職場で感染させたら…新型コロナの不安に法律の専門家は

職場で感染させたら…新型コロナの不安に法律の専門家は
新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業やそこで働く人たちにさまざまな影響が出ています。
「この時期に飲み会を開いたら…?」
「職場で感染を拡大させてしまったら…?」
こうした不安について、法律の専門家に聞きました。
答えてもらったのは仙台市を中心に活動している労働問題に詳しい太田伸二弁護士です。

1 飲み会を開催したら?

1つ目は「感染が拡大する中で飲み会や歓迎会を開催したら」。太田弁護士は「会社が飲み会を主催した場合、労働者から訴えられる可能性がある」と指摘しています。

太田弁護士
「会社には、労働者が安全で健康に働けるよう配慮する『安全配慮義務』があります。歓迎会などで参加が義務づけられている場合、会社の業務にあたることがあります。また飲食店での飲み会は密集・密閉・密接の3つの密が重なり感染リスクが高まるので、安全配慮義務に違反する可能性があります。もし感染者が出れば、裁判で多額の賠償を求められることもありえます」

また上司と部下など、個人的に行う飲み会にも注意が必要だと太田弁護士は話しています。

太田弁護士
「上司が部下を誘う行為は、そもそもパワーハラスメントにあたる可能性があり、新型コロナウイルスの感染が拡大しているこの状況では悪質性がより高まるといえるでしょう。上司が賠償を命じられる可能性があります」

太田弁護士によりますと、安全配慮義務は飲み会だけでなく、「営業で3つの密がそろった場所に行かせた」など、会社のあらゆる業務で問われるということです。

2 感染を拡大させてしまったら?

2つ目は「自分が知らない間に職場で感染を拡大させてしまったら」。こんな時、感染させられた人から訴えられたらどうなるのでしょうか?

太田弁護士
「この場合は責任はありません。ただ、その時の認識によっては賠償を求められる可能性もあります」

仮にトラブルなった時、重要になるのは「予見可能性」という考え方です。「予見可能性」とは、裁判でよく使われる言葉で、「危険な事態を引き起こす可能性があることを、事前に認識できたかどうか」を指します。

太田弁護士
「知らない間に感染を拡大させた場合、自分が感染を拡大させるおそれがあるという事前の認識がないことになるので、責任はありません。しかし発熱が続いてPCR検査の結果待ちだったり、医者に検査を勧められていたりしたのに出社していたら、感染が拡大することを認識していたと(予見可能性があったと)判断され、賠償を求められる可能性もあります」

3 解雇されたら?

そして「新型コロナウイルスの影響で解雇や雇い止めを受けたら」。この場合、裁判で自分の雇用を守ることはできるのでしょうか?

太田弁護士
「解雇するにあたっての4つの要件を満たしているか、チェックしなければなりません」

太田弁護士によりますと、解雇などをめぐる裁判では、
▼必要性
▼回避努力
▼人選
▼手続きの妥当性の4つの要件を満たしていたのかが大きな争点になるということです。

太田弁護士
「例えば会社が赤字でもないのに解雇した場合、必要性の要件を満たしていない可能性があります。そのほか会社が解雇を回避する努力をしていたのか、対象の人が適当なのかといった点が問われます。具体的な事情によって異なるので、弁護士に相談するのがよいでしょう。また当面の生活資金などについては雇用保険や生活保護など公的な支援制度を利用してほしいと思います」

4 会社が経営危機になったら?

最後のケースです。「感染拡大や外出自粛で会社が経営の危機になったら」。そんなとき、国や自治体に責任を問うことはできるのでしょうか?

太田弁護士は「非常に難しいです」と話します。

太田弁護士
「行政は国民の安全確保のために必要な措置を取る権限をもっているので、それで経営に影響が出たとしても、裁判で賠償を求めるのは非常に難しいです。ただ例えば、感染したという根拠もないのに会社名を公表された場合などは、責任を問える可能性はあります」

経営の損害については現在、行政機関で検討している休業補償などの動向を注視する必要がありそうです。