地元を遠く離れ病院で亡くなった父を見送った男性 心境語る

地元を遠く離れ病院で亡くなった父を見送った男性 心境語る
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新型コロナウイルスに感染し、極めて重い症状になった患者の治療に使われる人工心肺装置、「ECMO(エクモ)」を装着するため、地元から遠く離れた病院に転院し、その後、死亡した男性の息子がNHKの取材に応じ、1人で父親を見送った心境を語りました。
男性の父親は81歳。

2月20日に感染が確認されました。

通っていたスポーツジムで感染したとみられています。

当初は電話で会話ができるなど比較的安定していましたが、容体は急変しました。

男性は「熱も下がってきていたので『出てきたら、また一緒に酒を飲もうよ』と、父も『ありがとうな』って。それが最後の会話で、その日の夜には酸素濃度が急に下がって、翌日に人工呼吸器を取り付けるところまで悪化した。急変するのがこのウイルスの怖いところだと思う」と話します。

さらに数日後には「ECMO」の装着が必要となりました。

当時、入院していた病院では「ECMO」を管理する体制が十分に整っていないと説明を受け、主治医が転院先を探した結果、見つかったのは東京都内の病院でした。

東京の病院では「ECMO」を装着して治療が続けられましたが、血栓ができたことによる脳梗塞のほか、副作用で出血が続くなどしたことから「ECMO」を外すことになりました。

そして感染が確認されて1か月後の3月20日、男性の父親は息を引き取りました。

母親も感染が確認され一時、入院していたため、男性1人でICUのガラス越しに父親をみとりました。

男性は自宅で待つ母親のためにも、父を地元まで搬送したいと思いましたが、引き受けてくれるところはなく、その日のうちに東京で火葬することになりました。

喪服も持っていなかった男性は、病院に駆けつけた服装のまま父親を見送ったということです。

男性は「泣いたり、誰かに怒りをぶつけたりしても、父がよけい悲しむんじゃないかと思ったので、一切感情を押し殺して無言で火葬が終わるのを待っていました。まだ、お骨があたたかくて、ひざの上が汗でびっしょりになりました。子どものころ、よくだっこしてもらったんですけど、立場が逆になってしまったなと思いながら、お骨が本当にいとおしくて抱き締めて連れて帰りました」と話しました。

取材を受けたことについて、男性は「感染者の数が増え、緊急事態宣言が出されているが、自分の周りにも危機感がない人がいる。みんなで気持ちを一つにして立ち向かわないと、このウイルスとの闘いは終わらないと思う。私の話で、少しでも意識が変わって行動を変えてくれれば父の供養にもなると思った」と話していました。