦” の状態だ。とにかく展示会などを開ける場所を提供してほしい。それがないかぎりわれわれは何もできない」と話しています。

代替の展示会場 約1年延長の方向

東京オリンピック・パラリンピックの1年延期に伴い、都内の展示会の会場がひっ迫する可能性があることから、東京都は、去年から臨海部の青海地区に開設している東京ビッグサイトの仮設の展示棟の取り壊しをいったん中止し、利用を1年程度延長する方向で調整しています。

東京大会の前後の期間中、江東区の有明地区にある東京ビッグサイトは国内外のメディアの拠点となり、展示会などの会場として使えなくなります。

このため都は去年4月に、同じく臨海部の青海地区におよそ2万3000平方メートルある東京ビッグサイトの仮設の展示棟を開設し、この展示棟はことし11月まで使用したあと取り壊す計画でした。

しかし東京大会の1年延期に伴い、都内の展示会の会場がひっ迫する可能性があることから、都はことし12月に予定していた取り壊しをいったん中止し、利用を1年程度延長する方向で調整しています。

横浜市 庁舎の再開発計画に「危機感」

野球・ソフトボールの会場の横浜スタジアムをめぐっては、「地域の盛り上がりの起爆剤」と期待される再開発事業の遅れが懸念されています。

球場と道路を挟んで隣り合う横浜市役所の庁舎は8階建ての行政棟や市議会が入る建物があり、大会組織委員会は、庁舎と球場の間に通信用の配線を通して、メディアや警備の関係者用に使いたい考えです。

一方、横浜市は、来月までに役所の機能を別の場所に移したうえで、老朽化した庁舎は来年3月に売却し、改修や解体の工事が着手される予定でした。

再開発で庁舎はホテルに活用されるほか、企業や大学などが入る30階建てのビルも建設され、地域の新しい中心的な場所になる計画です。

しかし、オリンピックの1年延期で、計画していた着工スケジュールへの影響は避けられない事態になっています。

横浜市の担当者は「オリンピックで横浜スタジアムを使ってほしいが、予定が遅れて『街の空洞化』が長期化するのは防がなければならない。再開発事業となんとか両立させたい」と危機感を募らせ、林文子市長は「いま再開発に携わる事業者と懸命に話し合いをしているところだ。オリンピックではなるべく短い時間に集中して使ってもらい、そこから着工していく方法などを模索している」と話しています。

組織委「丁寧に説明し協力求めたい」

組織委員会は、あらゆる大会準備の前提となる会場の確保についてなるべく早く結論を出したいとする一方、会場ごとの事情に応じて丁寧に交渉する必要性を強調しています。

森会長は「会場によって契約の内容や所有者の立場が異なる。相手方に丁寧に説明しながら協力を求めていきたい」と話しています。