「 “医療崩壊” の危機に直面していた」札幌市の病院長が語る

「 “医療崩壊” の危機に直面していた」札幌市の病院長が語る
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、北海道はことし2月に独自に「緊急事態」を宣言しましたが、治療拠点の1つとなった札幌市の病院の院長がNHKの取材に応じ、「病院が機能不全に陥る “医療崩壊” の危機に直面していた」と当時を振り返りました。
北海道ではことし2月、感染者が増えたことなどから全国に先駆けて独自に「緊急事態」を宣言し、対応に当たりました。

これについて、感染症指定医療機関として先月末までに31人の感染者を受け入れた札幌市の市立札幌病院の向井正也院長がNHKの取材に応じました。

「院内で想定外の事態が相次いだ」

向井院長は新たな感染者が19人相次いで入院してきた2月28日から先月18日にかけての状況を、「院内で想定外の事態が相次ぎ、いわゆる “医療崩壊” の危機に直面していた」と振り返りました。

想定外の1つは、ウイルスが漏れ出さないように気圧を低くした感染症対応の病室で、重症の患者に人工呼吸器をつけるため「気管挿管」をした際に呼吸できない状態に陥ったケースでした。

向井院長は「病室が乾燥しやすかったのが原因で、たんが非常に固くなってチューブが詰まった。手術で気管を開いて患者は幸い良くなったが、感染症病棟では重症の感染者を診るのは不可能だと分かった」と話しました。

病院は感染症対応の病室での重症者の受け入れを見合わせることを決め、急きょ、「救命救急センター」の集中治療室を感染者専用にし、重症の感染者を受け入れることにしました。

その結果、交通事故などの重篤な救急患者の受け入れは断念せざるを得ず、市内のほかの病院に任せるしかなくなったということです。

「入院患者も外来も対応することになり大変な負担に」

さらに、病院の外来には2月28日以降、発熱などの症状を訴える人が1日に最大で10人ほど訪れたということで、向井院長は「感染症が専門の医師は3人と人数が限られている。入院患者を診療しながら外来も対応することになり大変な負担になった」と明かしました。

そして先月9日には当時用意していた感染者用の病床10床がすべて埋まり、新たな感染者を受け入れられなくなりました。

このため保健所が市内のほかの3つの医療機関での受け入れを調整したということで、向井院長は「病院の医療崩壊を回避するうえで保健所の役割が大きかった」と述べました。

また病院では、先月18日までに別の診療科にあった15床を軽症の感染者専用に転用し、1日当たり最大で25人受け入れられるようにしたということです。

「教訓生かし受け入れ態勢拡充など対策強化したい」

北海道では2月28日に鈴木知事が独自に「緊急事態」を宣言しましたが、向井院長によりますと、宣言の期間が終わった先月19日以降は1日当たりの新たな感染者が1人を大きく下回り、外来の患者も減ったことから、危機を脱したということです。

向井院長は「発熱などの症状を訴える患者が病院に殺到することが医療崩壊をもたらす最大の危険だと知った。得られた教訓を生かして、受け入れ態勢の拡充など対策を強化したい」と話していました。

専門家「想定外を想定した医療機関どうしの連携必要」

感染症対策に詳しい北海道医療大学の塚本容子教授は、市立札幌病院が直面した危機について「感染症は想定外が起きる。治療に関しても手探りの部分があり、大変な苦労だったと思う」と話しました。

そのうえで、院内感染を防げたことが診療体制を維持できた重要なポイントの1つだとして「医療従事者の感染を防ぐ対策を一層充実させる必要性が改めて明らかになった。市立札幌病院で得られた教訓を広く共有し、すべての医療機関が感染拡大を想定した備えを強化する必要がある。想定外を想定した医療機関どうしの連携が必要だ」と話していました。