アメリカ大統領選まで半年 新型コロナが大きな影響

アメリカ大統領選まで半年 新型コロナが大きな影響
アメリカのトランプ大統領の審判の場となる大統領選挙まで半年となります。政権奪還を目指す野党 民主党はバイデン前副大統領が指名獲得を確実にし、両者の対決の構図が固まりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大は選挙の行方にも大きな影響を与えそうです。
アメリカ大統領選挙はことし11月3日に投票日を迎え、与党 共和党では再選をねらうトランプ大統領が、民主党ではバイデン前副大統領が指名獲得を確実にしています。

政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」による先月末時点での各種世論調査の平均値は「トランプ氏を支持する」が42%、「バイデン氏を支持する」が48.2%となっています。

大統領選挙は新型コロナウイルスの感染拡大で様相が一変し、トランプ大統領は最大の実績と強調してきた好調な経済の落ち込みを受けて、「戦時の大統領」として危機に立ち向かう姿をアピールする戦略に転換しています。

トランプ大統領は連日、テレビカメラの前に出てみずからの指導力を印象づけるとともに、支持層も意識した経済対策を打ちだし、現職の強みを生かした活動を展開しています。

これに対し民主党は、バイデン氏のもと、党内の中道派と左派の対立を乗り越える挙党態勢の構築に取り組んでいて、オバマ前大統領をはじめ党の有力者が相次いで結束を呼びかけています。

しかし感染の拡大で選挙運動は大きな制約を受けていて、バイデン氏はインターネット上やテレビを通じた発信を強化して存在感を高める取り組みを進めています。

感染拡大への対応は選挙の大きな争点にもなっていて、トランプ大統領が中国の責任を追及する強硬姿勢を見せて、バイデン氏を弱腰だと批判しているのに対し、バイデン氏はトランプ大統領の対応の遅れを非難したうえで、国際協調を軽視したことが中国の台頭を招いたと主張し、国民の間でも中国に対する外交姿勢への関心が高まっています。

ただ事態がいつ収束するのか見通せないなか、選挙を従来のように実施できるか危ぶむ声もあり、感染拡大は選挙の行方にも大きな影響を与えそうです。

2人の政策を比較

現時点でのトランプ大統領とバイデン前副大統領の主な政策の比較は以下のとおりです。

外交

トランプ大統領は、存在感を増し続ける中国と、貿易や安全保障など多方面で激しく対立しています。
新型コロナウイルスの感染拡大をめぐっても、中国が諸外国に物資や医療面で支援にまわり存在感を増す中、ウイルスは中国が発生源だと強調して責任を追及するなど対立を深めています。
また、就任当初から「アメリカ第一主義」を掲げ、イランの核合意から離脱したほか、同盟国にはアメリカ軍の駐留経費の分担などを増やすよう強く求めています。
北朝鮮やロシアなどに対しては、経済制裁で圧力を強めながら大統領自身が対話を主導して事態の打開を図ろうとしていて、今後もこうした外交を推し進めていく方針とみられます。

これに対してバイデン前副大統領は、国際社会でのアメリカの指導力を取り戻すと主張し、中国に対しては同盟国と連携して対抗していく考えを示しています。
イランの核合意ではオバマ前政権の政策を引き継ぎ、イランが合意を守ればアメリカも合意に復帰する考えを示しているほか、ロシアとの核軍縮条約「新START」の延長を目指す考えを示しています。

経済・雇用政策

トランプ大統領は歴史的な株高と好調な雇用環境を成果だと誇ってきましたが、新型コロナウイルスの影響で景気や雇用情勢が急速に悪化する中、経済の悪化はみずからの再選の行方を左右することになると考え、対策に本腰を入れているものとみられます。
そのため、かつてない規模の支援に乗り出していて、大人1人当たり最大1200ドル(およそ13万円)の給付などを含めた総額300兆円に上る過去最大の経済対策を迅速に決めたほか、公共事業への投資や中間層の減税など強力な財政出動を掲げています。

一方、バイデン前副大統領は先月発表した計画で、国が経済的な救済に積極的に介入する「大きな政府」を掲げる民主党の理念のもと、新型コロナウイルスの影響で厳しい状況にある労働者や中小零細企業を保護する姿勢を鮮明にしました。

また、大きな議論となっている経済活動の再開をめぐっては、トランプ大統領が早期の再開に意欲を見せる一方、バイデン前副大統領は科学的な検証が必要だとして慎重な立場です。

貿易政策

トランプ大統領は、NAFTA=北米自由貿易協定の見直しや、中国に対して高い関税を課して圧力をかけ、アメリカ産の農産品の輸出拡大を約束させるなど強硬な貿易政策を取ってきました。

これに対してバイデン前副大統領は「やり方が古い」などと批判してきましたが、民主党は伝統的に保護主義的な貿易政策を掲げているだけに、互いの政策の差別化は難しいともみられています。

社会保障

トランプ大統領は、オバマ前政権が導入した医療保険制度、いわゆるオバマケアについて、財政負担が大きく保険加入をめぐる個人の自由も奪うなどとして撤廃を訴えています。撤廃は実現していませんが、制度の一部を見直し、個人の加入義務を事実上廃止したとして、成果だと強調しています。

これに対しバイデン前副大統領はみずからも携わったオバマケアの継続、拡充を訴えています。さらにメディケアと呼ばれる高齢者向けの公的医療保険の対象年齢を引き下げて拡大する考えも示しています。

気候変動

トランプ大統領は地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」について「一方的で金がかかる」と批判し協定からの離脱を国連に通告しました。
また、オバマ前政権が認めなかった原油パイプラインの建設計画の推進を指示するなど、気候変動対策や環境保護よりも産業や雇用創出を重視する姿勢を鮮明にしています。

これに対しバイデン前副大統領はパリ協定からの離脱は暴挙だとして、大統領に就任すれば協定に再び参加すると表明しています。
さらに再生可能エネルギーへの投資を拡大させ、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質的にゼロにすることなどを掲げています。

移民政策

トランプ大統領は、国民の雇用を守り、治安を維持するためなどとして、入国審査の厳格化や不法入国の取締り強化など強硬な移民政策を推し進めてきました。
不法入国を防ぐための国境の壁の建設や難民の受け入れ制限など国外からの人の流入を抑える政策を相次いで打ち出しています。

一方、バイデン前副大統領は移民はアメリカの成長の原動力で国の根幹を成すものだなどとして、適切な入国管理を行ったうえで移民を受け入れていくべきだと主張しています。
国内で暮らす1100万人に上るとされる不法移民の市民権の取得に道筋をつけるほか、幼い時に親に連れられて不法入国した人たちの強制送還を猶予するDACAと呼ばれるオバマ前政権の政策を復活させるとしています。

銃規制

トランプ大統領は銃の所持は合衆国憲法の修正第2条に定められた権利だとして、銃規制の強化には慎重な立場です。
共和党の有力な支持団体、NRA=全米ライフル協会が規制強化に反対する中、「憲法修正第2条を守る」などと繰り返し発言し、銃を持つ権利を擁護する姿勢を強調しています。

一方、バイデン前副大統領は憲法修正第2条を尊重するとしたうえで、必要な規制を行うべきだと主張しています。
多数が犠牲になる乱射事件で繰り返し使用されている殺傷能力の高いライフル銃の製造や販売の禁止や、銃の購入者の確認や調査の徹底、インターネットを通じた銃や弾薬の販売の禁止などを訴えています。

世論調査の結果は

アメリカの政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によりますと、各種世論調査のトランプ大統領の支持率の平均値は先月30日の時点で45%となっています。
アメリカで新型コロナウイルスの感染が広がり始めた3月上旬、トランプ大統領は楽観的な発言を繰り返して批判を浴び、支持率は一時下落しました。
しかしその後は連日、長時間の記者会見を開き、指導力をアピールすると支持率は上昇し、先月1日には就任以来最高となる47.4%を記録しました。

一方、バイデン前副大統領と比較すると、先月2日から28日までの間に行われた各種世論調査の平均値で、48.3%がバイデン氏を支持するとしたのに対し、トランプ大統領を支持するとしたのは42%と、バイデン氏が6.3ポイントリードしています。

このうち、トランプ氏の前回2016年の大統領選挙での勝利を後押しした、いわゆる「ラストベルト」にある各州での平均値を見ると、中西部ミシガン州でバイデン氏が5.5ポイントリードしているほか、ウィスコンシン州でも2.7ポイントリードしています。
さらに、東部ペンシルベニア州でもバイデン氏が6.7ポイントリードしているほか、南部の接戦州フロリダでも3.2ポイントリードしていて、世論調査の多くでバイデン氏がトランプ大統領より多くの支持を集めています。

日程は新型コロナで大きな変更

アメリカ大統領選挙の日程は、新型コロナウイルスの感染が急速に広がったため大きな変更を余儀なくされています。

民主党の候補者選びでは、全米で感染が最も深刻なニューヨーク州が6月に延期していた予備選挙の実施を取りやめると決定しました。
また全米の15の州が投票を延期していて、4月末現在で19の州と首都ワシントンが候補者選びを行っていません。
民主党ではすでにバイデン前副大統領が大統領候補への指名を確実にしていますが、実際に指名に必要な過半数の代議員1991人を確保するのは来月以降になる見通しです。
また今後の候補者選びでは、感染を防ぐため郵送による投票にかえる州が相次いでいます。

さらに、感染の影響は候補者を正式に決める夏の全国党大会にも及んでいます。
民主党は当初の計画を1か月延期して8月17日の週に中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで全国党大会を行うと発表しました。
バイデン氏は副大統領候補に女性を起用する方針で、候補者選びから撤退したハリス上院議員や左派のウォーレン上院議員らの名前が挙がっています。
一方、共和党は当初の予定どおり8月24日から4日間、南部ノースカロライナ州シャーロットで全国党大会を行い、トランプ大統領を大統領候補に指名します。
党大会は大統領選挙に向けた政策のアピールや資金集めのために重要ですが、例年どおり数千人が参加する大規模な大会を開けるかも新型コロナウイルスの感染状況に左右されそうです。

その後、9月から10月にかけて大統領候補どうしのテレビ討論会が3回、副大統領候補の討論会が1回行われます。
そして、大統領選挙の本選挙は11月3日に行われます。

アメリカメディアは、本選挙の日程は法律で定められ、大統領にも変更する権限がないため、延期の可能性は極めて低いと伝えています。

ただ、感染の拡大が続けば投票を避ける有権者が増えるおそれもあるため、民主党からは郵送による投票や期日前投票の拡充を求める声が上がっていますが、トランプ大統領は不正につながるおそれがあるとして反対しています。