“通学路”安全ですか? 斜面崩壊リスクも

“通学路”安全ですか? 斜面崩壊リスクも
新型コロナウイルスの影響で休校が続く学校でも、新学期の季節を迎えます。新たに学校生活をスタートするお子さんも多いのではないでしょうか。ところで、お子さんが毎日通う「通学路」、安全ですか? 道路脇に斜面がある場合、崩壊のリスクがあることを知っていますか? 学校が始まるまでの間を利用して、親子で確認してみてはいかがでしょうか。
(社会部記者 藤島新也・ネットワーク報道部ディレクター 金子紗香)

突然の崩壊

ことし2月、神奈川県逗子市の市道で道路脇の斜面が突然崩れました。崩れた土砂は約65トン。道路を歩いていた18歳の女子高校生が巻き込まれて亡くなりました。
現場は住宅地から京浜急行の駅につながる道。朝や夕方は通勤や通学で、人通りが比較的多い道路です。

ふだん使っている道路の斜面が、大雨でも、地震でもないのに、突然崩れてきたら…。考えただけでゾッとしますし、身を守るのは難しいと思います。
「同じようなリスクは、ほかにもあるの?」
「対策はされているの?」

逗子市で崩れたのは、神奈川県が「土砂災害警戒区域」に指定していた斜面でした。

これは斜面の角度などの地形から土砂災害の危険性が高いとされる区域で、全国に約61万か所あります。

「土砂災害警戒区域」と「道路」が重なっている場所がわかれば“リスクがある場所”を見つけることができるのではないか。地理情報を分析するソフトを使って解析してみました。

横浜市で1000キロ超

調べたのは逗子市の隣の「横浜市」。実は関東の中でも「土砂災害警戒区域」が多い地域です。

道路の位置は国土地理院が公表する「基盤地図情報」から、「土砂災害警戒区域」の位置は神奈川県に申請して入手しました。下の図がその結果の一部です。
☆記事の最後にある地図で詳細を確認できます
緑色が「道路」、黄色が「土砂災害警戒区域」、赤色の線が「土砂災害警戒区域と重なる道路」を示しています。

人が通るのは歩道などがある道路の両側の端なので、それを考慮して分析しました。

道路の両側の長さを足し上げると、横浜市全体では2万2000キロ余り。このうち土砂災害警戒区域と重なる部分は1084キロ余りで、割合は4.9%でした。

「少ない」と感じるかもしれませんが、1000キロ超は東京から鹿児島までの直線距離に匹敵します。
さらに、区ごとにばらつきがあることも見えてきました。栄区の10.7%、磯子区の8.4%、金沢区の8%など、多い区があるのに対し、瀬谷区は0.7%、泉区は1%などと、少ない区もありました。
当然、こうした場所のすべてに崩壊の危険がある訳ではありません。現地を見てみることにしました。

対策の現場は

協力してもらったのは、地盤の災害に詳しい関東学院大学の規矩大義教授。災害現場での調査を重ねてきたスペシャリストです。

最初に向かったのは金沢区の住宅街。急な坂の両側にマンションが建っていました。建物の土台の斜面には、ブロックを積み上げた壁があり、見た目もきれいな印象です。
規矩教授が注目したのは
1 排水パイプ
2 ブロックの継ぎ目
3 壁全体の形状です。

1 晴れているのに排水パイプから茶色く濁った水が流れていないか
2 ブロックの継ぎ目に大きな亀裂がないか
3 壁全体が道路側にふくらんでいないか。斜面が崩れかかっていたり、内部の土が削れていたりしていないか、チェックします。

調査の結果、この場所では、大きな問題はありませんでした。

斜面のモルタルが…

規矩教授が足を止め、すぐにも対策が必要だと指摘した場所がありました。栄区にある道路脇の斜面です。モルタルで表面を覆う対策がとられていましたが、斜面の途中には、そのモルタルの破片が。
取材の間も、何組もの親子連れが斜面の下を歩いていました。何かの拍子で落下すれば大きな事故につながりかねない状態でした。
規矩教授
「時間が経過すると、対策に使ったコンクリートやブロックが劣化し、落下する危険性があります。対策したといって安心せず、定期的な点検が大切です」

将来のリスクも

規矩教授が“潜在的なリスク”を強調する場所もありました。栄区の道路に面した斜面です。

人の背丈ほどまでは壁がありますが、そこから上の部分は草の生えた斜面がむきだしの状態です。事故が起きた逗子市の現場と似ています。

規矩教授は、こうした地形は山を切り開いて造成した住宅地に多いということです。現状では問題はありませんでしたが、今後も定期的な点検が必要だといいます。
規矩教授
「長い時間、雨風にさらされると、斜面が風化し崩れてくる可能性があることを頭に入れておくことが大切です。小石や土砂が落ちてきたりした痕跡があった場合には注意が必要です。風化の様子は見ただけではわからないので、5年~10年ごとに斜面の状態を詳細に点検することが重要です」

行政も手が出せない“民有地”

現地を歩いた結果、斜面の多くは対策されていましたが、中にはリスクのある場所も見つかりました。

「行政の対応はどうなっているのだろうか?」

そう思って、横浜市の担当者に聞いてみました。すると…
横浜市の担当者
「リスクのある斜面の大部分は“民有地”で、行政が勝手に対策できません。対策をお願いする手紙を出したりしていますが、かかる金額を見て『ちょっと…』と尻込みする方が少なくないのが現状です」
横浜市では独自に市内の斜面を3年かけて点検し、危険度の高い斜面のある土地の所有者には、対策を促す手紙を出しているということです。

しかし対策には数百万円から数千万円の費用がかかります。助成制度を活用しても、3分の2は自己負担となるため、簡単には進まないということです。

さらに逗子市の現場のように、マンションの敷地だった場合には管理組合内での合意を取り付ける必要があり、対策を進めるのは難しくなるということです。

“道路脇のリスク”全国各地に

なぜ、横浜でこうした場所が多いのでしょうか。規矩教授は「開発の歴史」が関係すると教えてくれました。
これは横浜市栄区の地形図です。左は昭和42年、右は平成6年に発行されました。かつては山だった場所が切り開かれ、住宅地に変わっていったことがよくわかります。

こうした場所では、階段状に住宅地が整備されるため、斜面が多くなるのです。

同様の場所は、横浜に限らず全国各地にあります。
これは東京 多摩市の地形図。左は昭和42年、右は平成6年の発行です。横浜市栄区と同じように、山だった場所が住宅地に変わっていることがわかります。

私たちの目で

今回の取材で、道路脇に斜面崩壊のリスクが潜んでいることが見えてきました。所有する敷地に斜面がある場合には「誰かを傷つけてしまうかもしれない」という危機感を持って、定期的な点検や対策を進めてほしいと強く思います。行政にはその後押しを積極的にしてほしいです。

ただ、対策は一朝一夕では進みませんし、行政がすべての場所に常に目を光らせることは現実的ではありません。大切な人を守るためには、「私たちの目」も大切だと感じます。

現場を一緒に回った規矩教授のことばが印象に残りました。
規矩教授
「毎日斜面を見ている方は小さな変化に気付くと思うんですね。本格的な点検はできなくても、『おかしいな』と感じるところに、予兆や被害を抑えるきっかけがあると思います。通学路も『対策が漏れている場所があるかもしれない』という目で、意識して見ることが重要だと思います」
今回は横浜市を舞台に取材しましたが、お住まいの地域についてはハザードマップなどを使って、土砂災害警戒区域と道路が重なる場所を探してみてください。
まもなく新学期。大切な人を守るために、まずは通学路の安全、確かめてみませんか?

☆横浜市・土砂災害警戒区域と道路が重なる地図(拡大できます)
社会部記者
藤島新也
ネットワーク報道部ディレクター
金子紗香