SNS上で“闇バイト”の勧誘相次ぐ 新型コロナ影響

SNS上で“闇バイト”の勧誘相次ぐ 新型コロナ影響
新型コロナウイルスの感染拡大で企業の業績が悪化するなどして解雇や雇い止めが相次ぐ中、SNS上で仕事を求める書き込みをすると振り込め詐欺などの“闇バイト”に勧誘される事態が相次いでいることがわかりました。専門家は「SNSで直接仕事を探すことは第三者のチェックが働かず、違法な労働に巻き込まれる危険性がある」と指摘しています。
厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、企業の業績が悪化するなどして解雇や雇い止めになった人は、見込みも含めて今月6日までのおよそ2か月間で1473人に上っています。

こうした中、ツイッターなどのSNS上では、生活が困窮し仕事を求める書き込みをすると振り込め詐欺などに加担する“闇バイト”に勧誘される事態が相次いでいることがわかりました。

このうち松山市の26歳の男性は、感染拡大で繁華街から客足が遠のき、営んでいた店を閉めざるを得なくなり、追い込まれて、ツイッターで「仕事がほしい」と投稿したところ、すぐに「仕事をやらないか」という返信が10件ほど届いたということです。しかし仕事の内容を確認してみると、振り込め詐欺で高齢者の家を訪れて現金をだまし取る「受け子」など、犯罪に勧誘するものばかりだったということです。

また大阪の23歳の男性は、アルバイトの契約が更新されず、仕事を失い、ツイッターで仕事を探したところ、同じように20件ほどの誘いが届いたということです。しかし、いずれも仕事の内容は「受け子」の仕事でした。

専門家は「SNSを通じて直接仕事を探すことは便利で、現在のように外出が制限され、すぐに仕事がほしいという緊急な場合、頼ってしまいがちになるが、第三者のチェックが働かず、違法な労働に巻き込まれる危険性がある」と指摘しています。

ネットで職探すと“闇”が

松山市の26歳の男性は、新型コロナウイルスの感染拡大で道後温泉などの観光名所を訪れる人が少なくなった影響で、繁華街で営んでいた接客業の店の利用客が減少し、閉店せざるを得なくなりました。

収入がなくなる中、インターネットの求人サイトで、以前、手がけていたプログラミングの仕事などを探しましたが、すべて断られたということです。

男性はわずか1か月の間に生活が一変したことで精神的にも追い込まれ、自殺まで考えたと言います。

男性は「求人は出ているので応募するのですが、“コロナの影響で募集は打ち切った”と言われました。何社か申し込みましたが、お先真っ暗で自暴自棄になり、“人生、もういいかな”という気持ちになりました」と話しました。

そして、追い込まれた男性が仕事を探すのに使ったのがツイッターでした。

「仕事」や「募集」というキーワードで検索したところ、求人をしているアカウントが見つかり、「仕事がほしい」と投稿しました。

すると、すぐに「働く人を募集している」という返信が10件ほどあったということです。

しかし、仕事の内容を確認してみると…。

お年寄りから金をだまし取る振り込め詐欺の「受け子」や「出し子」、違法薬物などを指定された場所に運ぶ「運び屋」、違法な口座の売買など、犯罪に勧誘するものばかりだったと言います。

男性は「“運び”とか“受け出し”(「受け子」や「出し子」)とか初めて聞いた単語ばかりの返信が来て、ネットで調べたら“犯罪行為じゃん!”って。週に100万円稼げるとか言われると、一瞬、心が揺らぎましたが、関わりたくないのでやめました」と話しました。

そのうえで「周囲の知り合いも悲鳴を上げている人がたくさんいます。生活は苦しいですが、甘い誘いに負けずにできることをやり、頑張っていくしかないと思っています」と話していました。

“闇”勧誘に苦もん その後…

「仕事を探しています」と、SNSで投稿していた23歳の男性に話を聞くことができました。

男性は新型コロナウイルスの影響でアルバイト先の大阪のレンタカー会社から先月末を最後に契約が更新されなくなり、仕事を失ったということです。

感染拡大で海外からの観光客が減少し、レンタカーの利用者が減ったことが影響しているということです。

その結果、家賃も払えなくなり、身のまわりのものを売って捻出したお金で、ネットカフェで寝泊まりするようになりました。

食事はカップ入り即席麺などにして切り詰めていますが、追い詰められ、「仕事を探しています。金のためなら何でもします」とツイッターで投稿したところ、「闇バイトをやらないか」という勧誘が、ダイレクトメールで20件ほど届いたということです。

男性は「自分と同じように“コロナの影響で職を失った”という人はたくさんいます。まともな仕事を探していますが、住所不定になった自分にはなかなか見つかりません」と話しました。

そのうえで「実家に帰る費用だけでも手に入ればと、仕事を探し始めたら、高齢者のキャッシュカードをだまし取る“受け子”の誘いなど20件ほどメールがきました。犯罪はやりたくないですが、今、危険ではないアルバイトを見つけることも難しく、お金も尽きそうです」と切実な状況を語っていました。

そして、私たちと連絡が取れなくなりました。

”闇バイト”業者「応募は増加」

「コロナで仕事がなくなった方、仕事あります」。

「仕事がしたいのに仕事がない、そんな方のお力になれればと思います」。

新型コロナウイルスの感染拡大で仕事を失う人が相次ぐ中、ツイッターではこうした書き込みが目立つようになっています。

しかし、実際に募集しているのは、“闇バイト”と呼ばれるものです。

振り込め詐欺で高齢者から現金をだまし取る「受け子」や「出し子」など、報酬を出す代わりに犯罪に加担させるものが含まれていて、書き込みに応じた人が詐欺の疑いで逮捕されるケースが相次いでいます。

ツイッターで“闇バイト”を募集しているという人物がメッセージのやり取りならばと取材に応じました。

先月から「仕事をしたい」という人が増えているとしたうえで、「応募はコロナ騒動を機に確実に増えている。目に見えてわかるほどで、コロナの影響で働くに働けず、今、手元にお金がなく困っている人が多い」と語りました。

さらに過去の災害の時よりも仕事を失い“闇バイト”に頼る人が多いと感じるとして、「コロナの影響は全国規模なので震災の時よりひどい印象を受ける。日払いで食いつないでいた人、交通費もない、相当、金に困ってる人が多い印象だ」としています。

さらに、“闇バイト”を募集している別の人物は「過去の災害でも詐欺などが増えるのは少し事態が落ち着いた後で、コロナに関しても今はピークではなくもう少し後にさらに増えるだろう」と、犯罪への勧誘はさらに進むと話していました。

専門家「SNSで直接交渉は危険」

労働問題に詳しい東京大学社会科学研究所の玄田有史教授は「SNSを通じて直接仕事を探すことは便利で、現在のように外出が制限される状況で“すぐに仕事がほしい”という緊急な場合、頼りにすることもあると思うが、SNSで直接交渉すると、ハローワークや職業紹介会社など第三者のチェックが働かず、違法な労働に巻き込まれるなど非常に危険性があるということを認識してほしい」と指摘しました。

そのうえで「緊急事態において、“闇のビジネス”がばっこするというのは、歴史的にも明らかだが、1回のトラブルで人生を台なしにすることはあまりにも悲しいことで、“何かおかしいんじゃないか”という疑いを常に持つことが必要だ。仕事や生活に困った人向けの公的な支援制度はあるので、どうすればいいか不安な場合、まずはハローワークや総合労働相談コーナーなど支援窓口に相談してほしい」と呼びかけています。