「夜の歓楽街」 生活困窮の声相次ぐ

「夜の歓楽街」 生活困窮の声相次ぐ
新型コロナウイルスの感染拡大で、夜間の外出を自粛する動きが広がるなか、風俗業界で働く女性たちの支援団体には、生活の困窮を訴える相談が急増しています。支援団体は「風俗業界で働く人たちの深刻な窮状について、社会が理解を深め、適切な支援が届くようになってほしい」と話しています。
弁護士や社会福祉士などでつくる支援団体「風テラス」は、風俗業界で働く女性たちからの相談をSNSやメールなどで受け付けていますが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って相談が急増し、ことし2月から、2日までの相談件数は321件に上っています。

寄せられた相談は「給料が2週間ほぼない状態で、家賃や生活費、医療費が払えない」などと生活の困窮を訴えるものが最も多く、中にはシングルマザーの女性から「臨時休校で子どもを預けるのも難しく、ほとんど働けなくなった。ほかに収入を得るすべもなく追い詰められている」などという深刻な相談も寄せられているということです。

支援団体によりますと、全国の性風俗店で働く女性は推計で30万人以上に上るということですが、こうした女性たちは、臨時休校に伴って仕事を休まざるを得なくなった保護者の休業補償など、雇用関係の助成金が支給される対象になっていません。

「風テラス」発起人の坂爪真吾さんは「風俗業界の仕事は、福祉の網からこぼれ落ちた人たちをグレーゾーンの中で包摂する存在だったが、感染拡大の影響で、こうした生活の基盤が一気に崩れてしまった。今すぐ手元に1万円や2万円がないと生活が成り立たない人が非常に多いという深刻な窮状について、社会が理解を深め、適切な支援が届くようになってほしい」と話しています。

キャバクラなどで働く女性たちは

新型コロナウイルスの感染拡大は、夜の歓楽街で働く女性たちの暮らしに深刻な影響を及ぼしています。

首都圏のキャバクラ店で働いている36歳の女性です。

女性は、キャバクラ店の紹介会社に登録し、ホステスが少ない店に派遣される形で週に5日以上、働いていました。

しかし感染が拡大した2月下旬から仕事が減り始め、先月の給料は、前の月の3分の1程度に落ち込みました。

女性は2年前にうつ病を患い、思うように働けない状態が続いたため、貯金は少なく、先月は6万5000円ほどの家賃を支払うと、手元に生活費はほとんど残らなかったといいます。

さらに先月末、東京都の小池知事が夜間の外出や「接待を伴う飲食店」に行くことを当面、自粛するよう呼びかけてからは、さらに仕事が減り、今月の仕事は、すべてなくなったということです。

女性は、幼いころに両親から虐待を受けて家を出たため、収入が途絶えても頼れる人はいないといいます。

キャバクラ店などで働く女性たちは、休業補償などが支払われる対象になっていないため女性は、休業や失業に追い込まれた人が、最大20万円を無利子で借りることができる「緊急小口資金」の制度を利用して当面の生活費に充てようとしています。

女性は「何らかの事情を抱えて、夜の世界でしか働けない人もいて、急に“自粛”となると、生活に行き詰まる人がたくさん出てくる。まわりに相談できる人もいないので、何らかの補償がないと家賃や電話代すら支払えなくなってしまう」と話していました。

日本最大の歓楽街 新宿 歌舞伎町は

日本最大の歓楽街、新宿 歌舞伎町の客足は一気に途絶え始めています。

歌舞伎町商店街振興組合によりますと、ことし1月から外国人観光客を中心に訪れる人が徐々に少なくなり、先月下旬に、東京都の小池知事が夜間の外出を自粛するよう呼びかけてからは、仕事帰りのサラリーマンなどの客足も大幅に少なくなったということです。

歌舞伎町には、出入りの自粛が求められているキャバクラ店や性風俗店なども数多くありますが、客を風俗店などに紹介する「無料案内所」の男性は「今月に入ってから休業するキャバクラ店が増え、3分の1くらいが店を閉めている」と話しています。

2日夜は、店頭に立つ客引きやスカウトなどの姿もほとんど見られませんでした。

歌舞伎町商店街振興組合の杉山元茂副理事長は「歌舞伎町を訪れる人は、ふだんより6割から7割減っているという印象で、先週末からは明らかに街がさみしくなった。補償があれば思い切って店を閉めることができるが、もともと経営がぜい弱な店も多く、いったん休業したら資金が続かなくなるなどして、営業が再開できなくなってしまうところもあると思う。自粛していれば、嵐が過ぎるだろうという楽観的な考え方は持たず、行政には収束したあとのことも考えて対応してもらいたい」と話しています。

スナック 経営の危機に直面

夜間の外出を自粛する動きが広がる中、都内のスナックの中には客足が途絶え、経営の危機に直面しているところもあります。

東京 中野区でスナックを開いている高田文恵さん(73)は、息子の剛二さん(44)と2人で店を切り盛りしていて、2日、開店から29年目を迎えました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って2月中旬から売り上げが大きく減少し、先月の売り上げは半減したと言います。

店内では、テーブルやカラオケのマイクなどのアルコール消毒を徹底しているほか、マスクを着用し、客とは距離を空けて接客するなどの対策を取っていますが、先月30日に「接待を伴う飲食店」への出入りの自粛が呼びかけられてからは、客足がほぼ途絶えた状態になったといいます。

このため店舗の家賃やカラオケのレンタル代の支払いなどが困難な状況に追い込まれているほか、高田さんが、夫と剛二さんの3人で暮らしているマンションの家賃の支払いも難しくなっています。

高田さんは「先月の家賃はギリギリ支払えましたが、今月からは本当にどうしていけばよいのかという感じです。家族が食べていけて、支払いさえきちんとできれば、それでいいという感覚で営業を続けてきましたが、今回それすらも、ままならなくなりました。28年も頑張ってきたんだから店をたたみたくないです。でも家賃も払えなくなったら、たたむしかない。守りたいですけど、守り切れない怖さがあります」と話しました。

剛二さんは「誰のせいでもなく、みんなで乗り切るしかないですが、損失の補償をしていただきたいというのが、水商売に携わるすべての人たちの切実な気持ちだと思います」と話していました。