政府の景気判断 約11年ぶり「悪化」 地域からの報告

政府の景気判断 約11年ぶり「悪化」 地域からの報告
「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に悪化しており、極めて厳しい状況にある」
政府は、23日にまとめた今月の月例経済報告で、景気の現状について、こう表現し、景気判断を先月に続き2か月連続で下方修正しました。景気判断に「悪化」の表現が入るのは、リーマンショックのあとの2009年5月以来、10年11か月ぶりのことです。日に日に厳しさを増している製造業の現場、そして事業者から融資の相談が殺到している信用金庫の営業の最前線からの報告です。

終わりが見えない…製造業の現場

昭和34年創業の松江市の金属加工会社は、金属部品に熱を加えて強度を高める高度な技術を武器に大手自動車メーカーにも製品を納入してきました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、取引先のマツダが3月下旬から工場の稼働日をおよそ半分に減らすなど、生産を大幅に縮小したことで、この会社にも影響が直撃しています。
マツダにおさめる部品を加工していた2つの「熱処理炉」は、これまではつねに24時間態勢で稼働させてきましたが、今回、2つとも停止させることに。さらに、電気自動車の部品を製造する機械は、全部で11台ありますが、5台しか稼働していません。5月の売り上げは前の年の同じ時期と比べて半分ほどに落ち込む見通しだということです。

社長の金崎芳男さんは「経験がないことで不安だ。終わりが見えないものはどうしようもない」と嘆きます。
売り上げが減る中、60人余りの従業員の雇用を守るため、この会社では、勤務時間を短くしたり、休日を増やしたりして、やりくりする予定ですが、残業もほとんどなくなり、給料は1割ほど減ってしまいます。仕事が次々に減る中、設備の維持などにかかる経費は毎月400万円で、この状況が続けば、金融機関から融資を受けることも考えざるをえないといいます。
金崎社長は「従業員が安心して仕事ができるような方向に向かえばと毎日願っている。そのためにもいろいろな面で支援が必要だ。会社全体で耐えて、頑張っていく」と話していました。

営業に力を入れる企業も

一方、この苦境を乗り越えようと、営業に力を入れる企業もあります。島根県雲南市の板金加工会社では、飲食店などで使われるちゅう房設備の部品を製造しています。しかし、外出の自粛要請で外食産業は、軒並み業績が落ち込み、この会社でも来月の売り上げは3割ほど減る見通しだといいます。

受注を確保しようと、新たな取引先を開拓したいところですが、県外出張もままならず、営業は電話やメールでのみ。営業課の社員全員でつきあいのある企業にあたっていきますが、急速に景気が悪化する中、新規の注文をとるのは容易なことではないといいます。連日、60件近くの営業をかけていて、新たな受注もあるものの、なかなか今後の見通しは立ちません。

小山久紀社長は「ことしになってからはやはり、新型コロナウイルスの影響がかなり出ていて、6月以降は全く見えていないような状況だ。絶対的に経済が回ってないので新たな受注も量自体は多くなく、経営陣としては最悪を想定して、日々、最善を尽くしていくことになると思う」と話していました。

融資の相談が殺到 信用金庫の現場は

感染拡大の影響で金融機関に支援を求める飲食店などの事業者が増え続けています。その相談を受ける金融機関もいわば非常事態の中で業務を行っています。
福岡県久留米市に本店がある筑後信用金庫の営業担当の森永源司さんは、運転資金を求める事業者から相談を受ける毎日を送っています。この日、訪れたラーメン店では感染拡大の影響で、4月から夜の営業を取りやめていました。

融資の相談のなかで森永さんは「元金据え置きにしたとしても1年後、2年後の返済がまた増えるという感じになるので、それを考えての融資という形にしたほうがあとあと苦労もしないと思う」と伝えました。
ラーメン店を経営する鬼塚清志さんは、返済が長い期間続くことにプレッシャーを感じていました。売り上げが元に戻らなければ、毎月の返済が苦しくなるからです。鬼塚さんは「いま戦える力がなければその先にやろうとしても、その先がないじゃないですか。それでもできるところはお願いしたい」と話します。

一方、信用金庫の森永さんも、プレッシャーを感じていました。返済の見通しが立たない融資は避けなければならないからです。森永さんは「無理ない金額を提示させていただくという形でやっていかないといけないので、そのあたりは難しいところですね」と話していました。
相談の結果、このラーメン店は、追加の融資を検討することになりました。
信用金庫本店の営業部では、いま、融資の相談が殺到しています。丸山裕一部長は「1月、2月はインバウンド関係や旅行業者、3月には飲食店が増えてきて、4月からはあらゆる業種からの相談がきている」と話します。
この信用金庫では毎週月曜日に営業担当者の会議を開いていて、この日の会議では、運転資金の融資を急ぐよう、求められているという報告が相次ぎました。
営業担当者の間からは「できれば4月中に融資をやりたい」とか「月末の支払いに使いたいということだったので、急いで対応する」といった報告が出されていました。

低金利や保証料の免除などさまざまな支援で、事業者にとっては融資が受けやすくなっています。しかし、信用金庫としては、貸し倒れのリスクを避けながら、殺到する相談をこなしていかなければなりません。

丸山部長は「終えんがみえないので、どこまで悪くなるのかというのが不安だ。それを融資で補えられるのかというところがあり、暗中模索でやっている」と話していました。
森永さんが担当するラーメン店では、少しでも売り上げを回復させようと、ラーメンのテイクアウトを新たに始めていました。スープはペットボトルに入れ、チャーシューなどの具材もセットで販売します。自宅でも同じラーメンを味わえると好評だといいます。

ラーメン店の鬼塚さんは「もう待っていてもだめだと。だから、チェンジ、切り替えていかないと。少しずつですけど、前に進めているかなと思う」と前向きです。
森永さんは、ラーメン店がみずからの努力で前に進み始めたことに安心したということで、「今だからこそお客さんの力になるのが一番なので、良い商品を提示できたらいいなと思う」と話しています。