新型コロナの影響も 自治体が抱える「防じんマスク」の課題

新型コロナの影響も 自治体が抱える「防じんマスク」の課題
新型コロナウイルスの感染拡大で日本中で不足しているマスク。その需要の高まりから、家庭用や医療用のものに加え、工事現場などで粉じんの吸入を防ぐために使う「防じんマスク」まで品薄になっているといいます。去年、一連の台風や大雨で被災した地域では復興にあたり、この防じんマスクの必要性が急激に高まりました。いつ、同じような災害が起きるかわからない状況の中、全国の多くの自治体で、防じんマスクを十分に確保できていない実態が見えてきました。(神戸放送局記者 堀内 新)

被災地で防じんマスクが足りない

千葉県内の各地に設置された災害ゴミの仮置き場。辺り一面に舞い散っていたのは、次々と運び込まれるがれきや廃棄物から出る粉じんでした。県は急きょ、現地の作業員に配るための防じんマスクを買い集めました。その数はおよそ2万個に上ったと言います。
千葉県 大気保全課の担当者
「こんなに多くの防じんマスクが必要になるとは想像もしていませんでした。もし、首都圏の広い地域で大きな災害が起きた時には必要な数が確保しにくくなることも考えられるので、これから備蓄を進めていきたいです」
被災地に職員を派遣した甲府市も、千葉県と同様、防じんマスクの問題に直面したそうです。被災地で活動した職員から「1日にマスクを4個から5個使い、足りなかった」という報告を受け、備蓄量を増やすことを検討しているといいます。

全国での防じんマスク 備えは?

国に問い合わせたところ、自治体の防じんマスクの備蓄は『義務』ではありませんが、各自治体に『備えるよう』呼びかけをしているとのことです。そこで、実際、どのくらいの自治体が防じんマスクを備蓄しているのか取材してみることにしました。取材対象としたのは、大気汚染防止法でアスベストの拡散防止に責任を持つ、都道府県や政令指定都市など計138の自治体。まず、職員用の防じんマスクの備蓄について聞きました。
すると「災害時用に備蓄している」と回答したのは51の自治体と全体の3分の1程度。「災害時用に備蓄していない」と答えた自治体が86に上り、このうち62の自治体が「入手先も確保していない」と回答しました。
被災地で活動するのは職員だけではありません。住民やボランティアも活動します。

そこで、住民やボランティア向けの防じんマスクについても尋ねてみました。するとこちらも、「備蓄しているか、入手先を確保している」と答えた自治体は54にとどまり、「備蓄も入手先の確保もしていない」と回答した自治体が76に上りました。

国が呼びかけているにもかかわらず、多くの自治体が防じんマスクを備えていないことが分かる結果となったのです。なぜ自治体は十分な数の防じんマスクを備蓄していなかったのでしょうか。

尋ねてみると「災害の規模によるので必要枚数が想定できず、予算が組めない」こと、さらに「ほかの被災リスクもあるなかで、対策の優先順位が低い」ことなどを理由にあげていました。

ただし、『備えている』と回答した自治体でも数万個の在庫がある地域もあれば、数十個であったとしても『備えている』と回答したところもあり、自治体ごとに温度差があることが明らかになりました。

深刻な健康被害も

そもそも、なぜ国は自治体に「防じんマスク」の備えを呼びかけているのでしょうか。それは平成7年1月に起きた阪神・淡路大震災と深い関係がありました。25年前、地震で倒壊した建物から飛び散ったアスベストを吸い込み、長い潜伏期間のあと、いま「中皮腫」などの病気を引き起こしたと訴える人が出てきているのです。

阪神・淡路大震災の復興や復旧にあたった人のうち、少なくとも5人がアスベストが原因で死亡し、労災や公務災害として認められていることが分かっています。国は、こうした震災によるアスベストでの健康被害を重く見て、自治体に対して「防じんマスク」の備蓄を呼びかけているということです。
このアスベストは、「いしわた」とか「せきめん」と呼ばれる自然界にある鉱物で、髪の毛と比べても非常に細く、飛び散ると空気に浮遊します。断熱や防音の効果が高いので、今から20年ほど前までは、ビルの吹きつけや工場や住宅の屋根材や防音材などとして、広く使われていました。

平成18年までに製造や使用が全面的に禁止されたものの、いまでも多くのアスベストが残っていて、国は、アスベストが使われている民間の建物について、全国に280万棟あると推計しています。地震などが起きて建物が壊れれば、アスベストが飛び散るという危険性がまだ残っているわけです。

「防じん」でなければダメなんです

使用する状況によりますが、環境省のマニュアルによると、災害時に屋外で活動する場合には、粒子捕集効率が95%以上の防じんマスクが必要とされています。

製造している会社に取材したところ、1個当たり200円から300円ほどで販売しているということです。使用期限は2年から3年だということで、備蓄したマスクは定期的に買い替える必要があります。しかし、国内で新型コロナウイルスの感染が拡大してからは、発注に製造が追いつかない状態が続いているということで、仮に今、自治体からの注文があってもすぐには十分な対応ができないといいます。
災害現場や、古い建物の解体工事現場などでは、非常に細いアスベストが浮遊しているおそれがあります。このため、かぜや花粉を防ぐための一般的なマスクや手作りの布マスクでは十分な効果は得られません。

“通常のマスクが手に入らないから、代用品として防じんマスクを購入しよう”。もし、自分のまわりにそう考えている人がいたら、一度、立ち止まって考えるよう、声をかけていくことが大切だと思います。防じんマスクに限らないことですが、本当に必要としている人たちの手に行き届くようにするためには、われわれの節度ある行動が求められています。
神戸放送局記者
堀内 新