外国語通訳ガイドが苦境に 外国人旅行者激減で 新型ウイルス

外国語通訳ガイドが苦境に 外国人旅行者激減で 新型ウイルス
新型コロナウイルスの感染拡大で外国人旅行者が激減する中、各地の名所を外国語で案内する観光ガイドも苦境に立たされています。
「全国通訳案内士」は外国人旅行者を相手に英語やフランス語、中国語などで案内を行う国家資格を持った観光ガイドです。

企業などに所属せずフリーランスとして働く人が多く、業界団体の「全日本通訳案内士連盟」が新型コロナウイルスの影響について緊急のアンケートを行ったところ、観光ツアーのキャンセルによる損害は今月と来月だけで1人当たり58万円に上るということです。

外国人旅行者が多く訪れるこれからの花見シーズンは、まさに「かき入れ時」で、この時期の収入が年収の3割から5割に上る人も少なくないということです。

感染拡大を受けて、国はフリーランスの人が臨時休校に伴って仕事を休んだ場合の支援策を出しましたが、業界団体では「適用されない人が多い」として、仕事のキャンセルに伴う休業補償などを要望することにしています。

「全日本通訳案内士連盟」の松本美江理事長は「政府が進める現在の対策は、ほとんどの通訳案内士に適用されない。外国人旅行者に日本を正しく知り、好きになってもらうため、収入以上に得るものがあるから続けている人も多い。彼らが離職や廃業せずに済むよう、雇用調整助成金など何らかの形で支えてほしい」と話しています。

フリーランス通訳ガイドは

都内に住む鈴木淳さん(42)はフリーランスとして「全国通訳案内士」の仕事をしています。

鈴木さんは以前は、医療機器メーカーに勤務していましたが、民間の英語試験で好成績を収めたのをきっかけに、3年前に資格を取得しました。

当初は会社に勤めながら休日にガイドの仕事を受けていましたが、外国人の旅行者が直接、感謝の気持ちを伝えてくれることに魅力を感じ、去年3月からは会社を辞めて、専業でガイドの仕事をしています。

ことしは初めて大手旅行代理店からも仕事を受注し、手応えを感じていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大でツアーの中止が相次ぎ、損害は100万円を超えるということです。

東京 浅草の浅草寺の様子について鈴木さんは「ふだんなら人がぶつかるくらい歩いているのに、外国人がほとんどいないのでさみしく感じます」と話していました。

鈴木さんは妻と1歳の長男の3人家族で、将来の見通しに不安を感じているといい「非常に苦しい状態。妻は『もう少し頑張ってみれば』と言ってくれているが、そのことばの裏には不安もあると思う。一刻も早くこの状況を打開したい」と話していました。

そのうえで「成長戦略の柱と位置づけられたインバウンドの最前線で働くガイドをいいときだけ使って都合が悪くなれば切り捨てるのであれば、若者は不安に思ってこの世界に入ってこなくなる」と訴えました。

全国通訳案内士は合格率8.5%の狭き門

「全国通訳案内士」は観光庁が実施する国家試験に合格し、報酬を得て外国語で旅行者に案内する観光ガイドです。

「民間外交官」とも呼ばれ、外国人旅行者の満足度を高める役割を担っています。

国際観光振興機構によりますと、去年4月時点の登録者は2万5000人余りで、資格試験では英語やフランス語、中国語など10か国の言語から希望する言語の学力を試されるほか、ガイドとしての日本の地理や歴史、産業や政治経済、文化など、幅広い知識が問われます。

また日本の文化や歴史などについて、外国人旅行者との円滑なコミュニケーション能力を問う口述試験もあり、今年度受験した人の合格率は8.5%と狭き門になっています。