手のひらに輝く黄金がテロの資金源に

手のひらに輝く黄金がテロの資金源に
いつの時代も世界中で人々を魅了してきた黄金。宝飾品として、安全資産として、さらに世界のアスリートが夢見るメダルの色としても。しかし、そうした黄金がよりによってテロリストの資金源になっているとしたら…。過激派組織IS=イスラミックステートが勢いを増しているアフリカの西部。そこで金の違法な採掘をしている実態が明らかになった。闇の資金ルートを追った。(ヨハネスブルク支局長 別府正一郎)

再び勢力を増すIS いまアフリカで…

「最近、やけに増えているな」

ニジェールで政府軍の基地が襲撃され、兵士89人が死亡。ブルキナファソの教会でテロ、市民24人死亡。南アフリカのヨハネスブルクに駐在し、アフリカ大陸の国々を取材する私にとって、テロや襲撃事件の原稿を書くことは珍しくはない。しかし、去年から今年にかけ、西アフリカのニジェールやマリ、ブルキナファソといったサハラ砂漠周辺のサヘル地域の国々で治安がいっそう悪化していることは気にかかっていた。
攻撃をしているのは主に過激派組織IS=イスラミックステートだ。ISは中東のイラクやシリアで支配地域を失い、指導者もアメリカ軍に殺害された。しかし、サヘル地域では別の組織を立ち上げ勢いを増している。国連の調べでは、2016年にテロや攻撃の犠牲になった人は770人だったが、去年は4000人を超えた。3年で5倍だ。調べ始めると、“金を違法に掘って、資金源にしているらしい”という話が飛び込んできた。「またか。今度は金か」

紛争やテロの背景には「資金源」あり

記憶は、一気に20年前の2000年に呼び戻された。まだ30歳で駆け出しの国際記者だった頃、私は西アフリカのシエラレオネにいた。内戦が続く中、反政府勢力がダイヤモンドを違法に採掘して資金源にしている「血塗られたダイヤモンド」の問題を取材していた。反政府勢力が鉱山を支配し、住民たちを酷使してダイヤモンドを掘らせては、国際市場に売りさばいていた。

2014年にはISがイラク北部に攻め入り、一方的に「国家」を名乗った。このときもISは油田地帯を押さえて資金源にしていた。トルコ南部の国境地帯でISの元戦闘員たちを見つけ出してはインタビューした時、「宗教のために国を作るとか言ってるが、実態は密輸集団じゃないか」と感じたことも思い出された。

「武装集団の背景には資金源があるはずだ」。現地に向かうための準備に取りかかった。ビザの取得や地元の協力者探しなどひとつひとつの作業を進めた。狙いはISのテロや攻撃が特に激しくなっているブルキナファソに定めた。

ゴールドラッシュに沸くアフリカの村

支局のある南アフリカからブルキナファソまでは飛行機を乗りついで20時間近くかかる。アフリカは本当に広大な大陸だ。首都ワガドゥグの空港に降り立つと熱風が吹き付けた。サハラ砂漠の近くに来たことを実感する。

首都から車で北に2時間、とある農村地帯に到着した。事前に話をつけていた地元の案内人とともに村の奥まで歩いて行くと、突然、異様な光景が現れた。手掘りの金の採掘場だ。何百人もの男たちがひしめきあい、あちらこちらに深い穴を掘っている。
土は白っぽい。土埃が立ちこめるなかで、みんな顔も体も真っ白になっている。男たちはロープで仲間を穴に下ろしていき、地下から土を運び出している。その土を細かくして、水と一緒に皿の中で揺らすと、光るものが見えてくる。砂金だ。わずかな量だが強い輝きを放っていた。
ブルキナファソは時ならぬゴールドラッシュに沸いている。数年前から新たな金の鉱脈が次々にみつかり、手掘りの採掘場があちらこちらにできている。今や国内に800か所になるという。穴が崩落するなど事故も多い劣悪な労働環境だが、世界の最貧国のひとつであるブルキナファソでは貴重な収入のチャンスだ。各地の採掘場には一攫千金を求める人々が押し寄せている。その数は全土で100万人を超えるという。

“黄金”に伸びるISの魔の手

しかし、この金にISの魔の手が伸びている。去年11月、東部の町で、カナダ資本の大規模鉱山の労働者を乗せた車列が武装グループに襲われ、少なくとも39人が死亡した。ISが金鉱山を奪おうとする動きの一環だと見られた。

ブルキナファソで取材を進めていた私に、政府の鉱業管理のトップ、イダニ鉱業相がインタビューに応じると返事をしてきた。慌ててスーツに着替えて鉱業省に出向く。
イダニ氏は執務室の壁にかかる自国の地図を前に、金がいかに国を潤しているか説明した。「かつては綿花くらいしか輸出するものがなかったブルキナファソだが、ここ数年は大きな鉱脈も見つかり、外国資本も続々と進出している。金の産出量は今では年間50トンを超え、あっという間に綿花を抜いて輸出額のおよそ70%を占めるまでになった」

しかし、私の質問がISのことに及ぶと顔が曇った。特にカナダ資本の鉱山労働者が襲撃された事件についてはあまり話したくなさそうだった。それでも、「治安機関が懸命に努力を続け、鉱山の安全は維持されているが、いくつかの道路では安全の課題がある」と認めた。そして、「国の東部の森林地帯に戦闘員たちが潜んでいて、そこから攻撃を仕掛けている」と続けた。

そばにいた秘書官が、そこでインタビューを止めに入ってきたが、私は質問を続けた。「ISが金を違法に採掘しているのか?」「すでに、いくつかの採掘場は戦闘員の支配下に置かれている。そこで住民たちを使って金を掘らせている。しかし、我が国だけでは対応できない。連中は、隣国に密かに持ち出して、そこで売りさばいているからだ」

政府軍も近づけない地域では、いま何が起きているのか

しかし、東部の採掘場の実態を知ろうにも、政府軍も近づけない場所に、私たちだけで出かけるわけには行かない。ISを目撃したという人には何人か接触できたが、報復を恐れインタビューはことごとく断られた。

諦めかけた矢先、東部の町に暮らす43歳の学校の教師が電話でのインタビューに応じてくれた。「近くの採掘場は過激派の戦闘員が支配している。住民たちには、自分たちに協力すれば採掘を続けさせてやると言っている。協力を拒否した住民は次々に殺されている」 教師が証言した実態は、まるで中東でのIS組織の恐怖による支配を再現したかのようだ。「戦闘員は自由に行動している。国境に向かい、そこから隣国に金を横流ししている」(東部の町の教師)

“密輸ルート”を追う

ISの密売先として浮かび上がった隣国のトーゴ。私は大西洋に面したトーゴの首都ロメに飛び、そこから行けるところまで行ってみようと車で8時間かけて北上した。しかし、北部の森林地帯には過激派組織の戦闘員が潜んでいると見られ、手前の村で取材をすることにした。

村には金の買い取りを行っている業者がいた。
私たちが訪ねたとき、ちょうど赤ん坊を背負った村の女性がやってきて、小さな金の粒を売り、日本円で200円ほどを得ていた。私たちも村に来るまでにもいくつか手掘りの採掘場を見ていたが、そうした場所で採ったものだという。

業者は中年の男で、突然現れた日本人記者を見て驚いていたが、少しずつ語り始めた。「俺がしているのは人助けだ。農村の女性たちが少しでも現金を手に入れられるんだから喜ばれているよ」「ここを訪れるのは地元の人だけではないのでは」と私は尋ねた。「そりゃ、外国人も来ているよ。マリとかニジェールとかから。多いのはブルキナファソからの人たちだ。どんな人たちかは気にしたことはない」 密輸は常態化しているのだ。

これが国境?

それもそのはずだ。国境の検問所を訪れると、そのあまりの簡素さに拍子抜けした。国境を示す目印があるだけだ。小さな検問所はあったが職員たちは昼寝していた。金を隠して持ち込むのは簡単だろう。ここでは誰も国境線など気にしていないようだ。国をまたいでいるという意識もなく行き来している。そもそも植民地時代にヨーロッパの列強が勝手に引いたものに過ぎない。

仲買人がカバンから取り出したのは…

金は仲買人の手を次から次に渡っていく。溶かされ、混ぜ合わされ、あっという間に元の産地がどこだったか分からなくなる。
首都ロメで、各地の仲買人から金を買い取っている業者が取材に応じた。数時間に及んだ交渉で最後は撮影も了承してくれた。

警戒が緩むにつれ、少しずつ舌がなめらかになっていった。突然、カバンの中から2つの金の塊を取りだして見せてくれた。
「手に持ってください。それぞれ1キロある。1個あたり4万ドルほどだから、いま両手で8万ドル分お持ちですよ」

ずしりと重い。日本円で900万円ほどだ。産地について聞くと、業者は「もともとどこで産出された金か気にしたこともない。産地がどこでも金は金。全部混ぜ合わせちゃうんだから、強いて言えば『アフリカ産』かな」と答えて豪快に笑った。こうした金はさらにほかの業者の手によってスイスや中東の産油国に輸出されているという。

金を買い取る先進国側にも責任

金を買い取る先進国側も、産地の把握についてずさんだということも分かった。世界最大級の金の取引量を誇るスイス。この国の輸入統計を見ると、多い年にはトーゴから年間15トンの金を輸入していることになっている。しかし、インタビューに応じたトーゴ政府のビダモン鉱業相は「トーゴには、外国資本による大きな金鉱山はなく、非公式な採掘場がいくつかあるだけだ。そんなに多く生産できるはずがない」と統計に疑問を呈した。
「トーゴではせいぜい年間数十キロしか採れていないだろう。『トーゴ産』として輸出されている金のほとんどが実際には他国から持ち込まれたものだ。トーゴが密売の中継地に使われているのは否めない。政府としてもあらゆる対策を取っていきたい」

スイス政府が専門家に調査を委託し、2018年に公表した報告書でも、スイスでの金の輸入元は輸入業者の申告をそのまま記録しているに過ぎないと指摘している。アフリカの現実が顧みられることはないまま先進国で消費されていく実態は、紛争ダイヤモンドと同じような構図に見える。

ISはいくら手に入れているのか?

いったいどれだけの金がISの資金源になっているのか。それは分かっていない。ただ、サヘル地域で手掘りで産出される金は、あわせて年間2000億円から4500億円になるとみられる。ISが奪っているのがこの一部だとしても大きな金額だ。こうした資金はほかの地域の過激派組織にも渡りかねない。

また、資金にひきつけられて、かつてのシリアのように、今度はサヘル地域が過激思想に共鳴する若者の目的地になる恐れもある。事態を放置すれば「第2のシリア」になる危険もある。

「紛争ゴールド」流通させない仕組みをどう作るか

ISの台頭に危機感を強めるアメリカ軍は、2月下旬、セネガルで、イギリスやフランス、アフリカ諸国などあわせて30か国の部隊が参加する軍事演習を行った。また、フランスも部隊を派遣して掃討作戦を続けている。しかし、軍事力だけで過激派を封じ込めることはできていない。やはり重要なのは資金源を断つための国際的な取り組みだ。

「紛争ダイヤモンド」の問題をめぐっては、産出国、消費国、業界が「原産地証明」の仕組みを作り、国際市場に流通させないための対策を取ってきた。「紛争ゴールド」についても各国が協力して、流通させない仕組みを作っていくことが急がれている。これはアフリカだけでなく国際社会全体への脅威であり、課題だ。
ヨハネスブルク支局長
別府正一郎