「生死を分けた」新型コロナ元患者が語る厳しい搬送体制の現状

「生死を分けた」新型コロナ元患者が語る厳しい搬送体制の現状
新型コロナウイルスに感染し一時、人工呼吸器を着けるなど重症だった60代の男性がNHKの取材に応じました。男性は当初軽症と診断され、自宅で療養していましたが、症状が悪化して入院先が決まった後も保健所が車の手配ができず、運転に不慣れな家族の車で病院に到着したということで「症状が悪化したらすぐに医療機関に行けるようにしてほしい」と訴えました。
NHKの電話取材に応じたのは千葉県北西部に住む60代の男性です。男性は先月上旬から発熱が続き新型コロナウイルスの感染が確認されました。

軽症と診断されましたがその後、息苦しさが増したため何度も保健所に電話をし、検査結果が出て3日目に入院する病院が決まりました。

受け入れ先は自宅からおよそ100キロ離れた病院でしたが、保健所はその日は車を準備できず、また地元の消防では、保健所から救急車での搬送の打診を受けたものの遠方へ重症患者を運ぶには医師の同乗が必要だと回答し、調整がつかなかったということです。

そこで男性は、ふだんほとんど運転しない妻の車で病院に向かい、5時間後に到着しましたが、呼吸状態が悪化していてすぐに集中治療室に運ばれ、翌日、人工呼吸器を着けました。

当時の状況について男性は「万が一の時は延命治療をするかどうか聞かれたが、それどころではなくて、お任せしますとしか言えませんでした。息ができなくなるような苦しさが2日ほど続いて、あの時は本当に死を意識しました」と話していました。

男性はその後回復し今週、退院しました。

千葉県内では今もおよそ240人が入院調整中となっていますが、男性は「搬送体制が厳しいので、きょう病院に行きたいなら自力で行ってくれと言われました。しかたなく妻に頼んで車で行きましたが、それが生死を分けたと言えるかもしれません。医師からも、あと1日入院が遅れたら厳しかったと言われました。症状が悪化したらすぐに医療機関に行けるような体制にしてもらいたいです」と話していました。

千葉県「県民に不安を与え申し訳ない」

新型コロナウイルスに感染し、入院が必要な患者については、原則、保健所の職員が防護服などを着用し、車を用意して搬送しています。

重症の場合などは、救急車で搬送するよう地域の消防に協力を要請しますが、千葉県ではいずれも確保が難しい場合には、本人や家族で手段を確保し、公共交通機関を使わずに病院に向かうよう依頼しているということです。

千葉県はこの男性のケースに関して、「保健所の車や救急車による搬送の調整が難しく、家族の車で病院に行ってもらうことになったが、当時、保健所として把握していた病状を踏まえると対応に問題はなかったと考えている」と話しています。

そのうえで「今回のケースで県民の方に不安を与えてしまったとすれば、申し訳ないと思っている。今後、このようなことのないよう適切な対応を取っていきたい」と話しています。