災害に強いガソリンスタンドを

災害に強いガソリンスタンドを
地震や台風など全国で災害が頻発するなか、有事のガソリン供給がいま大きな課題になっています。首都直下型地震や南海トラフ地震では深刻なガソリン不足に陥るという予測もあります。こうした中、東日本大震災の教訓をいかし、災害に強い供給網を築こうという取り組みが進んでいます。(仙台放送局記者 高垣祐郷)

給油を待つ車の列、スタンドで泣き崩れる人も

何キロも続く車の列。東日本大震災直後に被災地のガソリンスタンドの周辺ではこうした光景がよく見られました。行方不明になった家族を車で探しに行く人や、家を流されて車での生活を余儀なくされた人が給油のために長時間並び、客どうしのトラブルも相次ぎました。

このとき浮き彫りになったのが、有事のガソリンの供給体制のもろさです。国が行った調査によりますと、震災から10日以内に宮城・岩手・福島の3県で営業できたスタンドは半数にとどまり、被災者の生活再建に大きな影を落としました。
当時の状況を話してくれたのは、宮城県内で9か所のスタンドを運営する会社「丸山」の佐藤義信社長です。
停電のため燃料をくみ上げる機械が使えず、手動でガソリンをくみ上げ、震災翌日から販売を再開させました。スタッフの中には家族が行方不明になる人もいましたが、ガソリンを求める人たちを救おうと、一丸となって対応したといいます。

しかしこのとき問題になったのが、ガソリン入荷のめどが立たないことでした。このため佐藤さんのスタンドでは、1人10リットルの給油制限を行わざるをえませんでした。
佐藤社長
「泣き崩れている人や、疲弊して困った表情をしている人もいて、できるだけ多くの命を救おうとガソリン確保に奔走したが、入荷が止まる事態は想定できていなかった」

なぜ届かなかったのか

当時、佐藤さんのように給油制限を行った東北6県のスタンドは、営業できた店舗の9割にのぼりました。

なぜそうせざるをえなかったのか?

理由は東北唯一の生産拠点、仙台製油所が機能不全に陥っていたからです。7メートル近い津波に襲われた製油所ではタンクが倒壊し、火災も発生。一時、半径2キロメートル圏内の住民に避難指示が出される事態となりました。
このとき致命傷となったのが、製油所の制御システムが浸水したことです。製油所の運営に欠かせない“心臓部”の役割を果たす設備が使えなくなり、新品に置き換えられるまでの1年間、一切、生産ができなくなったのです。

それだけではありません。ガソリンをタンクローリーに移し替える設備が壊れ、出荷できなくなってしまったのです。設備が応急的に修復されたのは震災から10日後。このため供給が大幅に遅れることになったのです。

津波に強い製油所へ

こうした被害を二度と繰り返さないようにしようと、震災後、製油所を運営するJXTGエネルギーでは、震災時の被害想定を引き上げ、さまざまな対策を進めてきました。

まず1階にあった制御システムを7メートル以上の高さがある2階に移しました。これによって東日本大震災と同じ程度の津波が来ても、被害を防ぐことができるようになりました。
またガソリンを出荷する設備の場所を変更しました。震災前は幹線道路へのアクセスのよさから海の近くに設けていましたが、津波の被害を少なくすることに重点を置き、より内陸側に移しました。
豊永マネージャー
「できるだけのことはやっているつもりです。常に自分たちにできることは何なのか、模索しながら努力を続けていきます」

製油所に依存しない供給体制を

ガソリンスタンドを経営する佐藤さんも、この9年間で災害への備えを強化してきました。これまではガソリンの輸送を運送会社に依頼してきましたが、有事の際の運送体制を確保しようと、1台3000万円する大型のタンクローリーを4台購入しました。

万が一、仙台製油所が被災した場合にも、県外から迅速にガソリンを取り寄せられるようになりました。
中でも力を入れているのが備蓄です。3基の地上タンクを建設したほか、地下にあるタンクも拡張し、震災前の倍以上の1300キロリットルを蓄えられるようにしました。

これは佐藤さんの店の通常の販売量の18日分にあたり、仮に道路が寸断され、ガソリンが入荷しなくても当面の間、持ちこたえることができます。

さらに停電への備えも強化しました。運営するすべてのガソリンスタンドに、停電時に自動で起動する発電機と、車のバッテリーの電力でガソリンをくみ上げる装置を導入しました。

有事にも安定供給を続けるための二重の備えです。
佐藤社長
「生命の危険があるのは災害から72時間とされている。初動での対応能力を持つことが、人の命を救うために何より大切だ」

備えは生かされた

こうした取り組みの成果は、去年の台風19号で発揮されました。堤防が決壊し住宅や田んぼに流れ込んだ川の水を排水するため、国は24時間体制でポンプ車を稼働させていましたが、燃料が足りず作業が中断するおそれがありました。そこで佐藤さんの会社に支援を依頼しました。

自前のタンクローリーで燃料を運び、いち早い復旧に貢献できたのです。

これまでかかった費用はおよそ3億円。会社の石油事業の収益の10年分にあたりますが、佐藤さんは災害への備えは経営の最重要課題だと考えています。
佐藤社長
「災害が頻発するこの時代だからこそ、人々の命を守る“最後の砦”を担う自信と誇りを持ち、地域にとって存在意義がある会社にならなければいけない」
今回の取材を通じて感じたことは、災害時には往々にして想定外のことが起きるということ。そのため事業の継続に必要な複数の選択肢を事業者として確保しておくことが重要だということです。

ガソリンスタンドは耐震性に優れた構造になっていて、非常用の備蓄倉庫や給水設備を設置することで、地元の防災拠点として活用する取り組みも始まっています。そうした取り組みが進み、災害への備えが一層強化されることを期待しています。
仙台放送局記者
高垣祐郷
平成26年入局
山口局、秋田局を経て去年から仙台局で経済担当。