「人との接触機会を8割削減」 家庭や企業の意識に変化が

「人との接触機会を8割削減」 家庭や企業の意識に変化が
政府が東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に、「緊急事態宣言」を行い、人と人との接触機会を8割削減する呼びかけが始まって14日で1週間。家庭や企業の意識も変わってきています。
東京・新宿区に住む主婦の三宅まどかさんは1歳3か月の長女を育てていることから新型コロナウイルスに感染しないよう、日々手洗いやアルコール消毒を欠かしません。今月7日に政府が行った「緊急事態宣言」に東京が含まれ、人との接触機会を最低7割極力8割削減することが求められてからは、夫以外との人との接触を減らすよう工夫して生活しています。

スーパーには買い物客がレジ周辺に密集することから今はなるべく行かないようにしています。野菜などの食料品やおむつなどの大半の生活必需品をネットで購入し、買い物で外に出かける回数を減らしています。

また、これまで散歩で長女と近くの公園を訪れていましたが、子どもや保護者との接触を避けるため行かないようにしていて、今は自宅の敷地内で遊ばせたり、人通りのある大通りを避けて散歩したりしています。

三宅さんは「8割削減の期限がはっきりと決まっていれば、人との接触を減らして生活するモチベーションも保てますが、この状況がいつまで続くかわからないのが1番つらいです。途中で気が緩んでしまう気もしますが、しっかり守らないといけないと思う」と話していました。

戸惑いながらも取り組んでいる…

政府が呼びかけている人と人との接触機会を8割削減する取り組みについて、東京・新宿区で聞いたことろ、具体的な削減方法が分からず戸惑いながらも、意識して取り組んでいるという声が多く聞かれました。

会社員の57歳の女性は、「買い物は週に1回まとめて購入程度で、それ以外はほとんど外出しないようにしています。スーパーのレジに並ぶとき前の人と2メートルぐらい離れるようにするほか、電車でも人の正面に立たないようにするなど気をつけているので目標の8割はおおむね達成できていると思います」と話していました。

病院帰りの75歳の女性は「ほとんど人と会わないようにしています。きょうは薬を受け取りにいくため、病院に行かなければなりませんでしたが、待合室では人との間隔を置いて座りました」と話していました。

一方、会社を経営する47歳の男性は、「100点満点でいうと、自己評価は10点です。接触を避けるべく車を使いたいですが、駐車場代の負担などを考えると現実的には電車を使わざるを得ず、人との接触を8割減らすのは難しいなと毎日思っています。そもそも、8割減らす目標は漠然としていて、家から一歩も出ないことでしか達成できないのではと思い限界を感じます」と話していました。

企業で厳しい対応も

大手精密機器メーカーの「リコー」は、人との接触を最大限避けるよう在宅勤務の社員に対し、上司の許可なしに外出を認めない厳しい対応をとっています。

東京・大田区にある「リコー」の本社では、政府が緊急事態宣言を行った今月7日以降、およそ2000人の社員の9割以上が在宅勤務となっています。

14日昼過ぎの人事などを担当する部署のオフィスは、室内の電気は消され、パソコンの電源も落とされ、仕事をする社員は1人もいません。

会社では、新型コロナウイルスの感染対策を徹底するため、在宅勤務中に、取引先などの外部の人と会う場合や、本社や事業所などに出勤する必要がある場合、上司に事前に報告した上で家からの外出許可を得なければなりません。社員が業務中の外出で新型コロナウイルスに感染するリスクを避けるとともに、人との接触を減らすのがねらいです。

政府が人との接触の削減を呼びかけた7日以降、これまでに許可されたケースは、▽業務に必要なパソコンが壊れ、代わりのパソコンを取りに行く、▽注文したオフィス機器を受け取りに行くなど数件にとどまっているということです。

一方、新製品を開発する社員や保守点検などのサービスを担う社員を在宅勤務にするのは難しいことから、人との接触を避けるため、公共交通機関を使わずに自家用車での通勤を特別に認めるなどの対策をとっているということです。

「リコー」の瀬戸まゆ子人事本部長は、「社員には、在宅勤務をしている目的は人との接触を最小限に抑えるためだと強調して伝えていますが、この状況が長引くとどうしても出社しないといけない業務には限界が出てくる」と話していました。

専門家「2週目となるこれからが正念場」

行動経済学が専門で非常時の市民の行動に詳しい、京都大学の依田高典教授は、人と人との接触を8割減らす政府の呼びかけについて、今後、接触を減らす取り組みをどう継続させていくかが課題になると指摘しています。

依田教授は、東日本大震災の際、政府の節電要請に市民がどれだけ応じたのかなど非常時の自粛に従う行動を分析しています。人との接触を減らす政府の呼びかけについて、「東日本大震災での節電要請で1週目は多くの家庭で節電に取り組んだが、2週目は慣れで効果が小さくなり、3週目以降になると取り組みの効果がすっかり消えてしまった。今回の政府の呼びかけも2週目となるこれからが正念場だ」と述べました。

その上で「具体的な行動指針がないまま人と接触しないようずっと家にいろというのは大変な心理的ストレスになり、小さな気のゆるみが大きなほころびにつながりかねず、注意が必要だ」と指摘しました。

依田教授は、「市民に一様に削減を求める今のやり方は医療崩壊を避けるためにも大切なことだが、今後は継続に向けた具体的な行動計画が必要になる。東日本大震災の計画停電のように、誰が、いつ、何をすべきかということを『見える化』させることで、生活に見通しが立ち、市民が行動しやすくなる」と述べ、政府は取り組みを継続させるため具体的な計画を提示すべきだとの考えを示しました。

そして依田教授は、「未来への希望が持てなければ現在の我慢は限界を迎えてしまう。国や自治体が感染リスクについてしっかりと評価し、リスクが高いところには補償の検討も視野に入れて休業を引き続き求めざるを得ないが、低い業種については経済活動再開の道筋を探り、国民が自営・自活の道に戻れるようにする必要がある」と述べ、経済活動への配慮を求めました。