苦しい時こそ支え合い イギリス伝統のパブとカフェ

苦しい時こそ支え合い イギリス伝統のパブとカフェ
新型コロナウイルスの感染が深刻な国の1つ、イギリス。外出制限が1か月以上続き、生活必需品を扱うスーパーなどを除いて、店は通常の営業ができなくなっています。収入がなくなり、再開の見通しもたたず、廃業を余儀なくされる店も出てきています。一方で、なんとか店を守り抜こうと、さまざまな工夫を始める飲食店も増えています。今回、4つの店の工夫を紹介します。(ロンドン支局 向井麻里 栗原輝之)

家でパブの味を楽しんで

イギリスといえば、伝統のパブ。どんな小さな町にもあり、ふだんであれば、店の外までビールグラスを手に語り合う人たちであふれています。
サウスヨークシャーにあるこのパブは、店内での営業ができなくなったため、地元の醸造所と提携して瓶ビールのオンラインでの販売を始めました。これまで常連客が店で楽しんでいたエールと呼ばれるイギリス特産のビールを、直接、客のもとに届けることにしたのです。
今月半ばから、パブのブランドマークをあしらったラベルを瓶に貼り、1本およそ3ポンド(およそ400円)で販売を始めました。最初に仕入れた100本をすでに売り切り、新たに仕入れる計画です。
(経営者 クリス・ブレイさん)
「常連客だけでなく、ロンドンや北アイルランドなど全国各地から注文が入ります。少しでも確実な収入があるのは助かります」

再開したら2倍飲めます

一方、ロンドンにあるパブは、ビールの特別チケットをオンラインで販売しています。店内での営業が再開したあとに使ってもらえるチケットで、金額の2倍に相当するビールが飲める特典付きです。これまでに500ポンド(およそ6万7000円)を売り上げました。

多くの客に戻ってきてほしいという思いから始めましたが、家賃や光熱費などの経費を賄うには不十分で、クラウドファンディングも利用し、店を維持するための資金を募っています。
(経営者 コナー・マクロフリンさん)
「ウイルスの感染を恐れて家にこもるような社会になってしまわないかが心配です。パブは、長年にわたってイギリス社会に根付いてきた文化なので、また多くの人が集うようになってほしい」

食材だった野菜を家庭へ

パブと並んでイギリス人の暮らしに欠かせないのが、軽食や紅茶を楽しむカフェです。カフェにも新しい工夫の動きが広がっています。
スコットランドにあるこの店では店内の営業を休止し、すべての従業員を自宅待機にしました。その一方、経営者の家族だけで新たに宅配サービスを始めました。
配達するのは野菜や果物。もとはカフェで出していた料理の食材や、併設する直売所で扱っていた商品です。その多くがスコットランド産。飲食店の休業が相次ぎ、地元の農家や卸売業者から、取り引き先を失って厳しい状況にあると聞き、宅配サービスを決めたといいます。
(経営者 ロス・タリフさんとジャッキー・タリフさん)
「これまでと同じ収入が得られるわけではありませんが、たとえ小規模であったとしても、私たちが野菜を売り続ければ、この厳しい時期に地元の農家や業者を支えることになると信じています」

買い物代行します

カフェの中には、小売業に転じるところも現れました。ロンドンにあるこの店では、食品や日用品の配達を始めました。外出制限がかかって以降、食品などを売る店では、買い物客の長い列ができるようになり、特に高齢者から買い物が大変だという声を聞いたからです。
オンラインで注文を受けた商品を、地域の店から集めて配達していて、扱っているのはコーヒーやチョコレート、トイレットペーパーなど多岐にわたります。

客席だった場所は、商品の保管スペースに改装しました。カフェを営んでいた時よりも、売り上げが増えたということです。
(オーナーのリンジー・ウォーさんとマネージャーのナンシー・ラミレスさん)
「私たちは地域の店の販売代理店のような役割だと思っています。お客さんに必要なものを届けるだけでなく、地域の店の役に立ち、一緒に働くことができるのはすばらしいことです」

パブやカフェは地域とともに

イギリスの人たちにとって、パブやカフェの存在は暮らしの一部です。瓶ビールやチケットの販売は、店が将来も続いてほしいと願う地元の人々に支えられてこそ成り立ちます。

イギリスでは、少なくとも来月上旬まで外出制限が続く見通しですが、こうした店が、通常どおりの営業をいつ再開できるのか、まだわかりません。

地域の人とともに歩んできたパブやカフェ。今の苦しいときを、地域の人との支え合いを大切にしながら乗り越えようとしています。
ロンドン支局長
向井麻里  
平成10年入局
国際部やシドニー支局を経て現在は英政治や社会問題など担当
ロンドン支局記者
栗原輝之  
平成11年入局
経済部などを経て現在はヨーロッパの経済を担当