運動も争点も投票率も新型コロナで…

運動も争点も投票率も新型コロナで…
新型コロナウイルスの感染者が1万人を超えた韓国。感染者が増えるペースは、一時期に比べれば落ちてきているものの、外出自粛が呼びかけられるなど影響は続いています。そうした中で行われる総選挙は、候補者にとっても、有権者にとっても、異例ずくめとなっています。
(ソウル支局記者 佐々一渡)

いつもと違う選挙運動

4月2日の午前0時。本格的な選挙運動が始まり、各党が一斉に動き出しました。ただ、選挙戦はいつもと一変しています。

まず、目につくのがマスク姿。候補者としては、顔を知ってもらいたいところですが、有権者のそばに近寄るときは、神経を使わざるをえません。
マスクに自分の名前を大きく書いたり、透明のプラスチック製の板を口元につけてマスクがわりにするなど、試行錯誤しています。
また、握手のかわりに、拳をぶつけ合う形であいさつをかわしたり、消毒液をつけたりする候補者もいます。

SNSでの戦い激化

大規模な集会も控える中で、候補者たちが力を入れているのが、SNSの活用です。韓国では以前からインターネットを使った選挙運動が盛んですが、今回は各候補が特に力を入れています。
多くの候補者がSNSを通じて、有権者の疑問に答えたり、みずからの活動を紹介したりしています。消毒作業を行ったり、感染拡大の影響で売り上げが落ちている地元の食堂を訪ねたりと、実にさまざまです。

争点も新型コロナウイルス

今回の選挙は、5年の任期が残り2年余りとなったムン・ジェイン(文在寅)大統領の「中間評価」と位置づけられています。大統領を支える革新系の与党「共に民主党」と、保守系の最大野党「未来統合党」が第一党を争う構図で、もともとは、ムン大統領の経済政策や北朝鮮への対応などをめぐって、論戦が繰り広げられる見通しでした。
しかし、2月に入って、新型コロナウイルスの感染が急速に広がると、状況は一変。与野党の論戦のポイントは、新型コロナウイルスへの対応に集中するようになりました。

野党側は、感染拡大を招いたのは、ムン政権の初動が失敗だったと、厳しく追及しました。
初めての死者が確認された2月20日、ムン大統領は、アカデミー賞映画「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ(奉俊昊)監督と会談し、談笑する姿がニュースで流れ、緊張感に欠けるとの批判も出ました。
感染者の数は、2月下旬には3000人を超え、調査機関「韓国ギャラップ」の世論調査では、ムン大統領の支持率は40%台前半にまで落ち込みました。

感染拡大のペース鈍化 与党には追い風か

危機感を強めたムン政権は、徹底的に検査を行うことで、封じ込めを図りました。ムン大統領みずからも、感染が最も深刻な南部テグ(大邱)を訪れて対策会議を開いたり、検査キットを製造している会社を視察したりするなど、先頭に立って対応にあたっている姿勢を強調しました。
世界に先駆けて導入された車に乗ったまま検査を受けられる「ドライブスルー検査」は、海外からも注目を集めました。
こうした取り組みも功を奏し、一時、1日に900人を超えた感染者の増加ペースは、最近は100人を下回る日も目立つようになるなど、徐々に下がり始めます。
それに伴い、ムン大統領の支持率も好転。与党の勝利を望む人も半数近くにのぼり、追い風になりつつあるようです。
2月には、野党の勝利を期待する人が上回っていたので、逆転した形です。

ただ、韓国でも、外出の自粛が呼びかけられたり、学校が休みになったりするなど、いわば「コロナ疲れ」が広がっています。感染がさらに拡大するような事態になれば、不満が一気にムン政権や与党に向かう可能性も否定できません。

影響は有権者にも

投票率にも影響がでるのではないかと懸念されています。投票したくても投票できない人が多くでる可能性があるのです。

例えば、隔離されている人のために郵便で投票できる仕組みもつくられましたが、申し込みは3月のうちに、すでに締め切られています。投票日の直前に感染が確認された人や、外国から帰国して隔離されている人がどうやって投票するのか、不透明な状況です。

また、世界各地で感染が広がる中で、50を超える国で在外投票が行えなくなり、8万人以上が投票できなくなる見通しです。

どうなる投票率

感染していない人も投票所で感染することを恐れて、投票に行かないのではないかという見方もあります。こうしたことから、投票率は大きく下がるのではないかという分析もあります。
一方、世論調査では、80%の人が必ず投票に行くと答え、前回4年前の同じ時期と比べて、8ポイント高くなっています。新型コロナウイルスへの対応をめぐって関心が高いため、投票に行く人が多くなるのではないかという見方もあります。

結局、今後、新型コロナウイルスの感染の状況がどうなるのかが選挙結果を左右することになりそうで、与党も野党も有権者も、これまでに経験したことのない異例の選挙となっています。
ソウル支局記者 佐々一渡