鶏が先か卵が先か 新幹線のバリアフリーどこまで

鶏が先か卵が先か 新幹線のバリアフリーどこまで
1日平均、約100人…。
東海道新幹線で車いす用の座席を利用する人の数だ。

新幹線には、車いすの利用者向けのスペースがあるが、現在は1編成に1か所のみ。利用する人が少ないから、スペースも少ないのか。それとも、車いすの人が新幹線に乗るのが不便だから、利用者が少ないのか。

不便だと判断した国は3月3日、新幹線のバリアフリー対策の強化に向けて、国のガイドラインを見直す方針を明らかにした。(経済部記者 西園興起)

根本的に対策を検討せよ

「まだまだ改善されていないというのが正直な感想だ。障害者も差別なく、快適に乗れるということが、鉄道事業者の使命と責任だ。JR各社は、もう一度、根本的に対策を検討してほしい」
ことし1月16日、赤羽国土交通大臣は、東海道新幹線の新型車両のバリアフリー対策を視察したあと、憤っていた。
大臣が乗ったのは、JR東海がことし7月から東海道新幹線に導入する予定の新型車両「N700S」。

この新型車両には、車いすのまま乗れるスペースが、1編成につき2か所設置され、スペースの脇の通路の幅は45センチと従来の車両よりも車いすの利用者に配慮した設計になっている。
にもかかわらず、赤羽大臣は、これでは十分でないと苦言を呈したのだ。

東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに、新幹線のバリアフリー対策を強化しようと、国土交通省は去年12月、JR各社や障害者団体でつくる検討会を設置。議論を進める中で行われた視察で、赤羽大臣が発したことばからは中途半端な妥協は許さないという大臣の強い意志を感じた。

バリアフリー 何が足りない?

検討会では、障害者団体から、▽海外の高速鉄道と比べて、車いすのスペースが少ない、▽スペースが狭く、車いすが通路にはみ出してしまうといった意見が出された。

予約方法についても、当日まで申し込みを受け付け、電話や窓口に加え、インターネットの予約も導入してほしいという要望があげられた。
そもそも、車いすの人たちが新幹線をどのように利用しているのか。

まず原則として、乗車する2日前までに窓口か電話で車いすスペースを予約しなければならない。

このスペースは1編成につき、1箇所のみ。
多目的室という部屋もあるが、乗りたい列車に先に予約が入っていれば、別の列車を予約する必要が生じる。

また、窓口で予約する際に、1時間以上待たされることもあるという。

無事、乗りたい列車を予約でき、乗車できたとしても安心はできない。
車いすスペースに隣接する通路の幅は、これまでの新幹線だと30センチ余り。大型の電動車いすは車内販売のワゴンが通るたびにデッキに出なければならないし、ストレッチャー式の車いすは、そもそも乗れないこともある。

車いすの利用者に話を聞くと、さまざまな我慢を強いられていることが分かった。
50代男性
「車いすが通路にはみ出て、通行人の邪魔になっているような気がする。申し訳ない気持ちになる」

30代男性
「車いすのみんなで旅行しようとしたら、一緒に乗れず、それぞれ別々の列車で目的地に向かわざるを得なかった」

50代女性
「スペースが通路側にあるので、窓からの景色を楽しむことができない」

そんなに簡単なことではない

「そうは言っても難しいよ…」
新幹線のバリアフリー対策について聞いた私に、JRの幹部がつぶやいた。

車いすスペースを増やせば、当然、ほかの座席が減ることになる。
スペースを増設しても、利用者が増えなければ、利益を生みださない。

鉄道事業者は公共的な使命もあるが、民間企業である以上、利益のことを考えないわけにはいかないという立場もわかる。
検討会の中で、JR東海は、調査数は少ないとことわった上で、東海道新幹線での車いす用の座席の利用者は、1日平均で約100人であることを明らかにした。

このうち、JR東海管内の駅の窓口で予約している人は約50人。その9割が第一希望の座席を確保できていて、残る1割も、前後に出発する列車に案内できているという。

東海道新幹線の1日の運行本数が平均373本であることを考えると、多くの列車が、車いすスペースの予約がないまま走っていることになる。

国土交通省がJR側と調整を進める上でも、車いすの利用者のニーズをどの程度とみるのかが大きな焦点となった。

にわとりが先か、卵が先か

「鶏が先か、卵が先かという話になるが、車いす利用者の利用環境が整えば、積極的に利用されるようになると考えられるのではないか」
検討会の中で、国土交通省の水嶋智 鉄道局長はこう言って、発想の転換を促した。私が車いすの利用者に話を聞いた時も、新幹線が利用しにくいので使わなくなったという声が多く聞かれた。

確かに今より便利になれば、利用する人も増えるかもしれない。
国土交通省がJR側に対策の強化を求める根拠としたのが、海外の進んだ事例だった。フランスやドイツの高速鉄道では、車いすのまま利用できるスペースが、1編成につき4箇所、設けられている。

スペースの脇の通路幅も十分に確保されていて、例えば、ドイツの車両は80センチ以上と日本の2倍以上なのだ。

新たなガイドラインでは

こうした議論を経て、国土交通省は3月3日、公共交通機関のバリアフリーの基準を定めた国のガイドラインを見直す方針を発表した。
その柱は、▽新幹線に車いすに乗ったまま複数の人が並んで乗車できる、車いす専用のフリースペースを1編成につき、少なくとも1か所、設けること。▽スペースは、ストレッチャー式の大型の車いすでも利用できるよう、十分な広さを確保したうえで、外の景色を楽しめるよう窓側に面したスペースも設けることだ。

このほか車いすの人の予約手続きの申し込みについても改善される予定だ。

これまで窓口か電話に限られていた予約の申し込みが、インターネットでもできるようにシステムの整備を求めていて、JR各社は夏までに対応する見通しだ。(JR西日本はすでに実施)

JR各社は、ガイドラインの見直しに沿って対応していく方針を示している。
「フリースペースの設置については、車両の設計段階から見直しが必要で時間もかかるが、国の検討会の結論を踏まえてしっかりと進めていく」
「新幹線を便利で快適にできるよう、改善に向けて、検討にしたがって進めていく」

利用者の思いにどう応える

ガイドラインの見直しに、車いすを利用する人たちからは歓迎の声が聞かれた。

手足に障害があり、電動車いすを使っている50歳の女性は「以前、車いすの利用者と一緒に京都に遊びに行くことがあったが、車いすスペースが少ないため、横に並んで座ることができずに悔しい思いをした。これまでできなかったことがやっと叶うという思いだ」と感慨深げだった。
ただ、「フリースペース」の実現に向けては、まだ検討しなければならないことが山積みだ。

何台くらいの車いすが止められる広さにするのか、介助者用の座席をどこに設置するのか。そして、新たな車両だけでなく、いま走っている車両にもフリースペースの設置を求めるのかどうかも、大きな論点だ。

既存の車両にフリースペースを設けるには、座席の一部を取り外す工事が必要で、鉄道事業者のコスト負担が大きくなる。

ガイドラインがまとまるのはことしの夏。JR各社が車いすの利用者の思いにどのように応えていくのか、検討会の議論を注目したい。
経済部記者
西園興起
平成26年入局
大分局を経て経済部
現在、国土交通省を担当