台風19号から半年 顕在化する工業団地の浸水リスク

台風19号から半年 顕在化する工業団地の浸水リスク
去年10月に起きた台風19号の豪雨被害から半年。被災地では着実に復旧が進み、企業の経済活動も一見すると元通りに戻ってきています。しかし被災地の企業の苦悩は今も続いています。商工業関係の被害額が全国で最も深刻だった福島からの報告です。(福島放送局記者 樽野章)

一見すると元通りでも…

こちらの画像は、被害が大きかった「郡山中央工業団地」のものです。

280社の企業が入っていますが、すぐ近くを流れる阿武隈川とその支流が氾濫し全域が浸水しました。なかには高さ3メートル近くまで浸水した地域もあり、福島県全体の商工業関係の被害額の4割以上に上る、402億円の被害が出ました。

多くの企業は数か月間生産停止を余儀なくされましたが、発災から半年がたち、ほとんどの企業が操業を再開し活気も戻りつつあります。

しかし取材を進めると、企業の間には共通した懸念があることがわかりました。
取材に応じてくれたのは、タンクなどを製造する金属加工メーカーです。創業64年、およそ30人が働く地場の中小企業です。
高さ160センチの浸水被害に遭い、1か月以上、生産停止に追い込まれましたが、現在はほぼ元通りに稼働しています。
それでも社長の表情は晴れません。頭を離れないのは、再び工業団地が浸水するのではないかというリスク。取引先が新たな仕事の発注をためらうのではないかと、不安に感じているのです。

実際に、復旧状況を確認しようと視察に訪れた取引先の企業から、工業団地の水害対策をたびたび尋ねられ、答えに窮したといいます。
黒田美和子社長
「県外の取引先から、またこうした浸水被害が起きるのではないかという質問を投げかけられた時には本当に言葉につまりました。浸水被害が起きないと保証はできません。この先、仕事が減少するのではないかということが一番心配です」

サプライチェーンの崩壊を懸念

なぜ取引先は浸水のリスクをこれほどまでに心配するのか。それはひとたび、工場が停止すれば、その取引先の会社だけでなく、部品の供給網=「サプライチェーン」にも影響が広がるためです。
通常、一つの製品をつくる場合、そのメーカーだけでなく、背後にいくつもの企業が存在し、それぞれがつくった部品を組み合わせて完成します。そのため、ひとつの企業が生産を停止すれば、サプライチェーンが崩壊し、製品が予定通りに完成しないおそれが出てくるのです。
実は、郡山中央工業団地は34年前にも全域が浸水する被害を受けました。水害のリスクを避けたい取引先にどうすれば安心してもらえるか黒田社長は頭を悩ませています。
黒田社長
「水害など災害のリスクを考え、少し遠かったり価格が高かったりしても別なところに頼んだ方が安心ではないかという判断をされれば、どうすることもできない」
浸水リスクのない別の場所で事業を始めるのは中小企業にとって容易ではありません。この会社は、6年前に2つ目の工場を新設したばかりで、別の場所に移転する資金的な余裕はありません。

大手企業は移転も

中小企業が苦悩を抱える一方で、大手企業の中には、移転の動きも出始めています。
去年12月、日立製作所は、この団地で行っていた事業の大半を移転させると発表しました。会社は、移転の理由について従業員の安全の確保が難しいことに加えて、災害が起きた際、取引先への供給が止まる可能性があるためだとしています。

対策はどうなっている?

国は、10年間で1840億円の予算を投じて氾濫した阿武隈川の治水工事を行う計画です。しかし企業からすれば、10年という月日は長すぎると言います。工業団地会の会長をつとめる小川則雄さんは、対策が遅れれば、取引先が離れていきかねないと懸念しています。
小川則雄団地会長
「今回の浸水被害をきっかけに競争相手に顧客を奪われることを懸念する声が多くの経営者から挙がっています。実際に、新規の受注が減少している企業も複数あると聞いています」
被害を受けた堤防では、いまだに土砂がえぐり取られた場所も残っていて、小川さんは危機感を感じています。
小川団地会長
「国は10年かけて大規模な工事を行うと聞いていますが、その間にまた同じような水害が起きるかもしれない。ここで被災した企業が希望を持てるように、できる限り早く復旧してほしい」

問題は全国でも

去年は台風の影響で長野県や千葉県などでも工業団地が浸水しました。

これについて、災害時の危機管理に詳しい日本大学危機管理学部の福田充教授は、河川や海に近い場所に工業団地は立地していることが多く、大規模な災害に見舞われるようになったここ数年は、リスクが増してきていると指摘します。
福田充教授
「中小企業は地域の雇用を守り、サプライチェーンの一翼を担っており、災害に遭えば地域の競争力の低下につながる。そうした点を行政は強く自覚すべきだ。行政は工業団地に企業を誘致する際にリスクを分析した上できちんと説明することが求められる」

取材を通じて

3月に発表された地価公示で郡山中央工業団地に近い工業地の地価の下落率は3.6%と全国最大となり、浸水リスクの影響が顕在化しています。

地場の中小企業は地域経済の根幹を支える存在だけに、工業団地の浸水リスクにスピード感をもって対応していくことが求められていると感じました。
福島放送局 
樽野章
平成24年入局室蘭局、札幌局をへて福島局。
台風19号の被害を継続取材。