全国が注目! 被災地水産業の新たな一手

全国が注目! 被災地水産業の新たな一手
東日本大震災から9年、被災地の水産業の復興は道半ばです。東北有数の漁港、気仙沼港の水揚げ高は震災前のおよそ7割にとどまっています。「このままでは水産業の存続が危うい」そう考える漁業関係者は生き残りをはかろうと、あの手この手の取り組みを始めています。同様の問題に直面する全国の漁業関係者にとってヒントになるかもしれません。(仙台放送局記者 平浩史 川田陽介)

震災後のどん底で苦渋の決断

去年12月、気仙沼港を6年ぶりに造られた新しい漁船が出港しました。船の名は「かなえ丸」。気仙沼の漁業を復活させるという願いが「かなう」ように名付けられました。

船を造ったのは、地元の6つの漁業会社が出資して設立した新会社「気仙沼かなえ漁業」です。
9年前の東日本大震災で気仙沼市は大きな被害を受けました。

漁港は復旧しましたが、水揚げした魚の販路は回復しないままです。このため多くの漁業会社の経営は悪化していて、町を離れる漁業関係者が後を絶ちません。

「このままでは気仙沼の水産業が崩壊しかねない」漁業会社を経営する鈴木一朗さんはそう考えました。しかし自分の会社だけではどうすることもできません。

そこで鈴木さんは単独での生き残りを諦め、ライバルだったほかの漁業会社と手を組むことを決断しました。
鈴木社長
「1つの会社になって一緒になって支え合わなければ、気仙沼の漁業を後世に残せないと感じ、覚悟をもって会社の看板をおろしました」

キーワードは「協業化」 その成果は

こうしておととし10月、新会社の「気仙沼かなえ漁業」が設立されました。経営のキーワードは「協業化」。新しい会社では元の会社に所属していた8隻の漁船を一括して管理し、経営の効率化につなげています。

これまで漁船ごとに管理していた、漁を行った場所や時間などの情報も共有するようにしました。その結果、燃料費を約1割削減できたほか、漁船どうしで連携して漁をすることで水揚げも安定するようになりました。

1隻当たりの年間の水揚げ高は約400トンと震災前の水準に戻り、安定した水揚げで魚市場も活気を取り戻しています。
鈴木社長
「漁業が健全であれば、地元の水産関連業にも経済効果が波及していく。相乗効果で今後も地域経済の発展につながるよう頑張りたい」

課題の人手不足を解決する切り札は…

ただこうした取り組みを行っても、解消が難しい問題があります。深刻な人手不足です。
宮城県では震災前に漁業者が1万人近くいましたが、震災後はおよそ6000人まで激減。気仙沼の漁業者からも「船長や機関長など幹部を務められる人材がいない」などの深刻な声が聞かれます。
そこで人手不足を解消する切り札として注目されているのが水産加工業の機械化です。気仙沼はこうした機械の“開発基地”になっています。

その中心となっているのが東北大学の鹿野満特任教授です。長年、大手電子部品メーカーで研究開発していた経験を生かし、地元の企業と協力して開発を進めています。

鹿野さんと気仙沼の出会いは東日本大震災でした。なにか被災地に貢献できないかと気仙沼を訪れた鹿野さんに漁業関係者が声をかけたのがきっかけでした。
鹿野特任教授
「漁業は人出の確保ができないし、作業の負荷がものすごく大きいと漁業者から聞いた。将来、水産業自体がどんどん衰退していくのは被災地にとって大きな損失だと思い、機械の開発をしたいと思った」

最初に開発したのはカツオの仕分け機

気仙沼が日本一の水揚げを誇る生鮮カツオ。最初に開発したのはカツオを重さなどで仕分けする機械です。これまで仕分け作業には、多くの人手が必要でしたが、機械を開発したことで、作業の大幅な効率化に成功しました。
さらに魚の雄と雌を自動で判別する機械も開発。これによって価値の高い白子を持ったタラの雄を簡単に見分けられるようになりました。こうした機械は気仙沼だけでなく、北海道でも使われるようになっています。

AI搭載の機械も

そして今、開発を進めているのが水揚げされた多種多様な魚を自動で仕分ける機械です。黒い箱の中にあるカメラが魚の映像を撮影します。

魚の画像を覚え込んだAIが魚の種類や大きさを特定するのです。AIには100万枚近くの魚の画像を覚え込ませ、魚の種類を見極められるようにしました。
そしてねらった魚だけを、4つの吸盤がついた特殊なアームで取り上げます。この機械を使えば仕分け作業にかかる人手を半分にできると期待されていて、1年後の実用化を目指しています。
鹿野特任教授
「東日本大震災を発端にして、漁業者にさまざまななことを教えてもらいながら、いろんな機械を開発してきた。気仙沼発でこのような機械を全国に発信し、水産業を盛り上げることができればいいなと思っています」
水産業の生き残りをかけて、被災地の気仙沼で進む「協業化」と「機械化」。震災という逆境を乗り越え、新たな漁業の姿を見せてくれることを期待しています。
仙台放送局記者
平浩史
平成29年入局
警察担当を経ておととしから気仙沼支局で被災地の復興を取材
仙台放送局記者
川田陽介
平成22年入局
長崎局、宮崎局を経て3年前から仙台局
現在は経済担当