新婚の運転手は妻妊娠でも解雇 苦境の貸し切りバス 新型コロナ

新婚の運転手は妻妊娠でも解雇 苦境の貸し切りバス 新型コロナ
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、3月に事業の廃止や休止を国に届け出た貸し切りバス会社は、合わせて20社に上ったことがわかりました。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、観光ツアーなどでバスを運行する貸し切りバス会社ではキャンセルが相次ぎ、運送の収入が落ち込む影響が出ています。

こうした影響で3月、国土交通省に貸し切りバス事業の▽廃止を届け出た会社は8社、▽休止を届け出た会社は12社の合わせて20社に上りました。廃止と休止をあわせた件数は、ことし2月と比べると5倍と急増しています。

国土交通省によりますと、これらの会社はいずれも所有するバスが11台までの小規模事業者で、新型コロナウイルスの影響で運送の需要が大幅に減少し経営難になったことが主な原因だということです。

また、国土交通省が全国の貸し切りバス会社53社を調査をしたところ、8割を超える43社が4月は「運送収入が70%以上減収する見込み」と回答するなど、深刻な影響が浮き彫りになっています。

全国のバス会社で作る日本バス協会は、「厳しい状況は今後さらに深刻さを増していくとみられ、今後、さらに倒産する事業者が相次ぐおそれがある。国にはさらなる支援を求めたい」としています。

貸し切りバス会社 売上ゼロのところも

新型コロナウイルスの影響が長期化し、貸し切りバス会社の中には収益が大幅に落ち込み、売り上げがゼロになる会社もでてきています。

このうち東京都内にあり23台のバスを所有する貸し切りバス会社は、ことし1月下旬からキャンセルが相次いでいます。

4月下旬までにキャンセルは2000件を超え、売り上げはおよそ9000万円落ち込んでいるということです。4月はすべてのツアーがキャンセルになり、売り上げは去年の同じ月と比べて98%も減収する見通しだということです。さらに5月以降も6月まではすでにほとんどのツアーがキャンセルになっているということです。

こうした状況を受けて会社では、運転手23人全員に自宅待機してもらったり、国の支援策を活用したりして、なんとか会社の運営資金をやりくりしている状況だということです。

この貸し切りバス会社の池谷栄一社長は「当初は5月ごろには収束してツアーが徐々に戻ってくると思っていたが、影響は長期化していて先が見えなくなってきています。収入はゼロになり借金がどんどん膨らんでいて、国の支援策を使ってなんとか資金繰りをやりくりしている状況です。ただ、運転手たちもみんな苦しい状況を耐えてもらっているので、頑張りたいと思います。一刻も早く収束して元に戻ってほしいです」と話していました。

妻が妊娠 解雇の運転手は…

貸し切りバス会社が厳しい経営を余儀なくされる中、バスの運転手の中には解雇される人も出てきています。

ことし2月末に貸し切りバス会社を解雇された40代の男性運転手です。男性は、主に外国人観光客向けのツアーバスを運行するバス会社に正社員として勤務していましたがツアーのキャンセルが相次ぎ、会社からことし2月末に運転手全員を解雇すると伝えられました。

男性は、結婚したばかりでことしに入って妻が妊娠していることがわかりました。現在は失業手当で生活をやりくりしていますが、住宅ローンの返済もあり、今後の生活に大きな不安を抱えています。

男性は、運送会社などへの再就職を目指してきましたが、勤務地や給与などの条件面があわず難航しているということです。

解雇された会社からは最近、「ツアーが再開されたら会社に戻ってきてほしい」と言われたということですが、いつになったら影響が落ち着くのか見通しがたたない中で、不安ばかりが募るといいます。

男性は、「感染が収まって観光バスの元の仕事に戻りたいのが本音で、それまではアルバイトで生活していこうと考えています。ただ貯金を切り崩しながらの生活は厳しく、子どもが生まれ家族を守っていかないといけないので、いち早く収束することを願います」と話していました。

「車両売りたい」バス会社から相談相次ぐ

経営が厳しくなる貸し切りバス会社が相次ぐ中、バスの買い取り業者には全国のバス会社から問い合わせが相次いでいます。

横浜市にあるバスの買い取り業者には、全国のバス会社から「車両を売りたい」という問い合わせが相次いでいます。ことし2月下旬ごろから急増し、3月までの2か月間で例年の8倍ほどにあたるおよそ60件にのぼったということです。これまでに寄せられた問い合わせの中には、購入してまもない、比較的新しい車両の売却依頼や所有する車両のほとんどを手放したいという依頼などもあるということです。

こうした問い合わせは増加傾向にあって、買い取り業者では新型コロナウイルスの影響が長期化し資金繰りに困るバス会社が急増しているとみています。

また一方で、この業者では依頼が急増しているため、車両の買い取り価格が落ち込んでいて、バス会社にとっては売りたくても売れない状況も出てきているということです。

バス買い取り業者の西口高生社長は、「ここまで売却依頼が多いのは初めての経験だ。それだけ全国のバス会社が厳しい状況に追い込まれている。これまでは外国人旅行者のツアーを主に運行していた小規模の会社からの売却依頼が多かったが、影響が長期化していることから今後は国内ツアーを扱う会社や中規模から大手も厳しい状況に追い込まれ、相談が増える可能性がある。バス業界は深刻な状態だ」と話していました。