無観客の15日間 横綱 白鵬に見えたもの

無観客の15日間 横綱 白鵬に見えたもの
「モチベーションをどうもっていくか難しかった。ただ、この場所で優勝したのは財産だ」

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、観客を入れずに行われた異例の春場所を制した横綱 白鵬が明かした胸の内です。

静寂につつまれた土俵

「満員札止め」が続き、毎場所、沸きに沸いていた大相撲。
しかし、春場所は大勢の観客の姿はなく、土俵入りで、しこ名を呼ぶ声も取組での歓声も全く聞こえず、静まり返っていました。

誰もが経験したことのない本場所に、横綱の座に座っておよそ13年、歴代最多の優勝回数を誇る横綱 白鵬は「想像以上に不思議な感覚だった。見えないウイルスともたたかいながら、15日間続けるのは怖かった」と不安を感じながら出場を続けていたのです。

モチベーション維持に苦労

力士のウイルス感染が確認されれば春場所が即中止となる恐怖に加えて、苦しんだのがモチベーションの維持でした。

独特の感覚や会場の雰囲気に白鵬は「稽古場か、本場所なのか分からなかった」と戸惑ってもいました。

不安定な精神状態で出場し続ける中、録画した自分の取組をチェックする日課をしていた際、ふと感じたことがありました。

テレビの前で応援してくれている相撲ファンの存在です。今場所は無観客に加え、原則、外出もできない状態で、当たり前だったファンの姿を目にすることやファンと交流する機会もありませんでした。

それでも、自分が見ているようにファンもテレビの前できっと取組を見てくれているはずだ。目の前に姿は見えないものの、「何千万人の人が見ているはず」と、ファンの姿や声援を思い浮かべながら一番、一番、臨むようになった白鵬。

今場所初黒星を喫した翌日、11日目の小結 北勝富士との一番では、鋭い立ち合いから一気の攻めで圧勝。
「自分が引っ張っていかなければいけない」と、テレビを通じて応援してくれる人たちのために横綱としての役目を全うしようとする強い責任感がかいま見えました。

7年ぶりに横綱どうしの相星決戦となった千秋楽では鶴竜との一番を制して44回目の優勝を決め、歴代最多記録をまた1つ伸ばしました。

第一人者の“安ど”

この日の夜、白鵬はNHKの取材に対して「終わったことにホッとしている」と率直な心境を話したうえで、「2場所、3場所分、優勝した感覚。この場所で優勝をしたのは財産だ。この経験を残りの相撲人生にいかす」と話しました。
見えないウイルス感染への恐怖や不安、無観客への戸惑い、さまざまな逆境を乗り越えた白鵬。

ただ、その逆境を乗り越える源となったのは、白鵬の視線の先に見えていたであろう、かけがえのないファンの姿だったのかもしれません。