麦茶を世界の“MUGICHA”に

麦茶を世界の“MUGICHA”に
日本人にとってなじみ深い麦茶。日本以外にも韓国や中国といった東アジア地域では飲まれていますが、そのほかの国や地域ではそこまでの知名度はありません。ところが最近、麦茶を輸出しようという動きが出てきました。海外市場を切り開こうと奮闘しているのは、佐賀県の社員20人余りの中小企業。これまでに、タイやイギリスなど13の国と地域への輸出を成功させています。なぜ海外の人の心を捉えることができたのでしょうか。独自のプロモーションを取材しました。(佐賀放送局ディレクター 馬渕茉衣)

※この記事は2月中旬に取材し、3月18日のおはよう日本で放送した内容をもとに書かれています。

二条大麦“日本一”

佐賀県が誇る美しい風景の一つは、平野で黄金色に輝く麦畑です。実は、佐賀県は麦茶の原材料となる二条大麦の生産が盛んで、作付面積、生産量ともに日本一です。温暖な気候を生かし、米を収穫したあとの田んぼで育てる二毛作を行ってきました。
県北部の唐津市に本社を構える三栄興産は、昭和40年創業の麦茶メーカーです。佐賀産の二条大麦を自社でばい煎し、西日本を中心に国内の販路を広げてきました。3代目の緒方哲哉社長は、10年前、海外展開を決断します。その背景にあったのは、国内市場の縮小でした。特に、この会社の主な販売先だった地方の小売業で販路を拡大していくのは望めない状況だったのです。
転機となったのが、知人のバイヤーから誘われて参加した香港での商談会でした。現地の人たちに試飲してもらったところ、「おいしい」と緒方社長の予想を上回る反響がありました。さらに、現地のスーパーマーケットをいくつも見て回り、海外に市場は開けていると確信したと言います

海外進出のカギ 赤ちゃんでも飲めるんです

ところが、緒方さんは輸出に関しては全くの素人。JETRO=日本貿易振興機構の支援も受けながら、商談会や展示会に何度も足を運びました。このなかで、緒方社長は独自のノウハウを作っていったのです。

その一つは、麦茶の価値を再発見することでした。日本では“夏の水分補給”として捉えられがちだった麦茶ですが、海外の人たちが興味をひいた特徴がありました。それは“ノンカフェイン”“ノンアレルギー”でした。
足元を見つめ直すことで、「麦茶が秘める可能性を再認識した」と緒方社長。商談会のプレゼン資料には、安心安全であることをアピールしようと「麦茶を飲む赤ちゃん」の写真を添えました。

海外進出のカギ“ 現地の食習慣”を徹底研究

一方で、麦茶を身近に感じてもらう工夫も欠かしませんでした。徹底したのは現地の食習慣の研究です。麦茶にその地域の人の味覚に合ったアレンジを加え、試飲してもらうことで、市場開拓に成功しました。

中国では「ホット」に。日本では冷やして飲むのが定番ですが、中国では冷たいお茶を好まない人が多かったのです。

ベトナムでは日本では考えにくいアレンジを施しました。麦茶を濃く抽出し、さらに練乳を加えたのです。これは、コーヒーを濃く、甘くして飲む「ベトナムコーヒー」にヒントを得ました。
緒方社長
「ローカルの主なスーパーマーケットでは麦茶は一切売られていなかったんです。これから頑張らなきゃという気持ちになりました」

波及効果をねらいシンガポールへ

ことし2月、緒方社長はシンガポールへの進出を目指し、現地へ向かいました。世界中から人が集まるこの土地で麦茶を定着させることができれば、さらに波及する効果があるとにらんでいました。現地に到着すると、緒方社長は好みを探るため、地場のスーパーマーケットへ足を運びました。コーヒー売り場を見て、ある好みがあることに気づきます。シンガポールでは、コーヒーを「コピ」と呼び、砂糖とコンデンスミルクを入れて飲んでいたのです。
緒方社長
「全部がミルク入り、砂糖入りですね。甘いのが好きなのかもしれないですね」
独特のコーヒー文化に注目した緒方社長。近隣に高級マンションや飲食店が建ち並ぶ大型スーパーマーケットでの試飲会で、ベトナム同様、練乳を入れることにしました。ところが、反応は芳しくありませんでした。甘すぎると言うのです。そこで緒方社長は、麦茶本来の味で勝負することに方針を変えました。
すると「お茶のすっきりした感じが好き」「お茶に砂糖はいらない」と、反応も上々でした。実は、シンガポールでは近年、糖尿病患者の増加が社会問題となっていたのです。シンガポール保健省によると、1日にティースプーン12杯分も砂糖を摂取しているそうです。こうした背景から、最近、無糖や糖分の低い飲み物が相次いで発売されていて、健康志向が高まっていたのです。今回のプロモーションを踏まえ、緒方さんはシンガポールでの麦茶の普及に手応えを感じていました。

世界の“MUGICHA”に

10年前、輸出を始めたころ、英語で“BARLEY TEA(麦茶)”と説明しても、「麦のお茶?何それ?」と首をかしげられることも多かったと緒方社長は振り返ります。ところが、さまざまな努力を積み重ね、輸出はフランスやロシア、ポーランドなど、13の国と地域に広げるまでに成功しました。海外での売り上げは、今や3000万円に。会社全体の1割を占めるまでになりました。緒方社長は、このように野望を語ります。
緒方社長
「SUSHI、TEMPURAのように“MUGICHA”も世界に通じることばになってほしいです」
麦茶を世界の“MUGICHA”に。緒方社長のあくなき探求心に、中小企業が時代を生き抜くヒントが隠れているのかもしれません。
佐賀放送局ディレクター
馬渕 茉衣
平成28年入局