思いよ届け 東日本大震災アメリカ人犠牲者遺族の今

思いよ届け 東日本大震災アメリカ人犠牲者遺族の今
アメリカ・バージニア州にあるランドルフ・メーコン大学の関係者から送られてきたメール。「まもなく満開です」

メッセージとともに、キャンパスに植えられた、1本の桜の木の写真が添付されていた。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、バージニア州では、ほぼすべての大学が学生たちへの講義をオンラインで行っている。そのためキャンパスに人けはない。そんななかでも、薄紅というより白に近い桜の花は、太陽の光をいっぱいに浴びて誇らしげに咲いている。実はこの桜の木は、9年前の震災で犠牲となったアメリカ人女性の両親が植えたものだ。
(国際放送局ワールドニュース部 榎原美樹)

ユーモアにあふれ、いつも笑顔

テイラー・アンダーソンさん(当時24)は、石巻市の小中学校で指導助手として英語を教えていた。ユーモアにあふれ、いつも笑顔を絶やさない元気いっぱいの女性だったという。2011年3月11日の地震直後、小学生たちの無事を確認したあと、テイラーさんは自転車でアパートへ帰宅途中、津波に巻き込まれて行方不明となった。当時、ニューヨークに赴任していた私は、テイラーさんの両親、アンディーさんとジーンさんが住むバージニア州を訪れた。
「被災地のどこかの避難所に娘がいるのではないか」

そう信じ学校関係者らと情報をとりあう夫妻にインタビューし東京へその情報を送った。数日後、娘を探すため、日本へたとうとしているアンディーさんのもとに、東京のアメリカ大使館から電話がかかってきた。「娘さんとみられるご遺体が発見された」という、つらい知らせだった。

石巻の人々の温かい心に救われた

甚大な被害を受けた石巻に到着しテイラーさんの死を確認したアンディーさんにとって、「一生忘れられない」ことがあったという。それは、地元の人々の温かさだった。
テイラーさんの父 アンディーさん
「石巻の多くの人々が、家を失い、家族を失っていました。それなのに私のところに来て、“テイラーさんを死なせてしまって本当に申し訳ありませんでした”と謝りに来られるのです。私と家族の心配ばかりしてくれました。私は、テイラーがもしも生きていたら、被災した人々を助けるためにここに残りたいと言うだろうと思いました。この時、私は被災した子どもや学校の支援を、彼女に代わって行っていくと決意したのです」
テイラーさんの葬式を東京で執り行った後、アンディーさんは遺灰を抱え、アメリカに帰国。ほどなくして、テイラーさんの名前を冠した、テイラー・アンダーソン記念基金を立ち上げた。

Follow your dream

テイラーさんは、幼いころからアニメなどの影響で日本に興味を持つようになった。日本語を大学で学び、JETプログラム(地方公共団体が政府などの協力のもとに実施する事業)に応募して、夢だった日本での教育活動に携わった。
アンディーさん
「テイラーのモットーは、Follow your dream“夢を追いかけて”でした。テイラー自身、彼女の夢を追いかけ、生きていました」
アンディーさんは立ち上げた基金も、被災地の子どもたちの夢を応援するために使ってあげたいと決めたという。これまでに行ってきた活動で、よくニュースなどで取り上げられてきたのは、「テイラー文庫」と呼ばれる、英語の本の寄付だ。基金を使って、これまでに石巻地域の15校に、文庫を寄付してきた。
また、毎年続けているのが専門学校に通う学生への奨学金制度だ。パートナーは、仙台YMCA国際ホテル製菓専門学校。震災の影響などで経済的に苦しい家庭の学生の学費などを支援し、製菓の技術やホテルでの接客のスキルを学んでもらい、自立を助けようというものだ。

私は1人じゃない

この奨学金を受けた1人、大槻綾香さん(23)は、石巻の北上町で被災。川を遡上(そじょう)した津波が自宅をのみこみ母親の京子さんが犠牲となった。生前、おいしいケーキやパイを作ってくれた京子さん。綾香さんも幼いころから菓子職人になりたいという夢を持っていたという。綾香さんが奨学金を受けて、その夢に向かってYMCAに通っていたある日、学校を訪問したアンダーソン夫妻と初めて面会。
大槻綾香さん
「アンディーさんは、“お母さんを亡くして、大変だったね”と声をかけてくれました。夫妻が娘さんを亡くしていたことを知っていたので、共感するところがあると感じ、涙が出そうになりました」
2017年に卒業し、現在は埼玉県のイタリア料理屋に併設された菓子店で、ケーキやパイを作る仕事をしている綾香さん。

“親を亡くすなどのつらい経験をした子どもたちの相談相手にもなってあげたい”。

こうした希望から通信教育で学べる大学で心理学を勉強しているという。自分ひとりではない、そう感じさせてくれたのがテイラーさんの両親だった。自分も同じような経験をした子どもたちに、「1人ではない」と伝えてあげたい、綾香さんはそう思えるようになったという。

「苦しいときに、受けた恩を日本へ」

綾香さんのような奨学生を支援し日米の高校生や大学生の相互訪問などを続けてきたアンダーソン夫妻。

しかしいま、日本を含む世界各国が、新型ウイルスの感染拡大で困難に直面する。夫妻は「だからこそ、今、私たちは日本の人々に励ましあおうと伝えたい」と言う。

彼らは先月、テイラーさんの母校、ランドルフ・メーコン大学で日本語を学ぶ学生たちとともに、あるメッセージを収録。日本語と英語でカメラに向かって声をあげた。
「日本の皆さん。あなたたちは一人ではありません。私たちはいつもあなた方のことを考えています。一緒にがんばりましょう!」
その数日後、バージニア州でも感染者が見つかり、キャンパスが閉鎖となった。そのメッセージは、テイラー・アンダーソン記念基金のホームページなどにアップされている。お互いが苦境に立ったとき、「1人ではない」と言い合うことができる、9年前の震災で娘を失った代わりに得た、大切な友達。アンダーソン夫妻にとって、それが日本の人々なのだ。
国際放送局ワールドニュース部 榎原美樹