学費減免など求める署名活動 160大学に広がる 新型コロナ

学費減免など求める署名活動 160大学に広がる 新型コロナ
新型コロナウイルスの感染拡大でアルバイト収入が途絶え経済的に追い込まれた大学生が授業料の減免などを求める署名活動が全国160以上の大学で広がっていることがNHKの調べで分かりました。大学側が独自に給付金を支給するなどの動きも出ていますが、専門家は「このままでは新型コロナウイルスの影響で未来を奪われる若者が続出しかねず、国や自治体による支援をさらに拡充すべきだ」と指摘しています。
新型コロナウイルスの感染拡大はアルバイト収入を生活費や学費に充ててきた大学生などの暮らしに深刻な影響を及ぼしていて、学生団体が今月、1200人の学生を対象に行ったアンケートでは「収入減によって退学を検討している」と回答した人が全体の2割に上っています。

こうした中、大学生が授業料の減免やオンライン授業の導入に伴う負担補助などを求めるインターネット上の署名活動が広がっていて、29日の時点で全国の160以上の大学で署名活動が行われていることがNHKの調べで分かりました。

署名活動を行っている埼玉県内の大学4年生は「母子家庭で、奨学金とアルバイト収入で学費や生活費を賄ってきたが、収入がなくなり後期の学費は払えないかもしれない。このままでは大学を辞めてしまう人も出てくると思うので声を上げなければならない」と話しています。

こうした状況を受けて文部科学省は給付型の奨学金が支給される「修学支援制度」の活用を呼びかけるとともに、大学に対しても授業料の納付期限の延長や減免などに配慮するよう求めています。

一方、大学側が独自の給付金を支給するなどして学生を支援する動きも出ていますが、私立大学は収入全体の8割近くを授業料など学生からの納付金が占めていて、学費の減免については大学運営が圧迫されるとして消極的な大学も多いということです。

大学の学費の問題に詳しい桜美林大学の小林雅之教授は「日本の高等教育への公費負担は国際的にも低く、国の支援の対象にならない中間層の学生も厳しい状況に追い込まれている。このままでは新型コロナウイルスの影響で未来を奪われる若者が続出しかねず、大学任せにするのではなく国や自治体による支援をさらに拡充すべきだ」と指摘しています。

「食費は1日500円以内に」それでも…

浜松市の大学に通う米田凌さん(22)は、母子家庭で育ち、親からの仕送りの5万円とアルバイトで稼ぐ月7万円ほどを家賃や生活費に充ててきました。

しかし、ことし2月からアルバイト先の居酒屋の仕事が減りはじめ、先月の仕事はわずか2日、収入は2万円に減りました。

さらに今月からはアルバイト先が休業となり、収入はゼロになりましたが、休業手当などは支払われていません。

このため現在は、食費を1日500円以内に切り詰め即席ラーメンやレトルト食品ばかり食べているといいます。

米田さんは来年、大学院への進学を希望していますが、母親には、これ以上の負担はかけられないと考えていて、このままアルバイト収入がない状態が続けば入学金を払えず、進学をあきらめざるを得ないと感じています。

米田さんは、「アルバイトで生活費や大学院の進学費用を稼ごうと思っていましたが、お金のやりくりが出来なくなってしまうと親に頼りきりの状態になってしまいます。大学院への進学は諦めたくはないですが、今よりもひどい状況になったら生きていくために就職するしかありません」と話していました。

アンケートには学生からの悲痛な声

学生団体には経済的に困窮する大学生などから悲痛な声が相次いで寄せられています。

学費や奨学金制度の改善を目指す学生団体、「高等教育無償化プロジェクトFREE」が大学生などを対象に行ったアンケートには、今月9日からおとといにかけて全国の1200人から回答があり、「アルバイトの収入が減った」または「ゼロになった」と回答した人が68%、「親の収入が減った」または「ゼロになった」と回答した人が54%に上りました。

そして、「収入減によって退学を検討している」と回答した学生は全体の20%に上り、「大学をやめることにした」と回答した学生も2人いたということです。

アンケートにはアルバイト収入の減少によって学費の支払いに苦しむ学生の声が記されています。

(私立大学2年生)
「親の収入も減り私も働けない。学費などが払えず借金が膨らむくらいなら大学をやめたい」

(国立大学1年生)
「県外で1人暮らしのため家賃や食費の仕送り、学費負担を考えると大学生活を続けることは無理かもしれない」

また多くの大学が新学期から導入するオンライン授業についても、30%の学生が「パソコンなどの環境整備によって経済負担が増える」と回答したほか、41%が「オンライン授業を落ち着いて受講できる環境がない」と回答したということです。

そして国や大学に経済的な支援を求める声も相次いでいます。

(私立大学生)
「このまま学業を続けるためにも大学授業料の政府支援や奨学金を無利子にしてほしい」

(国立大学生)
「学費の減免措置。遠隔授業受講環境を構築する事への援助」

(国立大学生)
「学費減免を必要としているのは収入が激減した家庭だけではありません。元々ギリギリのところでやりくりしている家庭では少しの収入減でも大学で学ぶことが難しくなりかねません」

ネット上の署名活動では「大学だけでなく 国にも支援を」

インターネット上で広がる大学生の署名活動。28日は16の大学の学生によるオンライン会議が行われ、集めた署名を確実に大学に届ける方法などについて情報交換していました。

学生によりますと署名を届けたあと、大学側が独自の給付金制度の導入を決めたケースもあるということですが、学費の免除や減額については大学運営が圧迫されるとして消極的な大学が多いということです。

会議では「私たち学生は大学にしか窮状を訴えることが出来ないが、大学と対立しても前に進まない」とか「大学だけで出来ることも限られているので、国にも支援を求めるようお願いしたらどうか」という意見が出ていました。

また多くの大学が導入するオンライン授業についても「大学からパソコンを買うように言われたがアルバイト出来ないのでお金がない」とか「Wi-Fiの契約にもお金がかかるので大学が貸し出しをして欲しい」という声が上がっていました。

私学経営厳しく 学生はアルバイト収入に依存

文部科学省によりますと私立大学は少子化の影響などで全国の4割の大学で収支が赤字になるなど経営状況が厳しくなっています。私立大学では授業料などの学生からの納付金が収入全体に占める割合が77%に上り、年間の授業料も年々増えています。2018年度の授業料は私立大学で平均およそ90万円、国立大学でおよそ53万円となり、いずれも30年前の1.6倍になりました。

一方、大学生の生活環境は家庭収入の減少や学費の値上げなどを背景に年々厳しくなっていて、学生団体が行ったアンケートでは回答した8700人のうち5割の学生がアルバイト収入を生活費に充てていると回答しています。