“オンライン教育”は救世主になる?

“オンライン教育”は救世主になる?
全国で続く休校で、クラスメートの顔も知らない新1年生もいるそうです。新型コロナウイルスの影響で、教育現場はかつてない状況に陥っています。そうした中、注目を集めているのが、「オンライン教育」です。
(社会部記者 伊津見総一郎 鈴木康太)

公立の先進校を訪ねた

いったいオンライン教育とは、どんなものなのか。福島県に先進的なオンライン教育を行っている公立学校があると聞き取材しました。
福島県広野町にある県立の中高一貫校、「ふたば未来学園」です。東京電力福島第一原発の事故でふるさとから離れた子どもたちにもう一度、学びの場を与えようと設立されました。
学校では全国に先駆けて、生徒1人にタブレット端末を1台貸与。新型コロナウイルスが大きな問題となる前から、インターネットを活用した授業に取り組んできました。

休校となってからは、生徒たちとオンラインでつないだ授業だけでなく健康状態もチェックしたそうです。
なかなか友人と会えない生徒たちのため、オンライン上で、一緒に昼食をとるユニークな取り組みも始めました。

先生「これはありかなと」

すでに、生徒たちはオンライン上で楽しそうにやりとりしています。ただ、先生たちは大変じゃないのかなと思って聞くと、印象的な言葉が返ってきました。
新田健斗教諭
「使ってみると『意外に面白い!』という声が多いです。教員より子どもたちの方が慣れていて多様な意見を吸い上げられ、1対1の時間も作りやすいです。これまでの学校ではできなかったことも可能でひとつの形として『ありかな』と思います」

日本は“オンライン教育後進国”

しかし、こうした取り組みを全国の学校がすぐにやれるのかというと現実は甘くないようです。

日本は、子どもたちの学力は、世界トップクラスですが、オンライン教育の普及についてはOECD加盟国の中で、遅れをとっています。昨年度の時点で、日本はパソコンなどの端末が5人に1台ない状態です。
さらに、OECDの調査(2018)では学校でのパソコンなどの使用頻度は、加盟国中、最下位でした。

実際に新型コロナウイルスで、全国で休校が始まったあと、国が調査したところ、パソコンなどの端末を使って、対面でのオンライン指導に取り組んでいる自治体はわずか5%でした。

日本におけるオンライン教育は、去年、安倍総理大臣が、すべての小中学生にパソコンなどの端末を整備する考えを表明し、文部科学省も、高速通信網を整備する「GIGA(ギガ)スクール構想」を掲げましたがまだ動き出したばかり。

それらが実現する前に、日本の学校現場を新型コロナウイルスが直撃する結果となったのです。

オンライン人気が急上昇

ただし、民間企業の動きは活発です。
今、ネット上では、「無料のオンライン教材」をうたった、学習塾や民間企業の広告がいたる所で目に入ります。

新規参入も相次ぎ、野村総合研究所の調査では市場規模は2023年に3103億円に達すると見られています。

ある都立高校の関係者は現場の実情を次のように話しました。
「今月も民間企業から教材の売り込みがありました。お気持ちはありがたいのですが長期的な費用も考えないといけないので、慎重に検討しています」

動きだした経済産業省

こうした民間企業の動きを後押ししているのは、経済産業省です。文部科学省が、小中学校や高校などを所管するのに対し、経済産業省は、学習塾などを所管しています。
2017年に教育産業室を設置し最先端の技術を活用した『エドテック』(Education Technology)を、推進してきました。

そのキーパーソン、浅野大介さんに真意を聞きました。

これからの社会で通用する人材を

浅野大介 教育産業室長
「これからよりクリエイティブな能力が社会で求められていく中で、小中学校の教育から変えなければ『食える』人材が育たないと考えました。現在の教育現場は『こうでないといけない』という自己規定、しばりが強いと感じます。毎年、同じような学習コンテンツを渡され、投げられたボールを打ち返すだけではこれからの社会では通用しません。子どもたちにパソコンを渡すことは『自由の翼』を与えることと考えます」
文部科学省とのすみ分けは可能でしょうか?
浅野大介 教育産業室長
「文教政策といえば、文科省という考え方はあるかもしれないが、“競争”と“協奏”がないと発展はありません。文科省とは、アンチテーゼではなくて、『個性が違う友達』だと考えています。教育改革も一緒に取り組まなければ絵に描いた餅になるので、実現に向けて、一緒に汗をかきたい」

気になる学習の遅れ~文科省の担当者に聞く

一方の文部科学省。
実は小学校では、この春から、新しい学習指導要領のもと、子どもたちが主体的に学習に関わるアクティブラーニングが本格的に始まり、さらに、プログラミング教育の導入や英語が教科化されるなど大きな変革の年といわれていました。

しかし、新型コロナによる休校により、その構想はスタートから大きく出遅れることになりました。

文部科学省は、今月に入って、オンライン学習でも成績評価ができるようにしました。さらに家庭学習で学んだ内容は学校側がテストなどで定着していることが確認できれば授業で扱わなくてもいいとする特例措置を認めるなど、対応に追われています。

担当する文部科学省の高谷浩樹さんに話を聞きました。
高谷浩樹 情報教育・外国語教育課長
「学校のICT(情報通信技術)化が進まず、結果として、社会から取り残されて自治体ごとの差が生まれてしまいました。文部科学省も思うように導入を進めることができず、スピード感をもって予算化など進めています」
全国で休校は長期化しています。新しい学習指導要領ではアクティブラーニングを掲げていますが、大丈夫でしょうか?
高谷浩樹 情報教育・外国語教育課長
「オンライン教育は、アクティブラーニングが目指す主体的かつ対話的な学びのツールとして、大きな役割を果たすと思います。小学校では対面指導や集団生活など今の学校の重要性に変わりはないですが、オンライン教育が、新たな付加価値となるよう、取り組みを進めて、休校が続いても、子どもたちにしわ寄せがいかないようにしなければいけません」
未曾有の事態を前に、大混乱が続く教育現場。憲法にも明記された教育を受ける権利をどうやって保障するのか。
オンライン教育の推進が、大きな助けとなることは確かですが、課題は山積みです。

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