感染危機の中での米大統領選 トランプ陣営が狙う「女性票」は

感染危機の中での米大統領選 トランプ陣営が狙う「女性票」は
新型コロナウイルスの感染拡大で、異常事態となっているアメリカ。事態の沈静化のため、連日、記者会見を開く「戦時下の大統領」トランプ大統領だが、彼の頭の中には、常に、「秋の大統領選挙での再選」という目標があることは、想像に難くない。

新型コロナウイルスの影響は、野党・民主党の候補者選びも含め、大統領選挙そのものも一時的な休止に追い込んでいるが、トランプ陣営は、着々と準備を進めている。

ターゲットにしているのは「女性」票。再選のカギのひとつに据えている。接戦州での運動に密着してみると、そのしたたかな戦略がかいま見えた。
(ワシントン支局 記者 西河篤俊)

トランプ選対の“広告塔”は何を語るのか…

ことし2月、西部コロラド州デンバー郊外。ロッキー山脈をのぞむ、標高1600メートルの街は雪で覆われていた。

中国をはじめ世界的な新型コロナウイルスの感染拡大がアメリカ国内でも報じられていたが、このときは、まだ「対岸の火事」…

ここでトランプ陣営が主催する集会があるという。300人ほどが入るホテルの会場は、女性たちでいっぱいだ。
そこに登壇したのは、ラーラ・トランプ氏。トランプ大統領の次男エリック氏の妻で、元テレビ局プロデューサー。モデルか、ハリウッド女優にも見えるようないでたち。

ラーラ氏は、選挙の“広告塔”的存在。選挙参謀のひとりは、トランプファミリーだった。

しかし、その口調は、かなり厳しい。
ラーラ氏
「4年前、民主党やメディアは、私たち女性は、女性だという理由でヒラリー氏に投票すると勘違いしてたわよね。私たちはそんなにバカではない、実際にはもっと賢いわよね。ホワイトハウスに最適な人物を選びましょう!」
ラーラ氏は、37歳。2歳の幼い子どもの母親でもあり、子育ての苦労話も忘れない。

しだいに、会場は彼女に親近感さえ覚え始める。
女性支持者
「もうメディアの言うことは信じないわ。今夜のように自分が直接聞いた話、体験したことを信じるわ」

カギを握る「接戦州の女性票」

トランプ陣営が、このコロラドに力を入れるのには理由がある。前回4年前の大統領選挙で、僅差で民主党のヒラリー・クリントン氏に敗れたからだ。

2020年の選挙では、こうした「スイング・ステート(揺れる州)」とも呼ばれる接戦州での勝利が欠かせないし、そのカギを握るのが、「女性票」だという。
女性の支持が得られなかったことが、コロラドを落とした理由だというわけだ。

当時、トランプ氏は、過去の「有名人相手なら、女性は何でもさせてくれる」などといった女性を見下す発言や女性スキャンダルが報じられ、逆風となった。

逆に言えば、「女性の支持を一定程度、取り込むことができれば再選に近づく」と考えている。

“数字”で女性に訴える

では、トランプ大統領の何を「売り」に女性有権者にアピールしているのか。

陣営の運動員を育成するための講習会の取材が、特別に認められた。講師として登壇したのが、ジョン・ペンス氏。どこかで聞いた名前…。そう、ペンス副大統領の甥だという。「ファミリー」選挙、さながらだ。

小柄だが、甘いマスク。ラーラ氏同様、陣営の上級顧問だという。

女性にどう訴えかけるのが有効か、その手法を説くジョン・ペンス氏。
ジョン・ペンス氏
「とにかく数字が大切だ。電話で呼びかけるときは、感情的ではなく客観的に事実を伝えよう。女性の失業率は、過去57年間で最も低いんだ」
狙うのは、女性票を含むいわゆる無党派層。

この層に、好調な経済や雇用環境を示して「暮らしの問題と、大統領の女性スキャンダルとどちらがあなたにとって大切ですか?」と強調するという。

そもそも比較する問題ではないような気もするが、会場にいた女性運動員はすっかりその気だった。
女性運動員
「お財布に直接関わる話をすれば、関心を引くことができるわ。家計のやりくりを任されているのは、妻や女性たちだから」
こんな風に話す人もいた。
「トランプが自分の夫や彼氏だったら嫌だけど、違うでしょ。彼はアメリカ大統領よ。大統領としてやるべきこと、結果さえ出してくれれば、私は構わないわ」

女性が強い関心寄せる「安全」にも焦点

女性票を取り込むためには、女性が常に気にしていることを、忘れてはならない。

南部テキサス州。ここも選挙の行方を左右する重要州だ。その人口の4割はヒスパニックで、その多くが民主党を支持している。

が、ここでは、トランプ陣営は、女性が強い関心を寄せる「安全」に焦点を当てた戦略を打ち出している。
メキシコとの国境地帯の町、マッカレン。人口の85%はヒスパニックだ。

地元の共和党の支部を訪ねると、女性の運動員たちが電話口で、こう支持を呼びかけている。

民主党が政権を奪還すれば、不法移民に寛容な政策をとり、「治安が悪化する」。不法移民が増えれば、合法的にアメリカで暮らすヒスパニックの「職が奪われる」。だから、不法移民に厳しいトランプ大統領こそが、私たちの日々の暮らしを「守ってくれる」。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、躍起になっているのが女性たちが持つ不安の解消だ。

前出のラーラ・トランプ氏は、先週26日には、インターネット上で、女性の支持を呼びかける「バーチャル集会」を開催。「この危機を乗り越え、国の安全を守ることができるのは、トランプ大統領しかいない。バイデン氏では無理だ」と訴えていた。

こうした作戦が効を奏してか、トランプ大統領の支持率はこのところ上昇傾向にさえある。
女性への支持訴えが奏功しているのは、トランプ大統領への政治献金の面からもうかがえるらしい。

4年前の選挙の時には、全体の4分の1にとどまっていた女性からの献金。それが、今では3分の1になり、献金額も大幅に増えているという。
政治家の献金などを分析する団体『オープンシークレッツ』研究員 グレース・ヘイリー氏
「トランプ陣営は無党派や郊外に住む女性への働きかけを強めている。この『郊外の女性』は4年前の大統領選挙で、トランプ勝利に貢献した人たちだが、2018年の中間選挙では多くが民主党の支持に回った。だから、今年の選挙では彼女たちの選択がカギを握ると、トランプ陣営も、戦略上重要だと位置づけている」

「でも、やっぱりトランプは嫌い」

ここまで紹介してきたトランプ支持の女性は、多数派ではない。

アメリカの調査会社「モーニングコンサルト」が先月(3月)発表した世論調査で、トランプ大統領の仕事ぶりを聞いたところ、女性で見ると、「支持する」が44%、「支持しない」は54%。
このうち民主党支持者で見ると、「支持する」が12%、「支持しない」は85%。彼女たちの「トランプ嫌い」は、圧倒的だ。

もちろん、トランプ陣営もそれは承知している。

だから、少しでも無党派の女性票を取り込むことが、再選には欠かせないと考えている。

新型コロナで「実績」が目減り

現在、アメリカでは新型コロナウイルスの感染拡大の抑止が最重要課題だ。

その中で、トランプ大統領の「実績」が目減りしてきている。

たとえば、株価。トランプ大統領は、ダウ平均株価の上昇をみずからの「実績」だと強調してきた。史上初の3万ドルも目前だったが、2月末から株価は暴落。先月(3月)には、ついに、トランプ大統領が就任した2017年1月の終値を一時下回った。つまり、「帳消し」だ。

「こんなに失業率が低いのは50年来だ」と誇ってきたが、今月(4月)2日に発表されたばかりの週間の新規の失業保険申請件数は、史上最悪の660万超えである。

この状況が長引けば、女性獲得戦略の「土台」が崩壊する。「日々の暮らし」を重視する女性の心が離れていく事態をトランプ大統領は恐れている。

1日も早く景気を回復させて、「危機を乗り切った」とアピールしたいと、焦りを募らせているかもしれない。

異様な事態の先にあるものは…

対する野党・民主党は、「新型コロナウイルス危機」で攻勢に出たい。

民主党の大統領候補に近づくバイデン前副大統領は、自身の危機管理対応力を強調するとともに、副大統領候補に女性を選びたいとも表明。アメリカで女性が副大統領になったことは一度もない。

この1か月、アメリカは、新型コロナウイルスによって、激変した。「WAR(戦争)」、「INVISIBLE ENEMY(見えない敵)」といったことばが頻繁に使われるようになった。あの「同時多発テロ」の時より不安だと漏らす人も少なくない。

残念ながら、感染拡大防止のため、われわれも取材自体が難しくなり、全米各地の人々の話を直接は聞けなくなっている。まずは、この事態を乗り切り、ふたたび、走り回れるようになった時には、現地で何が変わり、何が変わっていないのか、しっかり見届けたいと思う。
ワシントン支局 記者
西河篤俊