客が貼り紙「ありがとう」 あの閉店した豆腐店に 東京

客が貼り紙「ありがとう」 あの閉店した豆腐店に 東京
新型コロナウイルスの影響で店を閉めることになった東京新宿区の豆腐店に、突然、「本当にありがとう」と感謝を伝える客からの貼り紙が張られました。店主は「見た時はうれしかったよ」とする一方、「街の灯を消さないようにがんばってきたけれど、残念です」と話しています。
先々代から79年間続く豆腐店の店主酒井政彦さんは、新型コロナウイルスの感染が広がる中、かっぽうやホテルなど30件ほどの取り引き先からの注文が徐々に減って配達先が「0」になり、豆腐作りをやめることにしました。

リーマンショックでも東日本大震災でも豆腐が売れなくなることはありませんでしたが、新型コロナウイルスは別で、店のシャッターを下ろしました。

豆腐作りをやめたある日の朝、酒井さんは、店のシャッターに貼り紙があるのを見つけました。

「本当にありがとう、雨の日も風の日もここで豆腐を買うのを楽しみに生活してきました。今後とも御近所づきあいよろしくお願いします。公園脇の役者より」と書かれていました。
酒井さんによると、書いたのはいつも夕方くらいに1丁160円の豆腐や170円の厚揚げを買いに来ていた、少しぶっきらぼうそうな名前も知らない男性ではないかということで、「見た時はうれしかったよ。親の背中を見て跡を継いでやってきてよかったと思った」と話しています。

酒井さんは経理処理のため、車で卸し先を回っていますが、日本有数の繁華街の歌舞伎町や、西新宿も閑散としていて、今の街の姿について「お得意さんも店を閉めていて本当に歌舞伎町かな、まるでゴーストタウンだ」などと語っていました。

店に戻ると、半開きのシャッターから中をのぞくお客さんがいて、「さみしいね」と声をかけていました。

店が閉まることを嘆く声が多い中、酒井さんは「街の灯を消さないようにやってきたけど…残念です」と話していました。

わずか1年前は…

取材をしたのは5月1日で、私はわずか1年前、元号が令和になったお祝いムードの中、酒井さんがいつもと変わらぬエプロン姿で豆腐を作っていたことを思い出しました。

貼り紙を見て、街の風景や1丁160円の豆腐がつないできたささやかな日常が、これ以上奪われることのないことを強く願いました。