緊急事態宣言「神奈川モデル」の医療現場は 新型コロナ

緊急事態宣言「神奈川モデル」の医療現場は 新型コロナ
「緊急事態宣言」の対象となった神奈川県の自治体ではクルーズ船を受け入れた経験から、いち早く感染爆発に備え、医療崩壊を防ぐための取り組みを進めてきました。
6日、県庁で開かれた新型コロナウイルスの患者の受け入れ先を選定する「調整本部」の全体ミーティングには各部署から集められた30人以上の職員が医療対策を検討していました。

「調整本部」を指揮するのは、災害派遣医療チーム・DMATの阿南英明医師で、集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の患者の受け入れ対応を担ったことから、急きょ県の医療危機対策統括官に就任しました。

神奈川県では阿南医師などが中心となってクルーズ船に対応した経験と教訓をいかし、先月25日には医療崩壊を防ぐための「神奈川モデル」を打ち出して、いち早く対策に取り組んできました。
「神奈川モデル」では重症患者への高度な医療を提供する体制を維持するため、中等症の患者を集中的に受け入れる「重点医療機関」をあらかじめ指定し、2500床を確保することや、軽症や無症状の感染者は宿泊施設や自宅で受け入れる方針を国より早く示してきました。

背景にはクルーズ船で対応した際に人工呼吸器は必要ないものの、酸素吸入などが必要な「中等症」の患者の搬送先の調整に苦慮した経験があったといいます。
阿南医師は「症状が中間的な患者が多く、入院しているうちに軽くなったり、重症化したりするケースが多かった。医療スタッフの手間も必要なボリュームゾーンといえ、集中的に受け入れる医療機関が必要と感じた」と話しています。

一方で、この日のミーティングでは対策を実際に進めようとするとさまざまな課題があることが見えてきました。「重点医療機関」を確保し始めたものの、軽症の患者が療養するホテルなどの確保が思うように進んでいなかったのです。

阿南医師は「患者のためにホテルを確保するという未知の世界、初めてのミッションだが、神奈川モデルを動かすのに必要なパートなので頑張ってほしい」と呼びかけていました。

そして宿泊施設での軽症者受け入れではホテルのスタッフの感染防止について、ホテル内もリスクに合わせ「ゾーン」で区切ることになり、早速、現場に職員が向かう一方、協力してくれる宿泊施設をさらに確保するため職員が「営業活動」に出ることになりました。

このほか検査前の「陽性疑い」の人の体調変化に24時間対応するコールセンターの必要性や、検査の急増に備え、検査を行う拠点を県内に複数作ることも議論されていました。

すでに3つの病院を「重点医療機関」に指定し、中等症患者の受け入れが始まりましたが、対策本部のホワイトボードには2500床を目指す中で打診した病院の回答状況や、感染の危険がある区域と安全な区域を分ける「ゾーニング」の指導の必要性など、病床確保の進捗状況が記されていました。

緊急事態宣言から一夜明けた8日も、対策本部は「重点医療機関」との間の必要物資のやり取りや、受け入れ体制の確認など、メンバーがやり取りに追われていました。
阿南医師は「新型コロナウイルスの感染拡大の対策と同時に、医療崩壊を防がなければならず、これができないと社会崩壊につながってしまう。緊急事態宣言が出されたことで感染拡大のスピードを抑えられれば、その間に神奈川モデルの構築を急ぐことができる。やるなら今しかないと思っています」と語っていました。

「職員が先に壊れてしまう」

神奈川県内の市町村のうち、相模原市では検査態勢の拡充を進めていますが、検査件数が増える中、現場は課題に直面しています。

相模原市の衛生研究所ではクルーズ船からの検体に加え、市内の病院などの集団感染で濃厚接触者の検査が急増し、ことし2月から新型コロナウイルスの感染が疑われる検体を1500件以上検査してきました。

感染防止の指導を受けたうえで取材に入ると、臨床検査技師などが検体から遺伝子を取り出したあと、装置にかけて結果を確認していましたが、このときは15件中3件が「陽性」でした。

従来は専用の装置2台で1日40件まで検査していましたが、2月以降は上限の2倍以上の96件を未明まで検査した日もあったといいます。

衛生研究所には17人の職員がいますが、新型コロナウイルスの検査ができる経験や技術がある職員は5人だけだといいます。

臨床検査技師の金沢聡子さんは「検査には集中力が必要で、疲労や睡眠不足が続けばミスをしてしまうおそれがあるが、正確な結果を出すためにも、検査員が暴露する危険性を避けるためにも、緊張を強いられます」と話していました。

そこで相模原市はおよそ800万円かけ、新たな装置を1台導入し、検査方法も工夫して時間を短縮しました。

しかし、職員の人数は変わらないうえ、3人は子育て世代のため、保育所などが閉まってしまうと、人員を確保できないおそれもあるということです。

この日も市内の医療機関で感染者が出て、急きょ多くの検体が送られてくることになり、翌日は出勤が難しい職員もいるなか、態勢づくりに追われていました。

熱を出した小学生の娘を夫に託して出勤していた金沢さんは「子どもにはかわいそうですが、この仕事についている以上、やらなくてはならないので、頑張るしかありません。装置が導入されてよかったですが、長期化すると検査する職員が先に壊れてしまうかもしれず、人を増やさないと追いつかないと思います」と話していました。