BCGで新型コロナ予防できる? 今は“科学的に根拠なし”

BCGで新型コロナ予防できる? 今は“科学的に根拠なし”
「はんこ注射」でおなじみの結核を予防するための「BCGワクチン」。
新型コロナウイルスの感染や発症後の重症化を防ぐことに関係があるのではないかと注目され、海外では臨床研究も始まっている。しかし、その効果はまだ“証拠がない段階”。
BCGを接種したいという人も出始める中、乳児へのワクチンが足りなくなるおそれも指摘されるなど、冷静な対応が呼びかけられている。
(国際部 記者 曽我太一)

BCGになぜ注目が

BCGは、結核予防を目的におよそ100年前にフランスの研究所で最初に作られ、日本では「はんこ注射」の接種方法でも知られるおなじみのワクチンだ。
結核研究所によると、日本では結核がまん延していた戦後に定期接種の制度が導入され、現在も0歳児を対象に定期接種が行われている。
このワクチンが、新型コロナウイルスとの関係で注目されるようになったのは、乳児などある一定の世代の全員を対象に広く接種を行っている国と行っていない国で、感染者や死者の数に違いがあるという指摘が海外で出ているからだ。

これは、カナダのマギル大学が2017年に公表した世界のBCGの接種の状況だ。
水色の日本や韓国を含むアジアやアフリカ、それにロシアなどの国や地域では、BCGを広く接種している一方、赤色のフランス、ドイツ、スペインなどは、過去に広く接種していたものの現在はしておらず、緑色のアメリカ、イタリア、オランダなどに至っては、これまでにそうした接種を行ったことがないとされている。
アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の4月16日時点のまとめによると、新型コロナウイルスの感染者は世界で200万人を超え、死亡した人はアメリカ、イタリア、スペイン、フランスで多くなっている。
免疫学の世界的な権威であるドイツのマックスプランク研究所のシュテファン・カオフマン教授もBCGと新型コロナウイルスの“相関関係”に注目している1人だ。
シュテファン・カオフマン教授
「アメリカ、イタリア、オランダはBCGの広域的な接種を行っていない。こうしたデータは単に相関関係を示したものにすぎず、直接、関係があるとは言えないが、BCGが新型コロナウイルスによる感染症に効果があるのかを調べる価値は十分にあると思う」

免疫研究で注目の“BCG”

“100年モノ”のワクチンであるBCGは近年、免疫学の分野で注目されるようになってきた。

カオフマン教授によると、BCGにはヒトの体の免疫を担うマクロファージや樹状細胞などを刺激するとともに、サイトカインの分泌を促進することで、ウイルスが感染した細胞を壊すT細胞や、抗体を作るB細胞の働きを強める効果があり、その結果、免疫力が一定程度高まることが最近の研究で分かってきたという。
これまでのところ、季節性のインフルエンザウイルスや乳幼児に肺炎などを引き起こすRSウイルスなどに対して一定の効果がみられたという報告があるという。

臨床研究も始まる

海外では、ヒトで新型コロナウイルスに対するBCGの効果を確かめる研究も始まっている。
そのうちの一つがオランダ・ラドバウド大学のミハイ・ネテア教授のチーム。ネテア教授は、BCGと免疫力の関係を調べる研究の第一人者で、今回NHKのインタビューに次のように話している。
ミハイ・ネテア教授
「過去の研究を踏まえると、BCGが新型コロナウイルスに対して有効かもしれないという仮説を立てることができる。BCGは新型コロナウイルスによる感染症の重症化を防ぐ効果があるかもしれない。感染の予防に効果があるのかも含めて分析していく」
ネテア教授のチームは、すでにオランダ国内の8つの病院で医療従事者を対象にした臨床研究を始めている。
1500人に接種して、接種していないグループとの間で感染の割合に違いが出るかなどを分析。最初の結果が出るまでには3か月から6か月かかる見込みだという。

WHO“現時点で勧めず”

一方で問題も起き始めている。
新型コロナウイルスに対する効果を期待して、BCGを接種したいという人が出始めているのだ。
WHO=世界保健機関や海外の専門家は、科学的な根拠はまだないとして、現時点では定期接種などの対象になっていない人が接種することは勧めないとしている。
WHOの見解
「証拠がない今の段階では、新型コロナウイルスによる感染症を予防するためにBCGワクチンを接種することは勧めない」
ネテア教授
「現時点では、一般の人たちがBCGの接種を受ける理由は何もない。まずは臨床研究がどのような結果を導き出すのか注意深く待つことが必要だ。そのうえで(効果が認められて)接種することになったとしても、当局やメーカーが協議してどの人を対象にするか決定すべきだ」

思わぬリスクも

こうした動きの背景には、思わぬ副作用のおそれがあるほか、BCG全体の供給量にも影響を及ぼしかねないという事情がある。国内ではすでに医療トラブルも報告されている。
BCGは「管針(かんしん)」と呼ばれる「はんこ」のような特殊な医療器具を使って皮膚に接種するのが本来の方法だが、厚生労働省によると、今月に入り通常の注射と同じように皮下注射してしまった結果、発熱や血尿、それにじんましんといった副作用が出たケースが報告されたという。

日本感染症学会と日本小児科学会の指導医で開業医の水野泰孝医師によると、最近は乳幼児の親ではない高齢者などからBCGを接種できないか、といった問い合わせが増えているという。

また日本ワクチン学会の岡田賢司理事長は次のように話している。
日本ワクチン学会 岡田賢司理事長
「わらをもつかむ思いで接種したいという気持ちはわかるが、新型コロナウイルスに対する効果があるのか、わかっていないだけではなく、高齢者など免疫力が低くなっている人が接種した場合には、思わぬ副作用を引き起こすおそれもある」

脅かされる子どもへの安定供給

日本でBCGを製造しているのは1社だけで、会社によると、ことしは3月30日以降、例年の同じ時期に比べて3倍の量の注文が入っているという。BCGは、作るのに8か月程度かかり、すぐに増産することは難しいとしている。

日本ワクチン学会は、海外に比べて日本で死者数などが抑えられているのは、「国民一人一人の自制の効いた行動と心がけによるところが大きいと考えられる」としたうえで、「乳児へのワクチンの安定供給が影響を受ける事態は避けなければならない」として、冷静に対応するよう呼びかけている。
国際部 記者
曽我太一
平成24年入局
札幌局などを経て国際部 スタンフォード大学客員研究員を経て、デジタル技術、欧州などを取材