“コロナショック” 93%減の衝撃 観光業の悲鳴

“コロナショック” 93%減の衝撃 観光業の悲鳴
3月に日本を訪れた外国人旅行者数は、前年同月と比べ93%減。観光立国を目指すとしてきた日本にとって、衝撃的な数字となった。原因はもちろん、新型コロナウイルスの感染拡大。外国人旅行者の激減に加え、日本国内でも移動自粛の動きも広がり、全国各地の事業者に深刻な打撃を与えている。16日には、特別措置法に基づく「緊急事態宣言」の対象地域が全国に拡大。全国の観光業がこれまでに経験したことのない苦境に立たされている。

開通初日の翌日に…

富山県と長野県を結ぶ北アルプスの山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」。冬の間、閉ざされたルートが開通するこの時期は、例年、多くの観光客でにぎわうはずだが、ことしは観光客は激減。
観光名所となっている巨大な雪の壁「雪の大谷」は、15日の全線開通初日も、観光客の姿はまばらだった。

「緊急事態宣言」の対象地域が全国に拡大されたのは、その翌日。アルペンルートを運営する「立山黒部貫光」は、17日から営業を休止することを決めた。期間は5月10日までだが、今後の状況によってはさらに延長する可能性もあるという。
例年、90万人前後の観光客が訪れるアルペンルート。富山県にとって極めて重要な観光資源で、営業休止が長引くことになれば影響は計り知れないと関係者は肩を落とす。

73年ぶりの休館

全国有数の温泉地も、苦境に立たされている。松山市の道後温泉。松山空港と上海や台北、それにソウルを結ぶ国際定期便は、新型コロナウイルスの影響で、3月9日以降、すべて欠航。
外国人にも人気の国の重要文化財「道後温泉本館」を核とする共同浴場の入浴客数は、3月、去年の同じ月に比べて、およそ3割落ち込んだ。

「道後温泉旅館協同組合」によると、道後温泉の宿泊客数は、3月は去年の同じ月に比べて半分以下に減少。4月の予約は、さらに落ち込んでいた。
「緊急事態宣言」の対象地域の全国への拡大を受け、「道後温泉本館」を管理する松山市は、4月18日から5月6日まで休館とすることを決めた。

道後温泉本館で長期の休館を余儀なくされるのは、工事に伴う一時的なものを除けば昭和21年の「昭和南海地震」でお湯の供給が止まり、翌年にかけておよそ3か月、休館して以来、実に73年ぶりのことだという。
山内所長
「苦渋の決断だが、感染防止の観点から休館を決めた。一刻も早く収束して、道後にまたお客を呼べるよう休館中も情報発信をしていきたい」
事態の終わりが見えないのが、地域の観光業にとって大きな不安になっている。

神社仏閣はどうなる?

日本を代表する観光地、京都への影響も甚大だ。京都府は、神社仏閣に対しては、休業要請はしないということだが、みずから判断して拝観を休止するところも出ている。
世界遺産に登録されている京都市南区の東寺は、緊急事態宣言を受けて、22日から当面、境内のお堂の拝観を休止することを決めた。25日から予定していた国宝の五重塔の特別拝観も中止する。
東寺は「判断に苦慮するところがあったが、大型連休中の移動を極力避けることを最優先にすべきという考えから、やむなく拝観停止という結論にいたった」としている。

京都市内では、世界遺産の仁和寺も5月6日まで、拝観を休止したほか、北野天満宮、清水寺、下鴨神社、東本願寺などが開門時間を短縮する対応を取っている。

JR北海道 一時帰休へ

観光客激減の影響は、鉄道会社にも及んでいる。

厳しい経営が続いているJR北海道は、感染拡大で利用客が大幅に減少し、当面は回復が見込めないとして、5月から2か月半にわたって、一時的に社員を休ませる「一時帰休」を実施することを決めた。

対象は、約1450人。駅の窓口業務を行う社員や運転士と車掌など全社員の2割ほどにあたる。期間は、5月1日から7月23日までで、1人当たり、ひと月に数日の一時帰休を行う方針だ。

JR北海道の島田修社長は、「事業継続のため、生き残りをかける」としている。

苦渋の選択 副業解禁

こうした旅行需要の急激な落ち込みで、旅行会社は、当面の臨時休業を余儀なくされている。JTBとHISは全国すべての店舗を、近畿日本ツーリストもほぼすべての店舗を、原則、臨時休業としている。

こうした中、社員の生活を維持するため、苦渋の選択をした旅行会社がある。

東京 中野区の「風の旅行社」は、モンゴルやネパールなどへのツアーの企画・販売を手がけ、大阪の支社も含め30人余りが働く。
しかし、各国が海外との往来を制限している影響で、3月の売り上げは、前年同月比で約70%減少。5月末までのツアーはすべて中止した。このため、会社は、緊急事態宣言が解除される5月6日まで臨時休業にした。

社員には休業手当を支払うことにしているが、営業再開の見通しが立たないうえに、休業手当だけでは、社員が生活を十分に維持できないとして、副業の解禁に踏み切ったのだ。
これを受けて、34歳の男性社員は、3月下旬から、副業としてシラス漁の手伝いを始めた。地元の神奈川県のハローワークで、水揚げした網からほかの小魚などを取り除いてシラスだけを選別する仕事を見つけたという。

男性には、3人の子どもがいて「会社が副業を許してくれたことに大変感謝している」という。
「社員が生きていくためだ。おそらく長期戦になり、経営状況は非常に厳しいが、全員で、この事態を乗り越えていきたい」

少しでも利用を増やしたい

少しでも利用客の回復を目指そうと、苦肉の策をとる宿泊施設もある。札幌市のホテル「ビジネスインノルテ」がターゲットに据えるのは、地元の人たちだ。

このホテルでは、去年の3月、80%を超えていた客室の稼働率が、ことしは30%ほどに下落した。
このため、4月から始めたのが、宿泊料金を半額にする格安プラン。シングルの部屋に4泊以上続けて泊まる場合、土曜日と祝日の前日を除いて原則、1泊当たり2000円で、朝食のほかコーヒーも無料で提供する。5月いっぱい続けることにしている。

主なターゲットは、地元の札幌近郊の人たち。列車の通勤でのいわゆる“3密”を避けたい人たちなどに利用してもらいたいと考えている。幅広い業種の人たちに新たなプランを利用してもらおうと、地元のタクシーに、プランの詳しい内容が書かれたチラシを置いてもらうなど、札幌市内の企業を中心にアピールに力を入れている。
佐々木支配人
「インバウンドも当分見込めない状況の中、国内客も政府の緊急事態宣言で来られなくなっているので、道内の人がターゲットになっている。来ていただく客が少ない分、少しでも長く滞在してもらって、落ち込んだ稼働を回復させたい」

厳しい状況 いつまで

緊急事態宣言が全国に拡大され、政府は、大型連休に向け、旅行や帰省など不要不急の移動を控えるよう呼びかけている。さまざまな生き残り策を考えてきた事業者も、もはや、ほとんど打つ手がなくなった。

政府は、事態が収束したあとの消費喚起策として、旅行会社や予約サイトを通じて旅行商品を購入した人を対象に代金の半額相当、1泊1人当たり最大2万円分を補助することにしている。宿泊料金を割り引くほか、観光施設や土産物店、飲食店や交通機関などで使えるクーポンを発行する計画だ。

しかし、観光関連の事業者からは、いつになるのかわからない感染拡大の収束まで、果たして耐えられるのかわからないという、底知れぬ不安の声が聞こえてくる。

経験のないこの事態をどう乗り越えていけばよいのか。どのような支援が必要なのか。これからも最前線の声に耳を澄ませ、一緒に考えていきたいと思う。

【取材:経済部・札幌局・富山局・松山局・京都局】