美大生の思いを届けたい オンライン卒展とは

美大生の思いを届けたい オンライン卒展とは
新型コロナウイルスの感染拡大で、美術系や工学系の学校では、卒業制作展の中止が相次いでいます。SNSには「残念」「やりたかった」という声が次々と。実は私も芸術系の大学で現代アートを学んでいました。1年以上かけて制作した作品を発表する苦労や緊張、そして喜びは格別なものがあり、披露できない学生の無念はよくわかります。そうした中、ネットやSNSで、学生たちの展示を手助けしようとさまざまな可能性を探る動きがあります。「卒展やりたい!」そんな学生たちの思いに応える取り組みを追いました。(大阪放送局カメラマン 斎藤大幹)

相次ぐ中止に…

美術系や工学系の高校や大学、専門学校の学生が取り組む「卒業制作」。何年もかけて絵画や彫刻、デザインや建築などに打ち込んできた学生にとっての集大成となる重要な制作です。その卒業制作を集めて展示するのが、卒業制作展。学生の間では「卒展」と呼ばれます。この卒展にも新型コロナウイルス感染拡大の影響が及んでいます。
2月28日、東京の多摩美術大学が卒展の中止を発表しました。学生や来場者の感染を防ぐための措置です。この大学の卒展は、絵画やデザインなど学科や専攻に分かれて原宿や恵比寿、川崎市など10か所の会場で順次、行われる予定でしたが、すべて中止。中でも情報デザイン学科メディア芸術コースの卒展は、この2日後に横浜市で始まる予定だったのに、突然の決定でした。こうした卒展の中止が、今、各地で相次いでいます。

オンラインで卒展も

突然、卒展が失われた学生の思いに応えたいと、3月8日、オンライン上で卒業制作を“展示”しようという取り組みが始まりました。東京の団体「HASARD」が企画した「超合同オンライン卒展」です。

この団体は、アートを身近に感じてもらおうと、企業や個人からの協賛を得て絵画などをウェブ上で無料で見られるサービスを展開しています。「超合同オンライン卒展」へは誰でも自由に出展できます。学生は作品を写真に撮り、思い思いのコメントを添えて“展示”します。スマートフォンやタブレットで画面をスワイプすれば、次々と作品が登場。高校や大学など所属する学校の枠を超えた合同の卒展です。
実際に見てみると、スマートフォン上で手軽に高画質で作品を見ることができました。拡大して細部のこだわりまでしっかり眺められるのも、アートが好きな人にとってはうれいしい特徴です。発起人の紺野真之介さん(26)は、東京のIT企業で働きながら副業としてHASARDを運営。アートの愛好家で、自分でも小説を書くなど作品を発表してきました。今回の展示の副題は「Not wasted」、むだにしない。「学生たちが一生懸命つくった作品やその思いを大切にしたい」という思いが込められています。
紺野さん
「学生にとって卒業制作展はずっと準備してきた大切な場所だと思います。自分も小説を書いていたので必死につくった作品を発表できないことがどれほどつらいか分かる部分があります。少しでも力になれたらと思って始めました」
多摩美術大学グラフィックデザイン科の壷井風華さんも出展した学生の1人です。
壷井さん
「卒展の中止はしかたない部分もありますが、やっぱり卒展がないのが悔しかった。ふだんとは違う形ですが、こうして披露できる場所があることがとてもうれしいです」

卒業できなかった制作展

SNSでつながることで広がりをみせるユニークな卒業制作展もあります。横浜でカフェ兼イベントスペースを運営する雨宮優さん(28)は、学生たちのサポートを目的に「卒業できなかった制作展」というプロジェクトを立ち上げました。店内のスペースを学生に無料で貸し出し、卒業制作展が中止になった学生の作品をまとめて展示する計画を立てています。といっても雨宮さんの店だけでは規模に限界があるので、SNS上で協力者を募りました。これまでに京都の喫茶店や浅草のうどん店など5つの店舗が雨宮さんに賛同して、店のスペースの貸し出しに手を上げています。学生側もすでに40人以上が参加に興味を示しています。
雨宮さん
「自分が音楽プロデュースをしているということもあり、同じクリエイターとして学生たちの気持ちが分かる。自分ができることを考えて場所の提供に至りました。自分の店だけでは限界もあるので、全国的にも同じような動きが広まっていくといいかなと思っています」

#都立工芸2020

東京都立工芸高校デザイン科は、卒展の3日前(2月26日)に中止を決めました。この学科では、中止が伝えられた当日、学生みんなで集まり話し合いをしました。そして決まったのがSNS上での卒業制作展。話し合いの翌日、すぐに作品を写真におさめ、SNS上でまとめて見られるようにしました。学科でインスタグラムのアカウントを開設し、「#都立工芸2020」というハッシュタグをつけて公開しています。
田中さん
「今の自分たちにできることは何かと考えてSNSでの作品公開に至りました。予想していた以上に多くの方に見ていただいていて、正直驚いていますが、うれしいことです」

学生の思い 届きますように

突然の卒展中止は残念なできごと。でもネットやSNSを使って、思いを形にする新しい取り組みはいくつも生まれていました。通常とは違う形の卒業制作展。一人でも多くの人がアートの世界に触れ、学生や支援する人の思いが届きますように。そんなふうに感じた今回の取材でした。
大阪放送局カメラマン
斎藤 大幹

平成30年入局
報道局映像センターでモバイル動画プロジェクトに参加