「大会出ません」 ある消防団の決断

「大会出ません」 ある消防団の決断
「操法大会への参加をやめる消防団がある」
ことし1月、その話を聞いた私たちは取材を始めました。「消防操法大会」は、全国に2000以上ある消防団にとっては、切っても切れない伝統の大会です。取材から見えてきたのは、組織維持のため“苦渋の決断”を迫られた消防団のいまの姿です。
(社会部記者 内山裕幾、水戸局記者 大野敬太、長野局記者 保科賢一)

苦悩する分団長

「5年後、10年後には団員は半分になってしまうかもしれない」

操法大会への参加中止を決めた消防団の分団長の言葉です。今回の取材中、消防団の未来を憂うこの言葉を、何度も耳にすることになりました。

消防団の甲子園

「消防操法大会」は、全国の消防団員を対象に開かれる、50年以上の歴史がある大会です。地区大会を勝ち進むと全国大会に出場することから、“消防団の甲子園”とも呼ばれています。

消防操法とは、火災の消火を想定した基本的な動作や器具の操作を学ぶ訓練で、大会では、ホースをつないで放水するまでの速さや、動きの連動性・正確性などを競います。

主催する日本消防協会は、「消防団活動の基礎・基本」だとしていて、技術の底上げや団結力の向上に貢献している重要な大会だと話します。

異例の決断をした下妻市消防団

その大会に今後参加しないと決めたのが、茨城県下妻市の消防団です。今回、決断の背景にある危機感を知ってもらいたいと、分団長の1人が取材に応じました。
消防団歴31年の分団長、安達政男さん。安達さんは、消防団は地域に欠かせない存在だと確信する一方、その先行きについては、次のように考えています。
「10年以上前から、団員の確保が本当に大変な状況が続いている。早めに手を打たないと大変なことになる」
下妻市の消防団員は370人余り。多くの人がふだん仕事をしながら活動しています。現時点で団員数は維持できていますが、新しい団員の募集をかけても、若い世代の希望者がほとんどいないのが現状だといいます。
消防団員の減少は全国的な課題です。この半世紀で40万人減り、去年は83万人と過去最少を更新しました。高齢化やサラリーマン世帯の増加が要因と見られています。

同じ問題を抱える下妻市消防団が、組織を維持していくにはどうすればいいか、数年にわたる話し合いの末に出した結論が、操法大会への不参加だったのです。

大きな理由は、大会に向けた訓練の“負担”です。

「操法大会に出てよかった、一方で…」

私たちは、実際に大会に出場した消防団員に話を聞くことにしました。
3年前に下妻市消防団に入った太布尚文さん(43)は、おととしの県大会で優勝した実績があります。
太布尚文さん
「最高の仲間に出会えたので、操法大会に出てよかったと思っています」
太布さんはまず、こう振り返りました。

訓練を重ねると、メンバー5人の動きがだんだんと揃っていき、放水するまでの時間も短くなっていく。アイスホッケーをしていた青春時代を思い出すように夢中になったそうです。

メンバーとの絆が深まり、火事の現場でもコミュニケーションが取りやすくなるなどの効果があったといいます。
一方で、大会に向けた訓練の負担は大きかったと明かしました。

スケジュールを見せてもらうと、大会前の4か月間は、1日2時間の訓練が週4日。開始時間はそれぞれの仕事が終わったあとの夜8時からです。

大会前の1か月は、自主練を含めるとほぼ毎日で、体力面ではきつかったと話しました。

家族の負担も

さらに、家族の理解を得るのも大変でした。太布さんは4人家族で、小学生の子どもが2人います。毎日のように訓練に向かう太布さんを、さみしそうな顔で見る子どもの姿に心が痛んだといいます。

子育ては、妻のちえみさんに任せきりになりました。ちえみさんはこう感じていました。
太布ちえみさん
「普通なら家族でゆっくりできる時間なのに、私と子どもと3人だけで。当時は、よくけんかもしました。仕事だったら理解できますが、操法大会の訓練って何の意味があるんだろうと、最初は疑問しかありませんでした。もちろん応援はしていましたが、自分の仕事にも影響が出てしまって」
太布尚文さん
「家族には負担をかけたと思います。自分と同じように分団のみんなも深夜に帰ります。家族がいる人はそれを犠牲にしながら訓練しているのは事実です。それを考えると大会参加をやめるのは残念ですが、しかたないとも思います」

9割が「不参加」に同意

下妻市消防団では、操法大会への参加をやめるか、団員全員に意見を聞きました。

結果は、9割以上が“不参加”。

「操法大会への訓練を続けていては、団員の確保や維持は今後も難しくなる」というのが、多くの団員に共通する思いでした。

分団長の安達さんは、「新入団員の確保がままならない現状で、家族や職場にも大きな負担をかける大会への参加は、やはり困難なのが実態です。苦渋の決断でしたが、活動を根本的に見直さなければ、手遅れになると感じた」と話しました。

専門家「動き広がる可能性」

下妻市消防団の今回の動きについて、消防行政に詳しい関西大学の永田尚三教授は、次のように話します。
永田尚三教授
「消防操法は、団員の消防技術の確保や安全管理を行う上で合理的なもので、大会の存在も、団員の士気を維持するのに一定の役割を果たしてきたと言える。一方で、特に若い団員の確保が全国的な課題となる中、大会参加への負担に苦しむ消防団があるのも実態ではないか。今後、参加を取りやめる動きがほかの地域に広がる可能性はある」

辰野町消防団の新たな模索

永田教授が指摘するように、各地の消防団が操法大会に参加しなくなった場合、団員の基礎技術や規律の維持という面では、支障がないとは言い切れません。
そうした中で、操法大会に向けた訓練に代わる、“新たな活動”をいち早く模索し始めたのが、長野県の消防団です。

何のための訓練?

長野県の山間部、辰野町の消防団は、去年、大会への参加を取りやめました。その判断をまとめた元団長の古村幹夫さんは、背景に団員の負担軽減に加え、訓練の形骸化があったと明かしました。

例として挙げたのが、大会に向けて繰り返し練習する、一糸乱れぬ連動した動きです。
古村さんは、次のように話しました。
古村幹夫さん
「自分たちが操法大会に向けた訓練を行う中で、臨機応変な対応が求められる火事の現場でどこまで生かせるのか、大会で好成績を残すための訓練になってはいないかと疑問を感じました」

地域の特性に合わせた訓練へ

辰野町消防団では、大会への参加を取りやめるとともに、訓練の内容を地域の特性に合わせた訓練へと見直しました。
その1つが、複数のポンプをホースで連結させる訓練です。

これは、山火事など水源から遠い場所での消火活動に対応するために不可欠ですが、これまでほとんど訓練していませんでした。そこで、現場で生かせる訓練をしたいと、距離に応じた水圧の調整などを繰り返し練習することにしたのです。

訓練の回数も変えました。操法大会では直前に集中して訓練を行っていましたが、平均化して、通年で毎月2~3回にしました。

その結果、負担も軽減され、季節に合わせて内容を変更できるようになったといいます。

その取り組みがさっそく実を結びました。

去年6月、町内の事業所から出火し、周辺の山林に燃え移るおそれがあるとして出動要請が出ました。水源から現場までは300メートル余り。複数のポンプを連結させて水を送る訓練がそのまま生かされたのです。

出動した第5分団の田畑励分団長は「いまの自分たちにどんな訓練が必要なのか、みんなで考えながら訓練している」と話しました。

求められる役割の多様化

さらに辰野町消防団では、「消火」だけでなく、「防災」を意識した活動へとかじを切りました。

防災学習に使える車両を導入して各地で講習会を開催。1年間で町民およそ300人が参加しました。
元団長の古村さんは、こうした活動が町民の防災意識を高めるとともに、将来の団員確保にもつながるのではないかと期待しています。
「全国一律の消防団である必要はない。災害の形態も自治体ごとに大きく違う。消防団を残さないといけないと大勢のみなさんに思ってもらえるように、消防団も変わっていかないといけない」

「消防団のあり方見直す時期」

専門家の永田教授は、災害が多発する中、画一的な消防団のあり方を見直す時期に来ていると指摘します。
永田尚三教授
「大規模災害が相次ぐ中、地域に根ざした消防団の役割は高まっている。災害の形も地域によって異なるように、消防団に求められる役割も地域によって異なる。画一的な消防団のあり方を見直し、多様性を許容していくことも今後求められるのではないか。消防団をどう維持していくのか、今が重要な岐路だ」
消防庁も、「女性消防団」や「学生消防団」の創設を後押しするなど、団員確保のための対策を進めていますが、根本的な解決には至っていません。

取材を進める中で、「災害時には自分たちが地域を守る」と話す団員の言葉を何度も耳にしました。

時代や社会が変化していく中で、どうすれば消防団を維持できるのか。それぞれの地域の実情に応じて、いま一度考えていく必要があると感じました。
社会部記者
内山裕幾
平成23年入局
大阪局を経て社会部で防災担当
水戸放送局記者
大野敬太
平成30年入局
警察や消防、司法を担当
長野放送局飯田支局記者
保科賢一
平成24年から記者に
県南部(辰野町含む)の地域ニュースを担当
NHKでは、消防団に関する当事者の声やさまざまなご意見を募集しています。