トランプ大統領とクオモ知事 2人のリーダーに注目 新型コロナ

トランプ大統領とクオモ知事 2人のリーダーに注目 新型コロナ
アメリカでは、新型コロナウイルスの感染拡大にともなって、トランプ大統領と、ニューヨーク州のクオモ知事という2人のリーダーに注目が集まっています。
アメリカのテレビ局は、昼前に行われるクオモ知事の記者会見と、夕方に行われるトランプ大統領の会見を連日、全米に生中継で伝えていて、外出制限で家にいる時間が長くなった人たちにとって、2人はもっとも目にする時間が長い人物と言われています。

「バイデンよりクオモ」

トランプ大統領は先月30日、FOXニュースの電話インタビューで、「クオモ知事を民主党の大統領候補に」という声が出ていることを問われると、「クオモ氏と戦っても別にかまわない。正直言うと、クオモ氏は“寝ぼけたジョー”より、よい候補になると思う」と述べ、バイデン前副大統領よりもクオモ氏のほうが大統領候補にふさわしいという考えを示しました。

対立も

一方で、共和党と民主党という党派の違いや、大統領と州知事という立場の違いもあり、意見の対立が表面化することも少なくありません。

先月28日には、トランプ大統領が「ニューヨーク、ニュージャージー、それにコネティカットの一部から移動した人について2週間程度、隔離措置をとるかもしれない」と述べ、感染拡大が深刻なニューヨーク州と隣接する地域から、ほかの地域への移動の規制を検討していることを表明。

これに対し、クオモ知事は「連邦政府による州政府への宣戦布告だ」と述べて、強く反発しました。

するとトランプ大統領は、その日の夜になってツイッターに「各州知事との協議などを踏まえ、移動に関する強い勧告を出すよう指示した。隔離は必要ない」と書き込み、方針を事実上撤回しました。

協力する姿勢も

ただ、ニューヨークが感染拡大の中心地となり、死者数が急増するにつれて、トランプ大統領もクオモ知事を支援する姿勢を見せています。

今月6日の記者会見では、クオモ知事から電話があったことを明らかにしたうえで、「クオモ知事が病院船を使わせてくれないかと尋ねてきた。もともとそんなつもりはなかったが、使わせることにする」と述べ、知事からの要請を受けてニューヨークに派遣している軍の病院船で感染者を受け入れることに同意し、協力する姿勢を強調しました。

クオモ知事の発言と対策

アメリカ、ニューヨーク州のクオモ知事は、新型コロナウイルスの感染が確認されてから、連日、記者会見を開いて、感染拡大を防止するための対策や支援を呼びかけています。

クオモ知事は通常、昼前に記者会見を開いていて、先月20日に、住民に外出制限を呼びかけた際には「私がすべての責任をとる。不満や苦情、他人を非難したい気持ちがあれば、私を非難してほしい。この決定の責任は私にのみある」と述べて協力を訴えました。

そして、感染者がおよそ3800人に上った先月25日には、「これまでに、これほどの数の人工呼吸器が必要とされる事態は想定されなかった。私たちが探しているのは、とにかく人工呼吸器、人工呼吸器、人工呼吸器だ」と述べ政府に支援を要請しました。

さらに人工呼吸器の不足を補うために中国に発注したほか、別の州の病院や動物病院にも寄付を募るなど、あの手この手で確保を急いできました。

また、病院のベッドの数が不足するおそれが高まった先月26日には、「今後どのようなシナリオを描いても、現在の医療システムの受け入れ能力を超えることは明らかだ。病床を増やすためにできることはすべてする」と述べ、すべての病院に対し、病床数を最低でも50%増やすよう求めたほか、大規模なイベントを行う会場などを臨時の病院に改装したり、アメリカ政府に海軍の病院船の派遣を要請したりしました。

さらに、クオモ知事は、厳しい状況で働き続ける医師や看護師の負担を軽減する必要があるとして、全米の医療従事者に向けて、「あなたの住んでいる地域で医療危機が起きていなければ、私たちを助けてほしい」と呼びかけたほか、州内の医学部の学生を病院などに派遣する行政命令も出しました。

今月6日の記者会見では、屋外市場などに大勢で集まっている人たちを、「許容できない」と強く批判したうえで、悪質だとみなした場合の罰金を500ドルから1000ドル、日本円でおよそ11万円に引き上げると発表しました。

また、ニューヨーク市で、感染により亡くなった人の割合がヒスパニックや黒人のあいだで高くなっていることを受けて、クオモ知事は今月8日、「毎日、外に仕事に出る以外に選択肢はなく、その結果、ウイルスに身をさらすことになる」と述べて、公共交通機関をはじめ、社会に不可欠な仕事に出ている人が多いという見方を示し、今後、人種によって差が出ている原因を分析し対策を急ぐ考えを示しました。

一方で、ニューヨーク州の感染者と死者の数が、ほかの州と比べて圧倒的に多くなる中、厳格な外出制限を求めるタイミングが遅すぎたのではないか、という批判が強まっています。

これについて、クオモ知事は今月8日の会見で、「われわれの対応は早かった。どこよりも思い切った内容であり、時期尚早だと批判を浴びたほどだ」と述べて、初動に問題はなかったと反論しました。

クオモ知事を専門家はどう見る

クオモ知事について、ワシントンにあるシンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」でアメリカ政治を研究するアダム・ホワイト氏はNHKに対し、「クオモ知事の記者会見は毎日、全米に向けて発信され、ニューヨーク以外に住みクオモ氏を知らなかった人々の間でも知名度が一気に上がっている。2001年の同時多発テロの際、当時のニューヨーク市長、ジュリアーニ氏がその危機への対応で全米で有名になったのと非常によく似たことが起きている」と述べました。

また、「クオモ氏にとって最も課題となるのは、感染防止のための機器や検査キットなど物資の不足だ。特に人工呼吸器については大統領は企業に対して製造を命じるなどの権限があるが、知事にはそうした権限はない。知事は人々に自宅にとどまったり、ビジネスを一時的に閉鎖するよう求めることはできるが、物資の供給という面ではできることは限られている」と指摘しました。

また、「ブルッキングス研究所」のガルストン上級研究員は、トランプ大統領との違いについて「トランプ大統領は、みずからを『チアリーダー』と呼んでいる。新しい薬や機器について語り希望や楽観主義を強調し、危機を小さく見せようとしている。一方のクオモ知事は、人工呼吸器やベッドが足りないなどと実際の問題に焦点をあてている」と述べ、クオモ知事は現実主義的だと分析しています。

そのうえで、クオモ知事が高い支持率を維持するかどうかについては「指導者というのは究極的には結果によって評価される。結果がよくなければ、人々は『クオモ知事は口ではうまいことを言っているが、われわれは苦しみ続けている』と言うかもしれない」と述べ、ニューヨークの感染拡大をおさえ込めるかどうか次第だという見方を示しました。