感染者「味とにおいわからず」専門家「症例少なく慎重判断を」

感染者「味とにおいわからず」専門家「症例少なく慎重判断を」
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新型コロナウイルスに感染した札幌市の女性が、発症の初期に食べ物の味や化粧品のにおいがわからなくなり、この状態が数日間、続いていたことを明らかにしました。WHO=世界保健機関は、各国からも同じような報告が相次いでいるとしていて、初期の症状の1つなのか、調査を進めています。
札幌市の20代の女性は、今月5日に新型コロナウイルスへの感染が確認され、市内の病院に入院して治療を受けたあと、今月24日に退院しました。

自宅でNHKの電話インタビューに応じた女性は、発症の初期について振り返り、今月4日ごろ、軽いせきの症状とともに、「何を食べてもあまり味がしないし、香水やシャンプーのにおいもわからなくなっていた」と述べて、味覚や嗅覚に異常がおきていたことを明らかにしました。

女性はその翌日、検査で感染がわかり、今月7日には、37度5分を超える熱などの症状が出るようになりましたが、味覚や嗅覚の異常は10日間ほど続いたとしています。

入院中の状況について、女性は、「口の中にみそ汁や肉料理を入れても、味が何もせず、食感だけという状況だった」と振り返り、医師や看護師にも味覚などの異常を説明したということです。

女性によりますと、女性の80代の父親と、知人の20代の女性も、新型コロナウイルスの感染者で、2人はともに女性に対し、発症の初期に食べ物の味やにおいがわからなくなったと話しているということです。

WHO=世界保健機関は、今月23日の会見で、各国から同様の報告が相次いでいるとしたうえで、「本当に初期の症状と言えるのか、医学的な調査が必要だ」として、各国と連携して調査を進めていることを明らかにしています。
新型コロナウイルスに感染した20代の女性は、味とにおいがわからなくなる状態になったことについて、回復して退院するまで、異常なことだとは思わなかったと話しています。

女性は「当時は注意するよう言われていなかった症状だったので、自分だけではという思いがあった。ただ、最近の報道で、ほかにも同じような状態を訴える感染者がいると聞くと、これは、もしかして私だけじゃなくて感染した人の症状の1つなのかなと思うようになった」と述べています。

そのうえで、女性は、みずからの経験を明かした理由について「自分の症状について話すのは勇気が必要でしたが、伝えたほうが、これからの役に立つと思いました」と話しています。

専門家「味覚や嗅覚の異常は慎重に判断の必要」

新型コロナウイルスに感染した国内外の患者から、味やにおいを感じないなどの症状が報告されていることについて、国内で治療に当たっている専門家は「今の実感としては特徴的な症状だとするには数が少なく、慎重に判断する必要がある」と指摘しています。

新型コロナウイルスに感染した際の症状については、これまで主に発熱やせき、それに息苦しさなどが報告されていますが、国内外から味覚や嗅覚に異常を訴える患者の報告が相次いでいて、WHO=世界保健機関が調査を行っています。

これについて、国内のおよそ30人の患者を治療してきた国立国際医療研究センターの忽那賢志医師は「これまで治療に当たった実感としては嗅覚や味覚の異常を訴えた患者はいたが、特徴的な症状というには数が少ないと感じている。こうした症状は通常のかぜやインフルエンザなどの感染症でも起こりえる。こうした症状があるからといって、それだけでは新型コロナウイルスの感染症とは判断できない」と指摘しています。

そのうえで、「味やにおいを感じる細胞にウイルスが影響を及ぼしているのか、あるいは鼻がつまってにおいなどを感じにくくなっているだけなのか、今後、国内でもさらに症例を集めて慎重に判断する必要がある」と話していました。

日本耳鼻咽喉科学会「症例少なく 詳しく調べている」

日本耳鼻咽喉科学会は、NHKの取材に対し、「海外で味覚や嗅覚がきかなくなった感染者がいるという報告があることは承知している。日本ではまだ症例が少ないが、現在、詳しく調べている」と述べ、学会として調査を始めたことを明らかにしました。

そのうえで、「味覚や嗅覚に異常があるからといって、すぐさま、感染の有無を調べる検査をする必要はないと考えている。まずは自宅で経過を見て、必要に応じて、国や自治体が設置した電話相談の窓口などに連絡し指示を仰ぐことが大切と思う」と話しています。

官房副長官「味覚や嗅覚異常は情報収集中」

西村官房副長官は記者会見で、感染者の中に味覚や嗅覚の異常を訴える人がいることについて、「新型コロナウイルスは未知の部分も多く、現時点で把握している事実としては、発熱や呼吸器症状が1週間前後、継続し、強いだるさやけん怠感を訴える人が多いとされている。味覚や嗅覚の異常を伴う症例は厚生労働省が現在、国立感染症研究所に詳細を情報収集しており、見解が定まれば周知していきたい」と述べました。

英米の団体が注意呼びかけ

イギリスとアメリカの耳鼻咽喉科の医師などでつくる2つの団体は、嗅覚や味覚の異常について、「新型コロナウイルスの症状の1つである可能性がある」として、診察にあたる現場の医師に対し、注意を呼びかける声明を発表しています。

このうちイギリスの団体は、今月25日の声明で、別の種類のコロナウイルスに感染したときも、嗅覚がきかなくなる症状が出るケースがあるとしたうえで、「新型コロナウイルスが同じでも、驚きではない」としています。

そして、ドイツでは、感染が確認された患者の3人に2人が、嗅覚がきかなくなる症状を訴えているという研究があるなど、イギリスを始め各国で同じような報告が相次いでいるとして、「高熱やせきなど、ほかの症状がなくとも、新型コロナウイルスの感染を疑う理由になりうる」と指摘しています。

アメリカの団体も声明で、「ほかの呼吸器の疾患がないにもかかわらず、嗅覚や味覚がきかなくなる症状が出た場合、検査の実施を検討すべきだ」と指摘して、感染を疑ううえでの1つの指標とすることを提案しています。

WHO=世界保健機関は、今月23日の記者会見で、各国と連携して医学的な調査を行っているとしたうえで、その結果次第で、熱やせき、息切れなどとともに、味やにおいがわからなくなる状態についても、注意すべき症状の1つとして加えることも検討したいとしています。