ロックダウンとは 実際どうなの?

ロックダウンとは 実際どうなの?
「○日に、東京がロックダウンされるらしいよ」
いま、そんな不確かな言葉がSNSで飛び交っています。
その背景には、こんな疑問や不安があるからではないでしょうか。
「ロックダウン(=都市の封鎖)って、いったいどうなることなの?」
「国や自治体は、どこまで制限できるの?」
「政府は『緊急事態宣言を行う状況には至っていない』って否定しているけど、実際どうなの?」
今回、こうした疑問に答えるべく、担当者に徹底的に聞いてみました。
(安藤和馬)

広がるフェイク

「ロックダウン」が一気にトレンドワードになったのは、3月23日。東京都の小池百合子知事が、その可能性に言及した時です。
最初にこの言葉が登場したのは、3月19日の政府の専門家会議の提言。そこでは、海外の事例も引いて、ロックダウンを、「数週間の間、都市を封鎖したり、強制的な外出禁止の措置や生活必需品以外の店舗閉鎖などを行う、強硬な措置」と定義。そのうえで、感染爆発が起きた場合には、「取り得る政策的な選択肢は、ロックダウンに類する措置を講じる以外にほとんどない」と書かれています。

確かに、海外の主要都市ではすでに「ロックダウン」は行われています。

3月30日。複数のメールやSNSのメッセージが、私のもとにも届きました。
「4月1日あるいは3日から、東京都ロックダウンだそうです。政府筋から内々の確認情報が来ました。東京都に出入り出来なくなるそうです」
「4月2日(木)夜に発動の可能性大」
「都内は危険です。人口密度が高いので流通が止まると資材や食材があっという間になくなります」

日付もバラバラで、情報ソースも不確か。不安を煽る文句も付いています。
ただ妙に信ぴょう性のある記述も混じっているので、記者としては自分の取材不足かもしれないと、念のために「裏取り」に走りましたが、確たる根拠は得られませんでした。

政府サイドも、即座に「デマ」「フェイクニュース」と否定しました。

担当者を直撃!「ロックダウン」はできるの?

そもそも日本で「ロックダウン」は出来るのでしょうか。
日本は法治国家。都市を封鎖するにしても、根拠となる法律が必要なはずですよね。

そこで、3月14日に施行された「新型コロナウイルス対策特別措置法」(以下、特措法)をもとに、何ができるのか探ってみることにしました。聞いたのは、厚生労働省と内閣官房の担当者です。

Q:ロックダウンは法律で定義されていますか?
A:特措法には、「ロックダウン」という言葉はどこにも書かれていません。ロックダウンは抽象的な概念で、明確な定義はありません。もし、ロックダウン的なことをするにしても、まずは政府が「緊急事態宣言」を出すことが前提になると思います。

外出禁止は強制?罰則は?

Q:緊急事態宣言が出たら、外出禁止は強制できますか?
A:特措法では外出禁止は強制はできません。45条では、外出自粛を要請できると書かれています。あくまで要請です。

【第45条】「都道府県知事は、(略)生活の維持に必要な場合を除き、みだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないこと、その他の感染の防止に必要な協力を要請することができる」

Q:フランス、イタリア、イギリスなどでは法律で厳しい外出禁止の措置をとり、違反者には罰金が科されます。日本の場合、外出した際の罰則は?
A:守らなくても罰則はありません

Q:東京都で外出自粛が要請された3月28日と29日の土日は、雪が降ったこともあって、人出が少なかった。あのときの外出自粛と、緊急事態宣言後の外出自粛はどう違うのですか?
A:どちらも要請であり、差異はありません。先週末の自粛要請は東京都が運用でやっているだけで法律に基づくものではない。ただ、宣言後は法律に基づく要請になるので、「守らないとまずいかな」と国民の意識が変わるかもしれない。政府が宣言することで、いわば箔がつくということです。

イベント自粛に強制力は?

Q:では、イベントは強制的に中止できますか?
3月22日、さいたまスーパーアリーナで開催された「K-1」イベント。あのときは埼玉県知事が要請したにもかかわらず、結局開かれました。
A:イベントについては、45条2項で対応します。開催しないよう知事がまず「要請」して、それでも応じない場合は「指示」できます。指示には罰則はないものの、公権力を背景とした指示は、事実上の強制力を持つと考えられます。さらに指示を行ったら、事業者名などを知事がホームページなどに「公表」することになります。

【45条2項】都道府県知事は(略)、学校、社会福祉施設、興行場、その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者または、当該施設を使用して催物を開催する者に対し、当該施設の使用の制限もしくは停止、又は催物の開催の制限もしくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
【45条3項】正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、都道府県知事は、(略)指示することができる。
【45条4項】都道府県知事は、要請又は指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。

学校はどうなる?

Q:学校の休校は?
A:これも45条2項が根拠となり、休校を要請または指示できるようになります。県立高校は県が所管しているので知事の判断で休校できます。私立学校や市町村立の小中学校は、知事が休校を要請し、応じない場合には指示できるという建て付けになっています。罰則はありません。

店は?企業は?

Q:店舗を閉めてもらうことは出来るのでしょうか?
A:45条2項では「多数の者が利用する施設」は使用制限や停止を要請できるとなっています。「多数の者が利用する施設」は政令で定められていて、主なものは以下の通りです。
劇場、映画館、演芸場、展示場、百貨店、スーパーマーケット、ホテル、旅館、体育館、ボーリング場、博物館、美術館、図書館、キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール、理髪店、質屋、自動車教習所、学習塾など。
ただし、スーパーマーケットのうち、食品、医薬品、衛生用品、燃料など生活必需品の売り場だけは、営業を続けることができます。

Q:民間企業を強制的に休業させることはできるのでしょうか?
A:直接的な規定はありません。民間の経済活動を止めることは法律のどこにも書かれていません。根拠になるとすれば、45条の外出自粛要請。外に出られない以上、出勤できないので休みにする企業もあると思います。一方、テレワークはまったく問題ありません。

補償は?

Q:企業が活動を休止したり、イベントを中止したりした場合の損失補償は?
A:特措法には直接の規定はありません。そもそも強制的に店舗を閉めたり、イベント中止を命じることはできないので。
(治療に当たった医師などが死亡した場合に、遺族に損害を補償する規定はあります)

→ とりわけ中小・小規模事業者からは、「補償がなければ、休みには踏み切れない。死活問題だ」と補償を求める声が上がっています。政府は「損失を税金で補填するのは難しい」として直接の補償には慎重なスタンスです。ただ、追加の経済対策として、売り上げが大幅に減少し、事業の継続・存続の危機に直面している中小企業や小規模事業者などに対し、新たな助成金制度を設けることを検討しています。近くまとめられる経済対策で、どのような手立てが講じられるのかが焦点になります。

交通機関は?

Q:東京と行き来する鉄道やバスなど公共交通機関を止めることはできるのでしょうか?
A:都市封鎖するために公共交通機関を止めることは法律に書かれていません。
20条と24条には、総理大臣や都道府県知事は、鉄道会社などの「指定公共機関」と総合調整を行うことができると書かれています。これはストップさせるというよりも逆で、感染が拡大した際でも公共機関の職員は働かなければいけないので、最低限は交通機関を動かしてくださいというものです。鉄道などを止めることは想定していません。

Q:道路は封鎖できるのでしょうか?
A:特措法では道路封鎖の規定はありません。一般論として、都道府県知事が、管理する県道などを規制することは可能かもしれませんが、特措法に基づき封鎖する権限はありません。
一方、感染症法33条では、感染した場所が十分に消毒できていない場合、そこに人が集まらないように、72時間以内で局所的に閉鎖したり、そこに向かう交通手段を遮断したりできる。ただし、それは消毒のためであって、広域的に人の動きを止めるために使える条文ではありません。

マスクは配られる? 薬や食品は?

Q:マスクを政府が買い上げて配ることはできるのでしょうか?
A:はい。55条でマスクなど必要な物資の売り渡しの要請ができるほか、応じないときには、知事が強制的に収用できるようになります。
また特措法とは別に、すでに政府は、国民生活安定緊急措置法などに基づいて、マスクを買い上げるなどして、北海道や医療機関などに配っています。

Q:物資についてほかには?
A:知事は、医薬品や食品など必要な物資の保管を命じることができます(55条3項)。命令に従わず、物資を隠したり、廃棄したりした場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(76条)。保管場所の立ち入り検査を拒否した場合も、30万円以下の罰金となります(77条)。罰則があるのは、この2つだけです。

土地・建物の強制使用も

Q:ほかにも、緊急事態宣言が出ると行政が強制的に出来ることはあるのでしょうか?
A:都道府県知事は、臨時の医療施設をつくるために必要がある場合は、土地や建物を所有者の同意を得ないで使用できるようになります(49条2項)。これは「即時強制」といって強制力があります。

どこに?どのくらいの期間?

Q:緊急事態宣言を出す場合、どこの都道府県に出すのかでしょうか?
A:総理大臣が宣言を出す場合、期間と区域を指定することになります。一度に複数の都道府県を指定することも可能です。

→ 担当者は具体的な場所は言いませんでしたが、複数の取材先の話では、東京都が対象の筆頭候補であるのは間違いありません。埼玉県、神奈川県、千葉県など周辺も対象に入るという見方もあります。感染者数の推移や経路が追えない感染がどこまで拡大しているかなどが判断材料になりそうです。

→ 外出自粛要請の期間については、政府内では一時期「21日程度」という日数が浮上しました。健康観察期間14日に感染から報告までの平均7日をあわせて21日間という計算です。当初、基本的対処方針に盛り込むことが検討されましたが、「緊急事態宣言を出す前に、期間を示す必要はない」などとして入りませんでした。

「断れない…」効果

ここまで見てみると、仮に緊急事態宣言が出たとしても、外出自粛は「要請」ベースで、強制力はなく、これまでの自粛要請とほとんど変わらないことが分かりました。また、特措法だけでは、交通機関は止められず、企業活動も制限できません。休校やイベント自粛、施設の使用制限も基本は「要請」と「指示」で、街に出歩いても罰則を科すことはできません。つまり今の特措法では、海外のような「ロックダウン」はできないことが明らかになりました。徹底的に実施するならば、諸外国のように罰則付きの法律を別途整備することが必要となります。

ただ日本人の国民性を考えると、法的な強制力がなくても多くの人が協力するという見方もあります。国が緊急事態宣言を発令すれば、心理的な効果が働き、外出を控えるほか、多くの企業がテレワークに切り替えたり、臨時休業する店舗が増えたりするでしょう。

さらに指示を出された場合には、名前も公表される中で、企業や学校がそれを無視することは難しいのではないでしょうか。一定の強制力は、あるといえるでしょう。

法的な強制力を伴わなくても、事実上の「日本版ロックダウン」となるのではないでしょうか。

不安払拭するために

日本政府は3月31日時点で、菅官房長官も、担当の西村経済再生担当大臣も、「ギリギリ持ちこたえている」という判断で、緊急事態宣言が必要な状況では無いと強調しています。もちろん「ロックダウン」も否定しています。ただ、瀬戸際の状態にあることには変わりないとしていて、今後、状況を見ながら、慎重に判断していく構えです。

「ロックダウン」と聞いて、不安に感じている人は多いと思います。不安心理から、デマやフェイクニュースを鵜呑みにし、拡散してしまう人もいます。それは情報が少ないからです。法律では何ができて、何ができないのか。また、どういう理由によるのか。政府には丁寧に説明する責任があると思います。

外出自粛は住民の理解と協力で成り立つものです。そのためにも意思決定のプロセスも含め、積極的な情報開示が求められています。
政治部記者
安藤 和馬
2004年入局。山口局、仙台局でも勤務。去年8月から厚生労働省クラブキャップ。新型コロナウイルスの取材を続ける。