NY外出制限から1か月 感染者数は 経済は 医療体制は

NY外出制限から1か月 感染者数は 経済は 医療体制は
アメリカで、新型コロナウイルスの感染者がもっとも多い東部ニューヨーク州が厳しい外出制限を始めてから、22日で1か月になります。感染者の増加のペースは緩やかになりつつありますが、州政府は外出制限を5月15日まで延長していて、経済活動の再開は20日に始めた「抗体検査」で感染の実態を把握したうえで慎重に判断していくことにしています。
ニューヨーク州が新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため、警察や食料品の販売店などで働く人を除くすべての人の出勤を禁じる行政命令を出してから、22日で1か月になります。

対策の陣頭指揮にあたるクオモ知事は21日の会見で、あらたに481人の感染者が死亡したとする一方、入院する人や集中治療室で治療を受ける人の数は減り続けているとして、感染はピークを過ぎたという認識を示しました。

ただ、医療従事者や医療器具の不足は依然として深刻で、州は医学部の学生を医療現場に派遣するよう指示を出したり、他の州の医師にも支援を呼びかけたりしています。

経済にも深刻な影響が及び、失業保険の申請件数は先週までの4週間で合わせて118万件にのぼっています。

ニューヨーク州は外出制限を来月15日まで延長していて、経済活動の再開は20日に始めた「抗体検査」で州の人口のどれくらいがすでに感染したことがあるのかなど、実態を把握したうえで慎重に判断することにしています。

学校では一般市民に食事の提供も

感染者が13万人を超えるニューヨーク市では、先月外出制限が始まって以降、一般の市民を対象に、1日30万食の食事を無料で提供しています。

市内の学校では、外出制限が始まる前は、児童や生徒に無料で食事を提供していましたが、ニューヨーク市は外出制限の開始とともに、仕事を失ったり食事を作ることが難しかったりする人など、対象を一般の市民に拡大しました。

このため、休校中でも、400を超える学校の校舎では食事の提供が続けられています。

このうち、ブルックリンにある小学校では、調理を担当する職員らが届いた食材を受け取り、食事の準備をしていました。

昼食の時間帯になると、大勢の人が学校を訪れ、互いに間隔を空けて並んで、食事を受け取っていました。

この地域で食事の提供の責任者を務めるペギー・ボバディラさんは、「外出制限の前は1日50食くらい準備すればよかったが、いまは1日2000食を配っている。こうしたサービスは、地域全体で人々が食べるものに困らないようにするためのとても重要な事業だ」と話しています。

日本人医師「依然厳しい状態」

感染症が専門で、ニューヨーク近郊の病院に勤務する斎藤孝医師は、医療現場が置かれている状況は依然厳しいと言います。

斎藤医師は、先月下旬に比べて、治療のため病院に来る感染者の数は僅かに減ってきたとしたうえで、「まだ入院している患者は多く、多くの人が亡くなっていっている状態だ」と話しています。

また、医療従事者が着用するマスクなどの防護用品についても、「時々、新たに入荷することもあるようだが、不足は続いている。1日使ったマスクを消毒して再び使っている」と述べ、供給が安定していないと訴えました。

そのうえで、「ニューヨークでは感染者の数がピークに達した、ピークを過ぎたといわれ、ここから減っていくかもしれないという見方が医療従事者の励みになっている。しかし現実には、このままピークの状態が続くのか、そしてひっ迫した状況がいつまで続くのかわからない」と述べ、医療現場では長期にわたり厳しい状況が続く可能性があると指摘しています。

治療にあたった医師「何があろうと感染してはいけない」

感染拡大が最も深刻なニューヨークに入り、ボランティアとして治療にあたった医師がNHKのインタビューに応じ、高齢の患者が、症状が急速に悪化して家族にみとられることなく死を迎えている状況を克明に語りました。

感染者が集中するニューヨークでは、増え続ける患者に医療態勢が追いつかない状況が今も続いていて、デブラシオ市長は来月までに4万5000人の医療ボランティアが必要だとしていますが、これまでに派遣されたのはおよそ3000人にとどまっています。

ニューヨーク州の最北部の町で小児科医として勤務するグレッチェン・ボルクさんは、みずから志願して18日までの5日間、感染者を重点的に受け入れているブルックリンの拠点病院で医療活動にあたり、その間、たびたびNHKの取材に応じてくれました。

ボルクさんによると、現場では医療従事者用のマスクが足りず、ボルクさんにはN95というマスクが5日間で1枚しか割り当てられませんでした。

このためマスクの効果の低下を補うためN95の上に、さらに2枚のマスクをつけて活動したということです。

この病院でボルクさんは、オペラ歌手だったという高齢の女性の患者を担当するようになりました。

この女性についてボルクさんは「マスクをして歌いづらそうでしたが、私にフランス語で美しい歌声を聴かせてくれました。ところがある晩、激しい息切れに見舞われ、その後、どうしても息ができなくなりました。私は酸素供給量を最大に引き上げました。彼女はとても怖がり、どこにも行かないで、と私の手を握りしめました。医師らを呼んで3時間ほど付き添いました。見ていることが怖かった。そして彼女は、これ以上、生きながらえることができないと診断されました。私は家族に電話し動画で彼女が苦しむ状況を見せて、これ以上、闘うことをやめ楽にしてあげるべきかどうかを判断するときだと伝えました。そして、その晩のシフト勤務が終わる1時間前に彼女は息をひきとりました」と語り、高齢の患者が急速に症状が悪化して孤独に死を迎えている状況を明らかにしました。

さらにボルクさんは「家族に付き添われることなくベッドの上で苦しんでいる患者たちの姿を、私は初めて目にしました。病室に戻ってみると、酸素チューブが外れた状態の患者を何度見たことでしょう。付き添いの家族がいれば、こんなことは起きなかったはずです」と振り返りました。

そしてインタビューの最後にボルクさんは「新型コロナウイルスウイルスに何があろうと感染してはいけない。このことこそが、日本の皆さんへのメッセージです」と語りました。

軍の病院船 NYでの活動終了へ

医療機関の負担を減らすためニューヨークの港に派遣されていたアメリカ軍の病院船についてトランプ大統領は、クオモ知事の了解が得られたとして、活動を終えると発表しました。

この病院船は最大で1000床を備え、医療従事者など1200人が乗船していて、当初、新型コロナウイルスの感染者以外の患者の治療に当たっていましたが、患者の数が少なく、今月6日以降は新型コロナウイルスの感染者の受け入れも始めました。

しかしAP通信によりますと、これまでに病院船で治療した患者は170人余りにとどまっていました。

こうした状況を受けトランプ大統領は21日、ニューヨーク州のクオモ知事と会談を行ったあとの記者会見で「病院船をバージニア州の基地に戻すことができれば、船を必要とするほかの地域のために使えるとクオモ知事に伝えたところ、知事も『そうしてもらってかまわない』と答えた」と述べ、ニューヨークでの病院船の活動を終えることにしたと発表しました。

これについてクオモ知事も、その後の会見で「現状を見れば、わたしたちは、これ以上、病院船を必要としていないという意見で一致した。本当に必要としている場所で使うべきだ」と述べました。