トランプ大統領 WHOへ資金拠出停止の考え

トランプ大統領 WHOへ資金拠出停止の考え
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アメリカのトランプ大統領は、WHO=世界保健機関の新型コロナウイルスへの対応について「WHOの過ちによって多くの人たちが死亡した」と強く批判し、WHOの対応を検証する間、資金の拠出を停止する考えを明らかにしました。最大の資金拠出国アメリカが拠出を停止すれば、感染対策をめぐる国際協力に影響が出ることも懸念されます。
トランプ大統領は14日の記者会見で、WHOの新型コロナウイルスへの対応を検証するとともに、その間、WHOに対する資金の拠出を一時的に停止する考えを明らかにしました。

その理由についてトランプ大統領は、アメリカがことし1月、感染拡大防止のため中国からの入国を禁止する措置を発表したことなどに対し、WHOが反対したとして「WHOによる最も危険な判断の1つだ」と述べました。

また、去年12月の時点で、中国の武漢からの情報でヒトからヒトへの感染を疑うべき情報があったのに、WHOは調査しなかったなどとして「基本的な義務を怠り、その責任を負わなければならない。WHOの過ちによって多くの人たちが死亡した」と述べて、強く批判しました。

WHOをめぐっては、アメリカ議会で与党 共和党を中心に中国寄りだという批判が強く、トランプ大統領としては強硬な姿勢を示した形です。

一方、野党 民主党などからは、トランプ大統領の初動が遅かったという批判も相次いでいて、こうした批判をかわすねらいもあるとみられます。

アメリカは、WHOの最大の資金拠出国で、拠出を停止すれば感染対策をめぐる国際協力に影響が出ることも懸念されます。

民主党は批判「みずからの失敗への批判をかわすため」

WHO=世界保健機関への資金拠出の停止について、野党・民主党の全国委員会は声明を出し、感染拡大の要因はトランプ政権の初動対応の遅れだと指摘したうえで、今回の決定を批判しました。

声明では「トランプ大統領はみずからの失敗への批判をかわすために世界をさらなる危険にさらそうとしている。しかし、アメリカ国民は真実を知っている。数か月もの間、中国の『透明性』を称賛し、警告を無視していたのはトランプ大統領だ」として、みずからの失敗を隠すためWHOに責任転嫁しようとしていると非難しました。

WHOテドロス事務局長 これまでの発言

中国で新型コロナウイルスの感染が拡大していた、ことし1月下旬に「中国は強力な手段でウイルスに対応している」と述べるなど、
中国政府による感染対策を支持する発言を続けてきました。

さらに、テドロス事務局長はアメリカなど各国が、中国からの入国を禁止する措置を発表したことについて、ことし2月「渡航や貿易を妨げる必要はどこにもない」などと述べ、懸念を示す発言をしていました。

こうした発言に対してアメリカのトランプ大統領は、今月7日WHOは中国寄りの組織だとして、資金拠出の見直しを示唆するなど
対応を批判してきました。

これを受けてWHOのテドロス事務局長は8日の定例記者会見で「WHOは当初から、できうるすべてのことをやってきた。WHOは、すべての国と近い関係にあり、人種差別はしない」と述べ、中国に限らず各国と協力して対応にあたってきたと強調していました。

そのうえで「ウイルスとの戦いに焦点を当てるべきだ。ウイルスを
政治化しないでほしい」と訴えていました。

米国務長官「中国は情報を公開すべき」

アメリカのトランプ大統領が、WHO=世界保健機関への資金の拠出を停止する考えを明らかにしたことについて、ポンペイオ国務長官は14日、アメリカのFOXニュースに出演し「WHOが長い間、パンデミックと呼ばなかったのは、中国共産党が望まなかったからだ」と述べ、WHOは中国寄りだと強調し、感染源などに関する詳細な情報を国際社会と共有すべきだと主張しました。

また、中国は感染が広がり始めた当初、アメリカに現地へのアクセスを認めなかったと批判したうえで「中国は協力したいと言い、アメリカも協力したいが、協力するためには情報と透明性が必要だ」と述べ、中国に対し新型コロナウイルスの感染に関するあらゆる情報を公開するよう求めました。

トランプ政権の国連離れ

トランプ大統領は、アメリカの利益になっていないなどとして、これまでも国連機関から脱退したり、資金の拠出を停止したりしてきました。

政権発足1年目の2017年、アメリカの経済成長を阻害するとして、国連がまとめた地球温暖化の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を表明し、途上国向けの基金への拠出を停止しました。

2018年には、パレスチナ難民を支援する国連機関のUNRWAへの資金拠出を停止したほか、反イスラエル寄りだとしてユネスコ=国連教育科学文化機関、それに国連人権理事会からも相次いで脱退するなど、トランプ政権は国連離れを鮮明にしています。

菅官房長官「効果的な拠出の在り方を不断に検討」

菅官房長官は午前の記者会見で「新型コロナウイルス対策を含め、専門的な知見を有し、現場で技術や物資の支援などを実施する国際機関との協力が不可欠だ。拠出については、外交政策上の重要性や機関の活動状況を踏まえながら判断しており、今後も効果的な拠出の在り方について不断に検討を行いたい」と述べました。

トランプ大統領 強硬姿勢の背景とねらい

トランプ大統領がWHOを標的により強硬な姿勢を示した背景には、WHOの対応に加えて、アメリカ国内で高まる国民の批判や不信感があります。
【「大統領の楽観姿勢で対応遅れ」指摘】

アメリカでは感染拡大の深刻化とともに、その責任を問う声もあがっていて、メディアや野党・民主党ではトランプ大統領が当初、専門家の意見を聞かず、楽観的な姿勢を見せていたことが対応の遅れを招いたという指摘が出ています。

これに対し、与党・共和党や保守層からは、中国が感染拡大への対応を誤ったうえ、詳しい情報を公開せず、WHOも中国寄りで公開を迫らなかったとして、中国とWHOの責任を問う声が強まっています。
【中国批判は控え WHOを非難】

こうした中、トランプ大統領は先月の中国の習近平国家主席との電話会談以降、中国への批判を控える一方で、WHOに対する非難を強めてきました。

そして、トランプ大統領は今月7日の記者会見で「WHOは間違いをたくさんしてきた。早い段階で多くの情報があったのに、極めて中国寄りだ」と述べ、WHOへの資金の拠出停止に初めて言及し、政権内部で検討が続けられてきました。

WHOの対応の問題点に関して、アメリカ国務省はNHKの取材に対し、中国の感染状況を詳しく知らせず、アメリカの中国からの入国の拒否にも懸念を示したとして「WHOはアメリカの措置に反対しながら、中国の指導力を称賛し続けた。WHOの不正確な判断で多くの国で中国との間の渡航制限が遅れた」としています。
【「WHOの台湾への姿勢も影響」米国務省】

さらに、国務省はWHOの台湾への姿勢も、新型コロナウイルスの対応に影響していると主張しています。

その理由としてWHOが去年12月、台湾から今回のウイルスの感染をめぐる報告を受けていたのに、適切な対応を取っていなかったという見方を挙げています。

また、台湾がWHOの年次総会への出席を求め、アメリカとしてもオブザーバー参加を認めるよう働きかけているのに対し、WHOはこれを認めないとして「WHOは公衆衛生より政治を優先した」と指摘し、中国寄りだと批判しています。

こうしたWHOの姿勢について、アメリカ政府高官は「問題なのはWHO全体ではなく上層部の発言だ」と述べ、テドロス事務局長ら上層部への強い不信感をうかがわせています。
【トランプ大統領のねらい1】

トランプ大統領としては中国との関係のさらなる悪化を避けながらも、みずからの初動対応への批判をかわし、感染拡大の責任追及の矛先をほかに向けるため、今回、WHOを標的に強硬な姿勢を示した可能性があります。
【トランプ大統領のねらい2】

さらに、WHOに政治的な圧力をかけることで、中国の影響力の拡大を、けん制するねらいもあるとみられています。

トランプ政権内では新型コロナウイルスの対応で、中国が各国に医療関係の物資を大量に提供していることを受け、影響力の拡大を警戒する声があがっています。

背景には中国が巨大な経済圏構想「一帯一路」の一環として、「健康シルクロード」を唱えていることがあり、トランプ政権内部では中国がこの実現に向けてWHOとの連携を強め、感染症対策を足がかりに覇権を目指しているという見方も出ています。

このため国際機関に対する締めつけを強化することで、中国の影響力の拡大を抑えようとしている可能性もあります。