韓国 感染拡大の中 総選挙の運動 ムン政権の対応が最大争点

韓国 感染拡大の中 総選挙の運動 ムン政権の対応が最大争点
韓国では、国会議員を選ぶ、総選挙の選挙運動が2日から始まりました。新型コロナウイルスの感染が広がる中、ムン・ジェイン(文在寅)政権の対応が最大の争点となっています。
韓国では、新型コロナウイルスの感染者が2日までに9976人確認されていますが、このところ感染拡大のペースは落ちてきていて、国会議員を選ぶ4年に一度の総選挙は、今月15日の投票に向けて、予定どおり2日から選挙運動が始まりました。

今回の総選挙は、任期が残り2年となったムン・ジェイン大統領の「中間評価」と位置づけられていて、300の議席をめぐり、革新系の与党「共に民主党」と、保守系の最大野党「未来統合党」の対決を軸に展開される見通しです。

感染拡大のペースが落ちていることから、最新の世論調査では、ムン・ジェイン大統領の支持率が1年4か月ぶりに55%を回復しました。

このため、これまでのところ与党に有利な展開とみられていて、与党は、選挙運動の期間中も感染拡大を防ぐ対策をアピールする方針です。

一方の野党は、ムン政権が発表した経済対策は不十分だと批判し、より大規模な支援策の必要性を訴えて支持を呼びかけています。

今回の総選挙では、新型コロナウイルスの影響で、各候補が集会の開催や有権者との握手を自粛するなど、活発な選挙運動は行われない見通しで、投票率が低くなるのではないかという指摘も出ています。

ムン政権の「中間評価」

韓国国会のホームページによりますと先月31日の時点で、300議席のうち、ムン・ジェイン政権を支える革新系の与党「共に民主党」は120議席で、過半数を下回る少数与党となっています。

対する保守系の最大野党の「未来統合党」は92議席です。

5年の任期を折り返し、残り任期が2年となったムン政権にとって今回の総選挙は「中間評価」と位置づけられています。

与党「共に民主党」が第一党を維持できるのか、それとも最大野党「未来統合党」が第一党を奪還するのかが大きな焦点となっています。

過去の総選挙は、その後の政権運営に影響を及ぼしてきました。

4年前の2016年に行われた前回の総選挙では、当時のパク・クネ大統領を支える与党が大幅に議席を減らし、野党に第1党の座を奪われました。

その後、パク大統領の支持率は29%まで下落し、急速に求心力を失ったと言われています。

半年後の10月以降、40年来の知人のチェ・スンシル氏をめぐる疑惑が次々と取り沙汰され、総選挙から8か月後の12月、国会で大統領の弾劾を求める議案が可決されました。

そして2017年3月、パク大統領は罷免に追い込まれました。

今回の選挙で、韓国の国民がムン大統領にどのような「中間評価」を下すのか注目されています。

専門家「2年後の前哨戦」

韓国の政治に詳しい慶應義塾大学の西野純也教授は、今回の総選挙について、ムン・ジェイン政権の実質的な中間評価であり、2年後の大統領選挙の前哨戦でもあると指摘します。

西野教授は「与党が第1党の座を逃すことになれば、国会で法案が通らなくなることは明らかで、ムン政権の支持率が急速に低下することは避けられない。選挙の結果によっては残りの国政運営が、かなり左右されることになる」としています。

また、ソウル中心部の選挙区で与党のイ・ナギョン前首相と、パク・クネ政権で首相を務めた最大野党のファン・ギョアン代表が対決することから「2年後の大統領選挙に向けた前哨戦の意味合いも強い」と述べています。

一方、選挙戦の行方を左右するのは、新型コロナウイルスへの対応だと分析しています。

西野教授は「新型コロナウイルスをめぐる政府の対応が政権の支持率と、ほぼ直結している状況だ。感染拡大が続けば与党にマイナスになる一方、感染拡大が収まって政権が感染症対策を適切に行っているという雰囲気が出てくれば、選挙戦でも与党が有利になる」と指摘しています。

そして選挙の結果によって、その後の日韓関係に、さまざまな影響が及ぶ可能性があると指摘しています。

与党が勝利した場合は、革新系の候補者が多数当選し、日本に対して厳しい意見を持つ国会議員が増えることで対日政策も厳しくなる可能性があるとしました。

一方、与党が敗れた場合について、次のようなパターンが考えられるとしています。

まず指摘したのは、前のパク・クネ政権が慰安婦問題の合意で、国民から反発を受けたことをよく理解しているだけに、選挙で敗れたあと、ムン政権がたとえ日韓関係を改善しようと思ったとしても、日本に歩み寄るような政策を主体的に打ち出すのは慎重にならざるをえないという可能性です。

逆に、対日政策の改善を求める保守派の野党が勢いを増して、厳しい対日世論も軟化し、日韓関係が改善する力学が働く可能性もあるとしています。

そのうえで「韓国国内で革新派と保守派の対立がさらに深まれば、両者の考えが最も対立する日本との歴史問題で、革新派の与党は譲歩せず、結果的には日韓関係に悪い影響を与えることになりそうだ」と分析しています。

日韓関係に影響が出る可能性も

日韓関係は、おととし10月、韓国の最高裁判所が「太平洋戦争中に日本で強制的に働かされた」と韓国人4人が訴えた裁判で、日本企業に賠償を命じる判決を言い渡して以降、悪化した状況が続いています。

日本政府は「徴用」をめぐる問題は、1965年の日韓請求権協定に基づき解決済みだとして、国際法違反の状態を是正するよう韓国政府に求めています。

これに対してムン・ジェイン政権は、三権分立の原則から司法判断を尊重するという姿勢を示しています。

その後、去年7月、日本政府は安全保障上の理由で、半導体の原材料など3品目について韓国向けの輸出管理を厳しくしました。

また、輸出手続きを簡素化する優遇措置の対象国から韓国を除外しました。

これに対して韓国政府は「徴用」をめぐる問題での報復だとして、対抗措置をとる考えを示し、去年8月には日本との軍事情報包括保護協定=GSOMIAを破棄すると通告しました。

失効が迫った去年11月、韓国政府は一転してGSOMIAの維持を決めましたが、韓国側は暫定的な措置だと主張していて、日本政府に輸出管理を厳しくした措置を撤回するよう求めています。

今回の総選挙で有権者が重視している政策は「新型コロナウイルスへの対応」や「経済活性化」に集まっていて、日本との関係を含む「外交」は、ほとんど争点になっていません。

しかし選挙の結果によっては、日韓関係にも影響が及ぶ可能性があります。

仮に与党が敗れて政権の求心力が失われれば、ムン大統領は、韓国世論から「日本に歩み寄った」とみられるような政策を今以上に、取りづらくなると指摘されています。

日韓の間の懸案は、いずれも双方の外交当局が話し合いによる解決を目指していますが、そうした交渉に影響が出る可能性も指摘されています。

韓国の選挙の仕組み

韓国では大統領が「帝王」とも言われるほど権限が強く、最高裁判所の裁判官を任命する権限や、国会が可決した法案を事実上、拒否できる権限もあります。

このため5年に一度の大統領選挙がもっとも重要ですが、国会議員を選ぶ総選挙も、その後の政権運営を左右すると言われる国政選挙です。

韓国の国会は、衆議院と参議院がある日本と異なり、一院制で解散もなく、総選挙は4年に一度行われます。

定数は300で選挙区が253議席、比例代表が47議席です。

このうち選挙区は、1つの選挙区で1人が選ばれる小選挙区制です。

一方、比例代表は得票率に応じて政党に議席が配分されますが、公職選挙法が改正されて、選挙区で当選者が少ない政党に優先的に、比例代表の議席が配分される枠が設けられ、少数政党が、より議席を獲得することが予想されています。

また同じく公職選挙法が改正され、投票できる年齢が、これまでの19歳以上から18歳以上に引き下げられ、18歳の誕生日を迎えていれば、高校生も投票できるようになりました。

韓国では若者の政治への関心が高く、韓国の選挙管理委員会によりますと、2017年に行われた大統領選挙では、19歳の投票率が77%に上りました。

一方、国会の信頼の低下は課題となっています。

今の国会では、与野党の激しい対立で審議が進まず、国会のホームページによりますと可決・成立した法案は37%と、過去最低の水準でした。

韓国のメディアは、国会が機能していない状況を「植物国会」とやゆしています。