“見えない敵との戦時下”でも続くアメリカの「二極化」

“見えない敵との戦時下”でも続くアメリカの「二極化」
新型コロナウイルスの感染拡大が続くアメリカ。“戦時下”とも言われるこの緊急事態にアメリカの国民はトランプ大統領の対応をどう評価しているのか。浮かび上がってきたのは、やはり「分断」に似たものだった。(ワシントン支局記者 西河篤俊)

物議を醸した記者会見でのビデオ上映

連日、開かれているトランプ大統領の記者会見。新型コロナウイルスの感染拡大に対する政府の対応を説明する場だ。しかし、成果を強調する場面が多く「選挙に向けたPRだ」との批判も出ている。

先日(13日)、その最たるものを目にすることになった。
会見中に、突然、流れ始めたビデオ。そこでは、主要テレビ局のニュース映像を並べ、「アメリカのメディアは当初、新型コロナウイルスの脅威を軽視していた」と主張した。

さらに、何人かの州知事が、トランプ政権の対応をたたえるシーンが次々と流れた。

「トランプ政権の対応は、まっとうだった」と批判をかわす内容だ。

毎日のように、ほとんどのテレビ局が記者会見を中継しているのだが、さすがにこの日、MSNBCは中継を打ち切り、キャスターが「本来あるべき記者会見の姿ではない。このプロパガンダを放送するわけにはいかない」とコメントしていた。
そしてビデオが上映された直後、最前列に座っていた3大ネットワークの1つ、CBSの女性記者が早速かみついた。
トランプ大統領は、強い口調で反撃した。
「きみはそんなこと言って恥ずかしくないのか。自分がフェイクだってわかってるだろ。きみのテレビ局もだ。報じ方もフェイクだ。みんな(視聴者)それをわかってるんだよ。だからきみのところの視聴率は低くなってるんだ」

トランプ会見こそが心の支え

こうした会見を、アメリカの人たちはどう見ているのか。
南部フロリダ州に暮らすバリー・フェタロルフさん(69)に連絡をとってみた。根っからのトランプ支持者だ。

フェタロルフさんは、去年6月、私たちの取材に自宅で応じてくれた。しかし、いまは、自宅を訪ねることができないので、テレビ電話で話を聞いた。
フェタロルフさん
「トランプ大統領を強く支持します。この状況下において、彼の努力、スタミナは称賛に値します。毎日、記者会見をやってるんですよ。さまざまな専門家とともに、トランプ大統領がこの問題にどう対処しているか見ることがわれわれにとっては重要です。透明性も確保されてます」
一方で、トランプ大統領に攻撃的な態度をとるメディアには不信感を募らせていた。
フェタロルフさん
「このような未曽有の危機に立ち向かっている現職の大統領を攻撃するなんて見ていられないですよ。みんな『政治』は脇に置いて、大統領の努力を支持するべきですよ」
フェタロルフさんは、退役軍人でベトナム戦争も経験している。それだけに、こうした事態でも精神的にも強くいるのだろうと勝手に思っていたが、実際は違った。
フェタロルフさん
「日常生活はあらゆる面で変わりました。私が住んでいる周辺は、娯楽やレストランなどが多く、とても活気のある地区でした。今はすべて閉まっています。私は退役軍人です。ストレスが多い状況にも耐えてきました。でも、こんなことは今まで経験したこともなく、どうやって対処していいかわかりません。妻はとても怖がっています」
その不安を落ち着かせてくれるのが、トランプ大統領の日々の会見というのだ。
テレビ電話での取材中、フェタロルフさんが、ある小包を見せてくれた。中には、妻の手製のマスクが入っているそうだ。ニューヨークの隣、ニュージャージー州で暮らす孫に送るためだという。

物資が不足する「感染の中心地」に暮らす孫のことが自分たち以上に心配だという。
そこには、「優しいおじいちゃん」の表情しかなかった。

データで見る「トランプ大統領への評価」

しかし、フェタロルフさんのような人ばかりではなく、トランプ大統領に対する国民の評価は分かれている。
アメリカで新型ウイルスが広がった3月下旬。トランプ大統領の支持率は、上昇。4月1日には、就任以降最高の47.4%を記録した。
その数字には、記者会見の「効果」もあったはずだ。

しかし、その後、支持率は46.0%と微減した。(23日現在)

アメリカの調査会社「モーニングコンサルト」の世論調査では、トランプ大統領の新型コロナへの対応を「支持する」は45%。「支持しない」は49%と評価は真っ二つだ。

“評価”から“失望”へ

先行きが見えない不安の中で、トランプ大統領の会見によって救われている、という人もいれば、会見をこんな風に見ている人もいる。
フロリダ州に住むロバート・レズニックさん(53)は民主党支持者。ちなみにレズニックさんも退役軍人で、今は大学講師をしている。

3月に取材した時には、民主党支持者ながらも、トランプ大統領が早い段階で「国家非常事態」を宣言したことを評価していたレズニックさん。しかし、ここ最近は、不信感が募っているという。連日の記者会見が、選挙活動の一環にしか見えないと感じている。
レズニックさん
「日々、失望しています。テレビ局は、彼が大統領だから中継します。しかし、この危機を脱するために、トランプ大統領は国民に説明する必要があるのに、やっているのは『選挙集会』です。うんざりさせられますし、非難されるべきです」
さらに記者会見の情報性にも不満を募らせていた。
レズニックさん
「私はファウチ博士(対策チームのメンバーで感染症の専門家)の意見を聞きたいのに、トランプ大統領は、彼の発言を制止してしゃべらせないんです。1、2時間も会見するのに、国民に情報はもたらされないんです。あんな中継は取りやめるべきです」
そのレズニックさんも、感染拡大の長期化で生活への不安が募っているという。
国家的な危機の最中なのに、なぜこうも評価が割れるのか。専門家は、今の状況をこう分析する。
アダム・ホワイト研究員
「アメリカ国民の間で、この危機の解決を望む思いは共通している。ただ、共和党にも民主党にも熱心な支持者がいて、双方の間には強い不信感がある。そして、与野党の政治家はこの危機を政治的な道具として利用し、その不信感をあおっている。この危機は、トランプ大統領の誕生で進んだアメリカの分断をより深めるだろう」

アメリカが直面する現実

戦争やテロなどの緊急事態のたびに、団結を深めてきたアメリカ社会。しかし、新型コロナウイルスがもたらそうとしているのは、団結ではなく、より深いアメリカの分断なのかもしれない。
「感染のピークは越えた」「早期の経済活動再開を」というような“前向き”な発言が、トランプ大統領や政治家たちの間で、目立つようになってきている。

これを受け、全米各地では、外出制限下で経済活動の再開を訴えるデモが相次ぐという事態まで起きている。かたや、早期の経済活動再開はさらなる感染拡大につながりかねないと、慎重な意見もある。
今、アメリカが直面しているのは、感染者、死者、いずれも世界で最も多いという現実だ。

4月23日、アメリカでの死者は4万7000人を超えた。これは、アメリカでの「年間の銃による死者数」や「年間の交通事故による死者数」を上回る。わずか2か月足らずの間に、だ。

1日800人以上という信じられないペースで多くの人が亡くなっている。

深まる分断は、アメリカの回復を遅らせるのではないか。
「コロナ後」を語るのは、まだ、早い。
ワシントン支局記者
西河篤俊
2001年入局。
神戸局、大阪局などをへてカイロ駐在。その後、国際部、報道局遊軍をへて2017年からワシントン駐在。