新型コロナ 中国GDP初のマイナス 景気V字回復は難しい?

新型コロナ 中国GDP初のマイナス 景気V字回復は難しい?
新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済に猛威を振るっています。

中国のことし1~3月期・第1四半期のGDP=国内総生産は、マイナス6.8%に落ち込みました。

中国政府は「国内での感染拡大の勢いは基本的に抑え込んだ」として、『復工復産(=工業、産業の復興)』を掲げて、景気のV字回復を目指していますが、世界的に感染の拡大が収まらない中、軌道修正を迫られかねない事態も起きています。中国経済の実態を探ります。(中国総局 吉田稔、上海支局 石井一利、広州支局 馬場健夫)

初のマイナス成長の衝撃

今月17日、中国国家統計局がことしの第1四半期のGDPを発表しました。

世界で初めて、新型コロナウイルスの感染が確認された中国の経済全体への打撃はどれほどか。
結果は前年同期比でマイナス6.8%。

成長率は前の期から12ポイント余りも下落し、四半期ごとの統計が公表されている1992年以降、初めてマイナスに陥りました。

欧米や日本の統計手法と同じ「前期比」では、マイナス9.8%。これが1年続いた場合に換算した「年率」では、マイナス30%を超える水準になります。
中国はこれまで、数々の危機に直面してもプラス成長を維持してきました。2003年に「SARS」が広がった際、成長率が最も落ち込んだ第2四半期でもプラス9.1%。また、2008年のリーマンショックのあとは、2009年第1四半期にプラス6.4%まで落ち込んだあと、2010年にかけてV字回復を果たしました。

四半期のデータがない1991年以前でも、通年の成長率がマイナスになったのは1976年まで逆のぼります。

この年は中国の社会・経済に大混乱をもたらした文化大革命の最後の年。そこからも、今回のマイナス成長が異例のことだというのがおわかりいただけると思います。

「復工復産」は可能か!?

会見で国家統計局の毛盛勇報道官は「新型コロナウイルスが大きな影響を及ぼし、第1四半期の指標は、はっきりと落ち込んだ」と、打撃の大きさを認めました。

中国の報道官が記者会見で、落ち込みを素直に認めるのは非常に珍しいことですが、それだけ、中国経済の負った傷が大きかったことの表れと言えるかもしれません。

ただ、それ以降は強気の発言が続きました。その根拠となったのが、同時に発表された3月の工業生産のデータです。1~2月は前年同期比マイナス13.5%まで落ち込んだ工業生産は、3月はマイナス1.1%まで急回復しました。
毛報道官は、これを引き合いに「政府が目指す『復工復産』は順調に進んでいる。政府の力強い対策で第2四半期以降はさらによくなる」と述べ、V字回復も可能だという見解を示しました。

しかし、中国各地の現場に足を運ぶと、毛報道官の強気の発言とは異なる様相も見えてきます。それを探るキーワードが「消費マインドの回復の遅れ」と「細る外需」です。

企業や人の活動が再開し始めた上海

4月以降の消費の実態はどうなのか。

それをまず、中国最大の経済都市・上海で探ってみます。
上海の観光地には人出も戻り、結婚式用の写真を撮影するカップルの姿もみられるほどになっています。さらに、感染拡大で長期間の休業を余儀なくされた企業や店舗も、活動を再開しています。

その一方で、サービス業のなかには、感染への懸念がくすぶるなか、再開後も厳しい経営が続いているところも多くあるのが実情です。

スポーツジムは感染防止徹底し営業

そうした企業の1つ。上海で最大規模のスポーツジムは、3月2日、およそ1か月ぶりに営業を再開しました。その際、徹底したのが感染防止対策です。
利用者には、建物の入り口で体温検査をしたうえで、感染者などとの接触がないか確認できるQRコードの提示を求めています。
施設内では、至る所に消毒用のアルコールを置き、運動に使う器具やエレベーターなどを、くまなく消毒するため新たに15人の従業員も雇用しました。

さらに、換気のために窓を開けたジムの中では、およそ40人のトレーナーは、全員、マスクをしています。
音楽などに合わせて身体を動かすクラスでは、人数をこれまでの半分に絞り、参加者どうしの距離も空けるようにしました。

なぜ、ここまで徹底するのか。1つの理由は、万一ジムから感染者が出れば、再び営業停止になるリスクを抱えていることがあります。

そして、もう1つの理由が、4月以降も戻らない消費マインドです。
近年、健康ブームもあり、会員数が毎年2割も増え続け急成長してきたというこのジム。
しかし、再開後の会員数は、逆に2割も減少したといいます。中国政府は「国内での感染拡大は基本的に抑えた」と成果を強調していますが、政府発表への信頼が薄い上、欧米から帰国した人で感染が確認されるケースが後を絶たず、一般の消費者の間で警戒感が持続しているのです。

なかなか戻らない消費マインドは、中国各地で猛威を振るった「新型コロナウイルスの後遺症」と言えるかもしれません。

新たなビジネスモデルを

回復しない消費マインドをどう刺激するのか。

このジムの運営会社が、新たに取り組んでいるのが、自宅での運動を促す新たなビジネスです。家庭で気軽に運動できる器具を独自に開発。100種類以上の運動ができるなどとして、今後、日本円でおよそ6万円で、販売することを計画しています。
さらに、ネット上には、トレーナーの動画中継を投稿。

トレーナーが、ペットボトルなど身近なものを使った運動などを紹介し、会員の減少を補う、新たなビジネスにできないかと模索しています。
スポーツジムの責任者、金竜さんは、「今回の感染を通じた反省を生かし、多くの授業をネット上で行うようにしました。家庭でできる運動などが、われわれの新しいビジネスモデルになると思います」と、以前とは違った新たなビジネスがなければ、成長が見込めないと話していました。

海外の消費低迷で、冷え込む「世界の工場」

一方、製造業も苦境に立たされています。「世界の工場」と言われる広東省のケースです。

4月上旬、欧米などに輸出してきた広州の靴メーカーの工場を訪ねると、閑散とした状況でした。
入り口に貼られた通知文には「海外の注文がキャンセルされたため、4月から生産停止。全従業員は休暇とする」と書かれていました。

こうした状況が、広東省では今、相次いでいます。

マスク生産で打開を

「2003年のSARSや、2008年のリーマンショックよりも影響は大きい。すべての計画が狂ってしまい、重苦しい気持ちだ」
こう漏らしたのは、広東省東莞の靴部材メーカーの何家明社長です。

何社長の工場では、欧米など海外向けが売り上げの6割を占めていましたが、その注文はこれまでにほぼキャンセルに。工場も1日おきしか操業できず、出展を計画していたアメリカなど海外での展示会も参加できなくなりました。

広東省などの工場では、2月から3月にかけては、感染拡大を防ぐための操業停止や、帰省した従業員の復帰の遅れによる人手不足が課題でした。それが、操業をようやく本格的に再開した今になって、今度は世界的な感染拡大で、海外からの受注が蒸発するようになくなってしまったのです。
何社長が、およそ60人の従業員の雇用維持に向けて取り組んだのは、「マスクの生産」です。

設備投資はかさみましたが、機械を新たに導入して、3月から24時間態勢で生産を開始。海外にも輸出しています。
何社長は「経験がなく、勉強しながらで大変ですが頑張ります」と話していました。

雇用にも影響、あぶれる労働者たち

影響は雇用にも及んでいます。

「1着、加工賃11元(日本円で160円程度)だよ」

広州郊外で服飾工場が密集する地区では、大勢の労働者が仕事を得ようと、工場の担当者を取り囲んでいました。仕事にありつけず、道端に座り込む人の姿も目立ちます。
あまりの人の多さに、地区の管理者がサイレンを鳴らし、労働者を追い払う場面も見られました。集まっていた労働者に話を聞くと、口々に厳しい実態を明かしてくれました。

「仕事の単価が、去年より10%くらい安くなっている」
「多くの工場が倒産して、仕事を探す人が増えている」
「仕事量が減った。このまま探せないなら故郷に帰るつもりだ」

雇用悪化で悪影響が循環

こうした事態を踏まえ、専門家は中国経済のV字回復は厳しいという見通しを示しています。

中国経済が専門の日本総研の関辰一主任研究員は「すでに閉鎖した店舗や工場では投資の先送りや人員のリストラが行われている。企業所得の下振れだけでなく、失業者の増加で家計も消費を抑えようという動きが出ている」と内需の回復の弱さを指摘します。
さらに、外需についても「世界的に感染拡大が見られる中で、中国の輸出がリーマンショック以上に下振れするリスクも出ている」という厳しい見通しを示しています。

このまま内需、外需とも弱さが続けば、中国政府がもくろむ『復工復産』は軌道修正を迫られることになりかねません。
中国は今や世界第2の経済大国。世界経済のGDPに占める割合も16%とリーマンショックの頃と比べて、10ポイント程度も上昇しています。中国の回復の道筋が思うように描けなければ、日本をはじめとする世界経済の回復の遅れにもつながりかねません。

消費マインド、外需。この2つをキーワードに、今後も中国経済を注視し続ける必要があるでしょう。
中国総局
吉田稔
平成12年入局
経済部で財政・貿易を担当
上海支局
石井一利
平成10年入局
国際部、広州支局、中国総局を経て現職
広州支局
馬場健夫
平成19年入局
秋田局、名古屋局、国際部を経て現職