死後にコロナ感染発覚 各地で相次ぐ「検査態勢強化を」専門家

死後にコロナ感染発覚 各地で相次ぐ「検査態勢強化を」専門家
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、自宅や路上で倒れて死亡したあと、ウイルスに感染していたことが発覚するなどしたケースが各地で相次いでいることがわかりました。こうしたケースは東京などで11人に上り、感染症対策に詳しい専門家は、症状の自覚がなかったり検査を受けていない人でも、実は感染していて急激に症状が悪化するリスクもあるとしたうえで、「検査態勢を一層強化する必要がある」と指摘しています。
警察庁や警視庁によりますと、今月中旬までの1か月間に、自宅や路上などで倒れて死亡したあと、検査したところ、新型コロナウイルスに感染していたことが発覚するなどしたケースは、5つの都と県で11人に上ることがわかりました。東京が6人、兵庫県が2人、埼玉、神奈川、三重県がそれぞれ1人ずつでした。

このうち、東京・新宿のオフィスビルでは、先月30日、清掃員をしていた66歳の男性が勤務中に倒れているのが見つかり、搬送先の病院で死亡しましたが、PCR検査で新型コロナウイルスに感染していることが発覚しました。

また、今月9日、東京・足立区の路上で60代の男性が倒れているのが見つかり、搬送先の病院で死亡しましたが、翌日、検査したところ、陽性反応が出たということです。ほかにも、駆けつけた救急隊員などに「肺のあたりや胸が苦しい」「発熱がある」などと訴えていた人もいたということです。

感染症対策に詳しい北海道医療大学の塚本容子教授は、特に高齢者の場合、症状の自覚がなかったり検査を受けていない人でも、実は感染していて急激に症状が悪化するリスクもあるとしたうえで、「感染のまん延が把握できているもの以上に広がっていることを示す証拠と言えるのではないか。海外ではこうした事態が相次いだ後、爆発的な感染の拡大、いわゆる『オーバーシュート』が起きているので、検査態勢を一層強化する必要がある」と指摘しています。

勤務中 倒れていた清掃員は…

先月30日、東京・新宿区歌舞伎町のオフィスビルで、清掃員として勤務中だった66歳の男性が倒れているのが見つかり、搬送先の病院で死亡しました。その後、PCR検査で、新型コロナウイルスに感染していたことが発覚しました。

男性が勤めていた会社によりますと、感染対策として勤務前の検温を行っていたということですが、男性は発熱はなく、体調の異常も見当たらなかったということです。会社では、オフィスビルを消毒するとともに、同僚などを自宅待機にしたということです。

地元の知人などによりますと、男性は4年前まで山形県新庄市の実家で父親の介護をしながら暮らしていたということです。近所の78歳の女性は「男性が父親を連れてスーパーで買い物をする姿を見かけました。男性は独身でほかに兄弟もおらず、おとなしく口数の少ない人でした」と話していました。また、「冬場に地域のゴミ出し用の容器のふたが凍って開かなかったことがあり、男性に頼んだら、ふたを開けてくれたことがありました」と優しい一面についても話していました。

その後、父親が亡くなり、男性は東京・東久留米市のアパートで1人、暮らしながら清掃員として働いていました。男性が勤務していた会社によりますと、無断欠勤はなく、非常に真面目で、周囲からも信頼されていたということです。

山形県の実家の近くに住む73歳の男性は「男性のことを思うとかわいそうで、さみしさを感じます。みんなにPCR検査をして病院に入院させたら医療現場が大変なので、重度の人を優先して検査をしているのかもしれないけど、男性のように潜在的に感染している人はいっぱいいて、同じような事例がどんどん出てくると思います」と話していました。

独り暮らし60代男性は…

今月9日、東京・足立区千住の路上で、60代の男性が倒れているのが見つかり、病院に搬送されましたが、死亡しました。その翌日、PCR検査が行われたところ、新型コロナウイルスの陽性と確認されました。

近所の人などによりますと、男性は一緒に暮らしていた母親の介護をしていましたが、3年ほど前に母親が亡くなってからは1人で生活していたということです。近所づきあいはほとんどなく、通行人に発見されたということで、関係者などによりますと、男性の死因は新型コロナウイルスの感染症による肺炎だったということです。

男性が倒れていた路上の近くに住む70代の女性は「まさか男性が亡くなったのがこの近くだとは思いませんでした。コロナウイルスは本人も感染していることに気がつかないこともあると聞くので不安ですし、ひとり暮らしの高齢者は、とても多いので心配です」と話していました。

また、近くに住む60代の男性は「自宅近くで倒れていたと聞き、もしかしたらコロナウイルスに感染して急激に体調が悪化したのかなと感じました。近所つきあいが少ないので、独り暮らしだと誰にも気づかれないこともあると思います」と話していました。

専門家「検査態勢の一層強化を」

感染症対策に詳しい北海道医療大学の塚本容子教授は、自宅や路上で倒れた人などから感染が確認されたことについて、症状の自覚がなかったり検査を受けていない人でも、実は感染していて急激に症状が悪化するリスクもあるとしたうえで、「検査態勢を一層強化する必要がある」と指摘しています。

そのうえで「今回明らかになった事態は感染者数の情報以上に感染が広がっていることを示す証拠と言えるのではないか。ニューヨークなど海外では検査態勢が間に合わない、検査が受けられない中で、在宅での死亡が増えた。死因がわからない件数が増えていった。そうした人たちをあとになって調べるとコロナウイルスだったという事例が増えていった。それと同時に、感染が拡大してきた、いわゆる『オーバーシュート』になってきた状況がある。今回の事象がまさにそれを示しているのではないかと思っていて、とても危機感を覚える」と警鐘を鳴らしています。

そして塚本教授は「まずは検査態勢を拡充しなくてはいけない。それと同時に私たち自身も外出自粛や、『ソーシャルディスタンシング』を意識しながら、家族と電話で連絡を取り合うなど、直接会わない形で安否確認をしていく必要もあるのではないか」と話していました。