原油急落 関連企業の破綻や産油国の経済・政治の不安定化も

原油急落 関連企業の破綻や産油国の経済・政治の不安定化も
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世界的な原油価格の下落について、エネルギー情勢に詳しい専門家は、著しい価格下落は石油関連企業の破綻や産油国の経済や政治の不安定化などをもたらすおそれがあると警戒を強めています。
日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「欧米などの都市封鎖で人の移動が制限され、石油の需要が大きく減っている。需要の回復は新型コロナウイルスの収束にかかっているが、楽観視できず、ことしは世界で9%から10%ほど石油の需要が減少するのではないか」と現状を分析しました。

そのうえで、原油価格の下落が続いた場合の影響について小山首席研究員は「石油関連企業への打撃が大きい。アメリカのシェールオイルの関連企業は零細や中小の規模が多く、破綻すれば借り入れていた資金が不良資産化し、金融システムに信用上の問題を引き起こして世界全体の経済を揺さぶるおそれがある」と指摘しました。

さらに「原油価格の下落によって原油に依存している中東などの産油国の窮乏化が進み、国の体制が不安定化するおそれがある。そうなれば将来の石油の安定供給に問題が出てくる可能性も考えなければならない。著しい原油価格の下落はわれわれの生活にとっても見逃すことのできない大問題につながる可能性がある」と述べ、警戒を強めています。

限られるガソリン安の恩恵

原油価格の下落はガソリン価格の値下がりにつながるため自動車を運転する消費者などにとってはプラスになりますが、今は、その恩恵も限られます。

石油元売り各社で作る「石油連盟」は、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出される中、自動車を運転する機会が減り、ガソリン価格が下がっても需要が伸びない状況になっているとみています。自動車での移動が増える大型連休中も、不要不急の帰省や旅行などを避ける動きでガソリン需要の落ち込みは続くと予想しています。

経済産業省によりますと、需要の落ち込みを受け、ガソリンスタンドの中には販売量が2割から3割減り、営業時間を短縮しているところも出ているということです。感染拡大が収まらず自動車を使う機会が少ない状況が続けば、経営が厳しくなるガソリンスタンドがでてくるおそれがあるとして原油価格の動きを注視しています。

ロンドン 21年ぶり安値

原油の先物市場で価格が急落する中、22日のロンドン市場でも原油の先物価格が一時、およそ21年ぶりの水準まで値下がりしました。

ロンドン市場で取り引きされる北海産の原油の先物価格は、22日、前日より17%以上安い1バレル=15ドル台後半まで値下がりしました。これは1999年6月以来、およそ21年ぶりの安値です。

また、ニューヨーク市場のWTIの先物価格は、一時、マイナスに落ち込んだ5月物に代わって6月物が取り引きの中心となり、日本時間の午後6時の時点で1バレル=11ドル台に低迷しています。

国際的な原油市場では、新型コロナウイルスの影響で需要が大きく落ち込んでいることから、供給過剰への警戒感が一段と強まっていて、各市場での価格の下落につながっています。

新型コロナと原油安 経済への影響は

原油市場は新型コロナウイルスの感染拡大による需要の落ち込みが世界的な生産過剰につながり、先物価格の急落が続いています。

20日には、ニューヨーク原油市場で国際的な指標となるWTIの5月物の先物価格が、先週末の1バレル=18ドル台から急落。

事実上、買い手がつかず価格がマイナスに落ち込むという異例の事態が起きました。

お金を払ってでも原油を引き取ってほしいと、いわば投げ売りに近い状況が起きたのです。

感染拡大で経済活動が制限され、石油の在庫が積み上がり、アメリカで原油を貯蔵するタンクなどがいっぱいになり保管できなくなるのではないかと懸念した投資家が売り急ぎ価格をマイナスまで押し下げました。

21日もニューヨーク原油市場の動揺はおさまらず、WTIの6月物の先物価格が、一時、1バレル=6ドル台に急落。

ロンドンの原油市場、東京市場でも、原油の先物価格は大幅に下落しました。

原油価格の急落は世界経済の先行きに不透明感をもたらし、株式市場にも不安定な動きが広がっています。

東京株式市場では日経平均株価が一時、2週間ぶりに1万9000円を下回りました。

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、原油の需要が大きく回復するのは難しいと見られます。

例えば、航空需要。世界の航空会社が加盟するIATA・国際航空運送協会によりますと今月上旬に世界各地で運航された航空便の本数はことしの初めに比べて、およそ80%減っています。

日本でも全日空、日本航空ともに今月の国際線の本数は当初の計画よりおよそ90%減り、国内線も半減しています。

また自動車の需要も落ち込んでいます。アメリカ、ヨーロッパ中国、インドといった世界の主要な自動車市場の3月の販売台数は、前の年に比べて、およそ40%から60%減少しています。

厳しい対応迫られる産油国

原油の先物価格の急落を受けて、産油国は対応を迫られています。原油価格の低迷が長期化すれば国の財政や経済がさらに大きな打撃を受け、社会不安が広がるなどの深刻な影響が懸念されるからです。

サウジアラビアが主導するOPEC=石油輸出国機構とロシアなど非加盟の産油国は、原油価格を引き上げるため、すでに今月12日、世界の原油生産量のおよそ1割に当たる1日あたり970万バレルを協調して減産することで合意し、5月から減産を開始することになっています。

また、世界最大の産油国のアメリカなども生産量を減らす見通しになっています。

しかし、IEA=国際エネルギー機関は、「短期間での急激な需要の減少を供給面から解消できるほどの合意はない」として、新型ウイルスの感染拡大の影響で需要が一気に大きく落ち込んだ現状では、産油国が減産をしても需給のバランスをとるのは難しいという認識を示しています。

OPECと非加盟の産油国の一部は原油の先物価格の急落を受け、21日に非公式のテレビ会議を開いて対応を協議しましたが、ロイター通信は、協議の鍵を握るサウジアラビアやロシアは参加せず、減産の開始時期を早めるなどの具体策は打ち出されなかったと伝えています。

また、OPECなどの産油国の間では、協調減産の枠組みに参加しない産油国との間で減産の協力についての明確な合意がない現状では、今後、自分たちだけでさらなる追加の減産を行ったところで市場でのシェアを一方的に失うだけだという警戒感が根強く、難しい状況に置かれています。