東京五輪・パラ 国内での「事前キャンプ」中止や延期相次ぐ

東京五輪・パラ 国内での「事前キャンプ」中止や延期相次ぐ
東京オリンピック・パラリンピックに向けて各国の選手らが、大会前に日本国内で合宿を行う「事前キャンプ」が新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、全国の少なくとも16の自治体で中止や延期となっていることがNHKの取材で分かりました。
東京オリンピック・パラリンピックに向けて全国の自治体は、各国の選手らが大会前に合宿を行う事前キャンプを誘致し、その準備を進めてきました。

しかし新型コロナウイルスの感染の拡大を受けてNHKが自治体に取材したところ事前キャンプの実施に影響が出ていることが分かりました。

これまでにコロンビア代表の卓球や体操の選手たちを受け入れる予定だった北九州市や、ポーランド代表の柔道と陸上を誘致した群馬県高崎市、イギリス代表の車いすバスケットボールを誘致した千葉県浦安市など少なくとも16の自治体ですでに事前キャンプが中止や延期となっていました。

このほか福井県鯖江市は中国の体操チームが来月、合宿をする予定でしたが、中国の体操協会に対して中止を申し入れたということです。

また選手らと住民が交流するホストタウンでも、長野県松川町が予定していた相手国のコスタリカへ高校生を派遣する事業や、茨城県常陸大宮市のパラオの民芸品の製作体験など、少なくとも59の自治体のイベントなどが中止や延期となっていました。

このほかにも渡航が制限され、相手の国や地域の担当者が来日できなかったり、連絡が取れなかったりする自治体も多く、東京オリンピック・パラリンピックに向けたこうした大事なイベントにも新型コロナウイルスによる影響が広がっています。

ベトナムのホストタウン 山口 下松では

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京オリンピックに向けてベトナムのホストタウンになっている山口県下松市では今月予定されていたバドミントン女子の代表候補選手の合宿が中止になりました。

下松市は東京オリンピックとパラリンピックでベトナムのホストタウンになっていて、今月、バドミントン女子の代表候補の選手1人が事前合宿を行う方向で日程の調整を進めていました。

しかし先月27日になってベトナムのバドミントン連盟から市側に「合宿を中止する」と連絡があったことが分かりました。

市によりますと連盟は「新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、選手を国外へ移動させることができない」と伝えてきたということです。

下松市では練習場の1つになっている市の体育館で、2億6750万円をかけて、合わせて70台余りの冷暖房設備の設置を進めてきたほか、市内の小学生が選手を応援する寄せ書きを作るなど受け入れ準備を進めてきました。

また合宿の期間中は選手による小学校の訪問や地元のラジオ出演なども検討されていました。

下松市生涯学習振興課の中村一雄係長は「選手にとっても大事な時期なのでしかたないが残念です。来月の代表選考で出場を決めてもらい、下松市でのキャンプや交流事業を実現したい」と話しています。

ポーランド柔道代表指導の日本人「本当に残念」

ポーランドの柔道代表チームは群馬県高崎市で、今月事前キャンプを行う予定でしたが、感染の広がる日本に渡航すれば、帰国ができなくなるおそれがあるとして、実施は中止となりました。

チームを指導する日本人の佐々木浩太郎さんはテレビ電話での取材に対して、「高崎市の皆さんには温かい応援をいただき、すばらしい練習環境を準備いただいていただけに、本当に残念だ。選手もショックを受けていたがまた必ず会えることを楽しみにするとともに皆さんの健康も願っています。今後、オリンピックの開催をどうするかについては選手にとっては判断は早いほうがありがたい。ただいずれにせよ、予期せぬ判断や、最悪の状況も考慮して、最善を尽くしたい」と話していました。

専門家「受け入れる国やチームとコミュニケーションを」

スポーツ政策が専門の早稲田大学の間野義之教授は「東京オリンピック・パラリンピックに選手を派遣する国、チームの動揺が大きいのだと思う。事前キャンプは開催する国の時差や気候にならして、アスリートをベストな状態に近づけていく大切なもので、キャンプができるチームとできないチームの間には、コンディションの差が出ると思う」と指摘しました。

また、「日本全国にオリンピックの無形のレガシーを作ろうという場合には、事前キャンプ地やホストタウンのような各国の選手との友好の場を確保することが望ましい。自治体は受け入れる国やチームとコミュニケーションをとって正確な情報を共有し、これまでどおり準備を進めることが大切だ」と話していました。

中止や延期となった自治体は

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で海外チームの事前キャンプを中止したり、延期したりしたのはNHKが今月17日の時点でまとめたところ、少なくとも全国で16の自治体に上りました。

埼玉県本庄市ではトルコのパラリンピック・テコンドーの選手団が今月10日から19日まで市内で合宿する予定でしたが、見送ったということです。

また、埼玉県加須市は南米・コロンビアのオリンピック・柔道チームが合宿する予定でしたが、先月26日に大使館から「医療関係者から指示があり見送りたい」という連絡が入ったということです。

神奈川県平塚市は今月10日から来月2日まで、バルト三国の1つ、リトアニアのオリンピックとパラリンピックの陸上選手が、合宿を行う予定でしたが、中止になったということです。

群馬県高崎市は東欧・ポーランドのホストタウンとなっていて、今月、柔道のチームが今月末から来月19日まで陸上とハンマー投げ女子のチームが合宿を行う予定でしたが中止が決まったということです。

千葉県浦安市では来月、イギリスの車いすバスケットボール男子の選手らが合宿を行う予定でしたが「選手たちの健康管理には慎重にならざるをえない」と連絡が入り、中止が決まったと言うことです。

大阪 大東市では南米・コロンビアの車いすバスケットボールのチームが来月5日から2週間合宿を行う予定でしたが、日本に渡航できるか不透明な状況で中止したいと連絡があったということです。

奈良県大和郡山市では香港の水泳の代表チームが今月23日から来月まで17日間合宿を予定していましたが、日本政府の水際対策で、入国が難しくなったなどとして中止するとの連絡が入ったということです。

愛知県岡崎市ではモンゴルのオリンピック・アーチェリーの代表チームが先月から今月上旬まで合宿を行う予定でしたが、モンゴル政府の通知を受けて合宿が中止されたということです。

静岡県富士市ではモンゴルのパラリンピック・パワーリフティングのチームが、伊豆の国市ではモンゴルのオリンピックとパラリンピックの柔道チームが合宿をする予定でしたが、いずれも延期が決まったということです。

岡山県美作市では、アメリカのオリンピック7人制ラグビーのチームが視察をかねて合宿をする予定でしたが、合宿後に香港で参加する予定の国際大会が延期となったことから中止になったということです。

山口県下松市では、ベトナムのオリンピックバドミントン女子の代表チームが今月末に合宿する予定でしたが、ベトナム側から「選手を空港に降ろしたくない」と連絡があり、中止が決まったということです。

福岡県福津市と古賀市では東欧・ルーマニアのオリンピック柔道の代表チームが今月から来月にかけて合宿をする予定でしたが、世界大会の中止などを理由に、合宿も中止するとの連絡が入ったということです。

また北九州市では南米・コロンビアのホストタウンとして10の競技の合宿を受け入れる予定でしたが、このうちオリンピックの卓球と体操のチームから合宿を中止するとの連絡が入ったということです。

宮崎県延岡市ではドイツのオリンピック柔道男子代表のチームが来月、合宿を行う予定でしたが、「感染の拡大で十分な練習環境が確保できない」として、ドイツ側から合宿を中止する連絡が入ったということです。

このほかに、福井県鯖江市は中国の体操の代表チームが来月25日から29日まで合宿をする予定でしたが、市から中国の体操協会に対して中止を申し入れたということです。