新型コロナでオンライン授業 児童養護施設“パソコン足らず”

新型コロナでオンライン授業 児童養護施設“パソコン足らず”
新型コロナウイルスの感染拡大で、学びの環境にも変化が迫られています。各地で取り入れられているのがインターネットを使ったオンライン授業。しかし、急激な変化に取り残されかねない現場がありました。(ネットワーク報道部記者 加藤陽平)

各家庭で準備をして下さい

4月6日、都内の私立高校に通う生徒のもとに学校からメールが届いた。休校が続く中、今後の授業の進め方についてだった。
「当面は自宅学習とします。5月上旬からはオンラインによる授業になり、環境は各家庭で準備してください」
登校して授業を再開する見通しがない中で、なんとか学習の機会を作ろうという措置だ。

しかし、通知を受け取った生徒が暮らしているのは、児童養護施設だった。

個人のパソコンは、ない。

パソコンはグループに1台

「なんとかしないと!」
児童養護施設の施設長は通知を知り、あせった。

通知には、「ネットワークに接続できるパソコンを各家庭で用意してほしい」と書いてある。しかし、簡単ではない。

虐待などの理由で親元で暮らせない子どもたちが生活する児童養護施設。運営費は国や都道府県からの補助金が主で、その使い道は基本的に決まっている。
幼稚園児から高校生まで40人ほどの子どもたちが暮らすこの施設では子どもたちが使えるパソコンは6人から8人のグループごとに1台しかない。

リビングから参加したけれど

しかも、今は休校の影響ですべての子どもたちが日中、施設にいる。学校の授業がオンラインで行われるからといって、特定の生徒が1日中使うわけにはいかない。

また今回通知を受け取った生徒の高校が、ホームルームを試験的にオンラインで行った時、共有のパソコンで施設のリビングから参加したことがある。その周りで小さい子どもたちが元気に遊んでいた。

生徒は「このままではとても授業は受けられない」と感じたという。
児童養護施設 施設長
「これまで、なんとか費用を捻出したり、寄付してもらうことでパソコンを工面してきた。でもパソコンが必要なひとりひとりに用意することは現実的に難しいんです」

環境の差で

いま、学校の授業だけでなく、塾でもオンライン化の対応が進んでいる。
自習をするにも最新の教材はインターネットを通じて手に入れなければならない。施設側は、パソコンの有無やインターネット環境の差で、子どもたちが学習面で後れを取ってしまうのではないかと危惧している。
施設長
「多くの子どもが虐待が原因で家庭にいることができずにここで暮らしています。自分自身を責めてしまう子が多い中、職員は『頑張ればできるよ』と励ましてきました。
一生懸命勉強して将来につなげようという時に、差が出てしまうと、社会で活躍したいという意欲が砕かれてしまうことをおそれています」

学力低下 否めないの声も

こうした現状を知り動き出した団体がある。児童養護施設を支援するNPO法人「ライツオン・チルドレン」。

まず4月9日から10日にかけて、都内の56の児童養護施設を対象に新型コロナウイルスの感染の広がりを受けてアンケート調査を行った。
回答があったのは34施設。
『休校や社会情勢の変化で心配すること』を聞いたところ、「学習の遅れ、オンライン学習対応」をあげたのが17施設と半数にのぼった。

「ストレスや精神的不安」に次いで多く、オンライン学習をどう進めるかが課題になっていることがうかがえた。

回答の中には、
「パソコンやタブレットを施設での学習に使っているが、数が足りない」

「学校の連絡や宿題でパソコンを使うケースが増えているが、環境が整っていないことに子どもの不満が出てきた」

「学力低下は否めない。進学を控える生徒の進路が不安」
といった声があった。

NPO法人によるとそもそもインターネット環境がないという施設もある。
自身も児童養護施設で働くNPO法人の理事長、立神由美子さんも学習の遅れや意欲の低下を心配している。
立神由美子さん
「本来学校に通っていた時間帯も、職員はほとんどの子どもの面倒を見なければならなくなっている。
学習の指導までつきっきりでは行えず、オンラインの授業や自主的な勉強のためにパソコンが必要な状況なんです」

児童養護施設にパソコンを

必要なパソコンが足りていない現状をつかみ、NPO法人ではパソコンを贈るための寄付を募りはじめた。
アンケートをもとに、まずは都内の25施設に160台寄贈するのが目標だ。一般からだけでなく企業にも広く寄付を募った。
企業からはすでに寄付の申し込みがあり、18日、オンライン授業が始まる高校生が暮らす施設にも2台のパソコンが届いた。

学びの格差、生まれぬために

施設ではさっそく、箱を開けて生徒の机の上にパソコンを設置。

「授業開始に間に合う」と、ほっとした施設長に、パソコンを見た生徒は「うれしい。勉強、マジで頑張る!」と、喜びを伝えたそうだ。

NPO法人は寄付をさらに募り、パソコンを贈る先を都内以外の施設などにも広げたい考えだ。
「急激な変化で行政の支援が行き届かない部分だが、寄付を通してなんとか学びの格差が生まれないようにしていきたい」
NPO法人の理事長の立神さんは、そう話している。