新型コロナウイルス お酒で消毒の実際

新型コロナウイルス お酒で消毒の実際
酒屋に行くとポーランドのお酒がよく売れて入荷待ちの状態でした。
それは世界で最もアルコール度数が高いと言われるお酒で、新型コロナウイルスの感染の広がりで消毒用のアルコールが手に入りにくくなる中、飲むのではなく消毒用にも買われているようでした。
(福井局記者 小國博史 北九州局記者 田口智章 ネットワーク報道部記者 管野彰彦 郡義之)

3月 東京 新宿の酒屋

「アルコール度数が90度くらいのお酒はありますか?」
2週間ほど前、東京 新宿区の酒屋を訪れた30代くらいの男性が店員に呼びかけました。

店番をしていた富永京子さんが商品棚を探して紹介したのは、「スピリタス」と呼ばれるお酒。アルコール度数が96度のポーランド産のウォッカです。
男性は「これだ」と大喜びの様子で、「ドラッグストアで消毒用のアルコールが手に入らなかった。度数の高いお酒をその代わりに使いたい」
そんなことを話したそうです。
この店では「ふだんは月に1本くらい売れる」(富永さん)そうですが、男性が訪れたあと、立て続けに2本売れました。
初めからこのお酒を目当てに来たお客もいたそうです。
富永さん
「在庫が少なくなったので、問屋に問い合わせましたが、ほかの酒屋からの注文も殺到していて入荷は未定と言われました」

ネットで議論 “おすすめ” “おすすめできない”

ネット上にはスピリタスに関する投稿がたくさんあり、中にはこのお酒を使った消毒液の作り方として動画を載せているケースも。

これについては、さまざまな反応があり、
「アルコール度数が高くて、消毒におすすめ」
といった声がある一方、
「燃えるし危ない」「消毒には危険だからおすすめできない」
など注意をうながす声もありました。

消毒用のアルコールが手に入りにくくなる中、急激に注目されているようで “どこも売り切れ” “ネット通販でいつもの4倍の価格”といった投稿もありました。

実際に酒で消毒液を作ったと投稿した男性に話を聞いたところ、「本来、消毒液が売っていれば使いたいがドラッグストアを回っても手に入らない。しかたなくネット上で見つけた方法を参考に作って使っています」と話していました。

3人の専門家に聞いた

アルコール度数の高い酒と消毒、どう考えればいいのか3人の専門家に聞いてみました。

まず「一般社団法人アルコール協会」。
担当者によると高濃度のお酒に含まれているアルコールも、消毒用アルコールに含まれているアルコールも同じエタノールなので、成分としての違いはないそうです。

ただし、一般的に消毒に適しているとされている、アルコールの濃度は80%前後で、スピリタスのように96%ほどの濃度では短時間で蒸発してしまい消毒には向かないといいます。

では、薄めればいいのかというと、そう簡単な話でもないようです。協会はその理由をエタノール以外の成分にあるといいます。
アルコール協会担当者
「市販されている消毒用アルコールは、成分がはっきりしていますし、消毒効果も検証されています。一方で、酒にはアルコール以外に含まれている成分が消毒効果にどのように影響するかわかりませんし、効果も証明されていません。協会としてはおすすめできません」
続いて公衆衛生学が専門の獨協医科大学医学部の小橋元 教授。
小橋さんもアルコール以外の成分の影響が定かではないという指摘です。
小橋教授
「酒には香り付けのための香気成分や糖分が入っているので、消毒効果がどの程度あるのかはっきりしません。予防のためであれば、手洗いを徹底することがまず大事ですし、テーブルなどをふくのであれば、漂白剤を薄めた消毒液で代用できます」
そして日本薬剤師会の村松章伊常務理事です。
村松常務理事
「医薬品ではないので消毒に効果があるとはいえませんし、使うのは自分の責任で、となると思います。きちんとせっけんを使って手洗いをすれば消毒用アルコールより効果が高いという試験結果もあります」

引火に注意

高濃度の酒が本来の用途と違う形で注目される現状。
こうした酒については各地の消防が、“揮発性が高いため引火しやすい”と注意を呼びかけています。
5年前には名古屋市で、車の中でスピリタスを飲んでいた人がたばこに火を付けた際、気化したアルコールに引火して、やけどを負う事故がありました。
NHKが名古屋市消防局の協力を得て行った実験では、アルコールの濃度が40%程度の一般的なウオッカにはなかなか火がつかなかったものの、90%以上のスピリタスはすぐに火がつき、炎を上げて勢いよく燃えることがわかりました。
東京消防庁の実験でもアルコール度数の高い酒がかかった服のそばに火を近づけると、あっという間に燃え広がりました。
名古屋市消防局消防研究室によると、アルコール度数の高い酒が消防法で定める危険物になる場合があるそうで、「飲み物とはいえ、取り扱いには十分注意が必要なものなんです」と話しています。

異常な状態 収まって

消毒用のアルコールが手に入りづらくなる状況が続く中、なんとか感染を防ぎたいという切実な思いから、お酒が使われているのが実際です。
スピリタスについて、輸入や販売を手がけるミリオン商事マーケティング部の本間太一さんは次のように話しています。
「手間をかけ70回以上も蒸留を繰り返すから無味無臭、フルーツ系のカクテルの味が際立ち、色もきれいに出るので、一般にはあまり知られていませんがバーやレストランではよく使われています」「計画的に輸入していますが、いま急激に注文が増え在庫不足で出荷できずにいる状態です」
本間さん
「飲料となるものが、消毒用として使われていることに困惑しています。本来必要としている飲食店に届けられない、異常な状態が早く収まってほしいです」