先生からの手紙「きょうだい」のあなたへ

先生からの手紙「きょうだい」のあなたへ
「たくさん甘えたいだろうに、こらえて頑張っていたね。
弟さん、妹さんも大事ですが、私にとってはあなたがとても大切でいとおしい存在だったよ」


ある先生から、障害のある弟がいる「きょうだい児」の教え子に送られた手紙です。
きょうもどこかで寂しさを感じているきょうだいのあなたに届きますように。
(宇都宮放送局 記者 石川由季)

「きょうだい児」って?

「きょうだい児」は、障害や病気がある兄弟姉妹のいる子どもたちのことを言います。彼らは特有の悩みを抱えるケースが少なくありません。
その悩みは多岐にわたります。
▽親の関心が兄弟姉妹に向きがちで寂しさを感じたり、いい子でいなくてはとプレッシャーを感じてしまう。
▽介護が必要であったり、騒音など人混みが苦手な兄弟がいることで外出先が制限されてしまう。
近年、支援の必要性が訴えられていて、きょうだい児をサポートする民間の組織や、大人になった「きょうだい」たちが悩みを打ち明け合う会が少しずつ増えてきています。

「俺なんかいなくてもいい」

冒頭に紹介した手紙を受け取ったのは宇都宮市の小学5年生の、ゆずき君。坊主頭がトレードマークの元気な男の子です。
ゆずき君は3人兄弟の長男で、脳性まひの弟がいる「きょうだい児」です。弟は寝たきりでしゃべることはできませんが、ゆずき君にとってはどんな話でもニコニコと聞いてくれる心のよりどころです。
いっぽうで弟が治療で入院した際には、祖父母の家に預けられるなど、弟の存在はゆずき君の生活にも影響を与えてきました。
ゆずき君
「ママも弟もいないからずっとさみしかった。家族は弟のことで準備に追われてる感じがあったから言いたいことも言えなかった」
ゆずき君の母親
「よく『弟ばっかりずるい』とか『俺なんか別にいなくてもいいんだ』とか、『死んでやる』とかまで言っていた」
ゆずき君の父親
「下の子に手がかかるのは正直どうにもならない現実でもあるし、長男もないがしろにはできないし。どうしてあげたらいいか分からなかった」

寄り添ってくれた先生

そんなゆずき君を救ったのが、学校の先生。
今回の手紙の送り主です。
小学1年生のときに担任だった女性の先生は、きょうだい児であることを知ったうえで、いつも気にかけ親身になって寄り添ってくれたと言います。
友達とけんかをしたときも、経緯をしっかり聞いてくれました。
一生懸命やった宿題で、文字がマスからはみ出してしまったときも「上手に書けている」と褒めてくれました。
ゆずき君
「先生だけは、最後まで話をちゃんと聞いてくれた」
ゆずき君の母親
「『どうせ俺なんて』とか『俺はダメなんだ』とよく言ってたんですけど、それを言わなくなりました。小さな小さなことをたくさん褒めてもらい、自己肯定感があがったのかなと思います」

学校でのきょうだい児支援 現状は

国内で数少ない「きょうだい児支援」の専門家、目白大学人間福祉学科の滝島真優助教は自身も自閉症の弟がいる「きょうだい」です。
滝島さんは去年、全国で初となる「学校でのきょうだい児支援」についての調査を行いました。見えてきたのは厳しい実態です。
対象は、宇都宮市の小中高の教員ら。
「きょうだい児」ということばを聞いたことがあるか尋ねたところ、聞いたことがあったのは、回答を寄せた347人のうち77人で、わずか2割にとどまりました。
また、対応のしかたについて「相談先がない」という回答もあったのです。
民間団体できょうだい児支援を続けてきた滝島さんは、ゆずき君が学校で救われたように、最も長い時間を過ごす学校でこそ子どもたちへの支援が必要だと訴えています。
目白大学人間福祉学科 滝島真優助教
「私も小学生のときに、学校の先生が自分だけのために時間を作り話を聞いてくれたことが、とてもうれしかったことを今でも覚えています。安心して自分の気持ちが承認される場があることは非常に重要。きょうだい児の認知を広げ、まずは目をかける、声をかけるというような先生方が日常生活で負担なくできることをしてほしい」

あなたがとても大切

ゆずき君の当時の担任の先生は、どのような思いで接していたのか。私たちが今回取材を申し込んだところ、先生は育児休業中だったため会ってお話を聞くことはできませんでした。
その代わりに、ゆずき君と家族に向けて当時の思いを手紙に書いてくれたのです。
先生から送られてきた手紙をゆずき君たちに手渡すと、父親が家族みんなに読んでくれました。
先生からの手紙
「ゆずきさま、ご家族のみなさま。ご無沙汰しております。入学の時からかわいい坊主頭で大きな声…」
「家庭訪問に伺ったとき、弟さんのことを詳しく聞きご家族で写った写真もたくさん見せてもらいました」
「ゆずきさんがおうちでもいろんなことを我慢して兄としてふんばっていることを感じました」
「たくさん甘えたいだろうに、それをこらえて頑張っている姿をえらいなと思ったよ。たくさんの良いところをもっともっと伸ばしてあげたいと思いました」
「ゆずきさんの弟さん、妹さんももちろん大事ですが、私にとっては目の前のあなたがとても大切で、いとおしい存在だったよ」
少し照れくさそうに手紙を読んだゆずき君。
「手紙を書いてくれてうれしかった」と答えていました。

先生から「きょうだい」のあなたへ

先生からの手紙は、ゆずき君だけにあてられたものではなく、きょうもどこかで寂しさや孤独を感じている、きょうだいのあなたへの手紙です。
あなたは1人ではありません。
我慢しないで、大丈夫。
障害や病気のある子どもたちが生きやすい社会になることと同時に、きょうだい児たちが素直な気持ちを打ち明けられる場所が、学校や社会全体で増えていくよう、これからも取材を続けたいと思います。
宇都宮局 記者
石川由季
平成24年入局。大津局を経て、宇都宮局で県政を担当。福祉や子育ての問題も取材。