失われた“特別な時間”

失われた“特別な時間”
子どもたちにとって、3月は同級生と残された時間を過ごす大切な時期です。そんな“特別な時間”は、新型コロナウイルスの広がりで失われました。

誰もいない学校

都内のある中学校。今月3日から、臨時休校が続いています。例年であれば高校入試も終わり、卒業式に向けた準備などで、教員にとっても、せわしなさと一抹の寂しさが入り交じる時期だそうです。
しかし、ことしはそんな感傷に浸ることもありません。新型コロナウイルスの感染拡大により、主役となる肝心の生徒たちがいないからです。ベテラン教員は、その心境をこう語りました。
「中3の生徒は、ようやく受験も終わり、あとは卒業式というかけがえのない時期なのに、その機会が奪われました。生徒が心配で電話すると、『みんなと会いたい』『早く学校に行きたい』という声が聞かれます。生徒たちの生活リズムや精神状態が本当に心配です」

突然の表明、ざわめく省内

安倍総理大臣が、先月27日に示した全国一斉の臨時休校の意向。驚いたのは生徒や教員、そして保護者だけではありません。教育行政をつかさどる文部科学省の官僚たちも同じだったといいます。

「まじで?!」

先月27日午後6時半ごろ。この臨時休校に関するテレビの速報が流れると、小中学校を担当する文部科学省初等中等教育局のフロアがどよめきました。話を聞くと、自分たちの担当する学校に係る重大な決定をテレビで知ったという職員がほとんどだったということです。
(中堅職員B)
「もしかしたら休校要請が必要とは思いましたが、こんな形でとは。でも、課題があっても休校すべきと政府が判断した以上、感染拡大防止に向けて全力でやらねばと」
(若手職員A)
「まわりの職員はかなり驚いていました。休みにした場合、子どもたちが立ち寄る商業施設やカラオケをどうするのか?親が働いている子どもたちは、居場所が確保できるのか?多くの課題が頭を駆け巡りました」

休校は本来 誰が判断?

災害時などに、学校の休校などを判断するのは、市区町村の教育委員会や学校長です。文部科学省は、休校の要請はできても、それを指示する法的な権限は持っていません。

感染症と言えば、国内でおよそ200人が亡くなった2009年の新型インフルエンザが思い出されますが、その時も、文部科学省が、全国一斉に休校を求めることは、ありませんでした。

今回は、政府が設置した新型コロナウイルス対策の専門家会議で事前に議論されませんでしたが、安倍総理大臣は2月29日の会見で、「子どもたちの健康・安全を第一に、感染リスクに備えなければならない。十分な説明がなかったことは、確かにそのとおりだが、責任ある立場として、判断しなければならなかったことをどうかご理解いただきたい」として、政治的に判断したと説明しました。

方針決定の経緯は?

政府から示された突然の方針。しかし、水面下では文部科学省内でも、対策に動き始めていたといいます。
(幹部Cさん)
「27日、幹部が官邸に行ったり来たりばたばたしていたので気にはなっていたのですが…」
(若手職員Aさん)
「急に指示があった。本当に大丈夫かと不安を感じました」
こう振り返る官僚たち。総理から方針が示された27日、萩生田文部科学大臣や藤原事務次官らが官邸に行き、安倍総理大臣と臨時休校について話し合ったそうです。文部科学省側からは、休校にした場合、働く親の子どもへの対応などをどうするか、課題を提示したということですが、その数時間後、安倍総理大臣が全国一斉の臨時休校について、表明しました。
当時、現場は混乱していました。当日夕方、文部科学省から電話連絡を受けた学校団体が、総理が休校を表明した直後に回したメールです。

休校などの措置を検討し始めていた文部科学省。しかし、その要請内容は、官僚たちの想定を超えていました。休校は1、2週間という期間でなく、およそ1か月先の春休みまでと示されたからです。
(幹部Cさん)
「一斉休校は無理ではないかというのが周りの考えだった。オリンピックや経済などの状況を総合的に顧みればやむをえないという政治判断になったのだと思う。自治体などとの調整もなく、もう少しやり方があったのではないか」
連絡を受けた学校関係者も、こう振り返ります。
「文科省が誰かの意見を聞いて自分たちで判断した感じはない。ばたばたと決め、何か問題がおきるかどうかは、彼らも後回しという印象だった」

対応に追われた現場は

安倍総理大臣が一斉休校の考えを表明した直後。文部科学省には、報道各社から問い合わせが相次ぎました。私たちも、休校の是非論はさておき、それに伴って生じる諸課題を、(授業時間、入試、学童保育、単位など)どうするか、学校関係者や子どもたち、さらに、保護者らが混乱すると思いました。

しかし、対応した文部科学省は、「今夜は対応できません」と繰り返すのみ。翌日28日の大臣会見まで具体策は示されず、そのドタバタぶりが浮き彫りなりました。

私たちに声を届けてください

国の要請を受けて、全国の小中学校の98%以上が臨時休校に入りました。3月上旬に、ユネスコが公表した調査でも、全世界で3億人の子どもたちが新型コロナウイルスの影響で学校に通えなくなっているそうです。関係者の受け止めもさまざまです。
(小学校長)
「今回の休校については、さまざまな意見があるが、健康を守る視点ではしかたないと思います。一方、子どもたちが抱えるストレスは大きく、心の問題を考えていかないといけない。学校としても子どもたちをどのようにケアしていくかが大事だと考えています」
(都内の中学教員)
「もう友達とゲーム三昧で生活が乱れている子どももいます。一方、経済力のある家庭は、オンライン教育などで学習を続けています。『コロナウイルス格差』が生まれています」
(高校教員)
「高校3年生は、国立大学の後期試験に備え静かな教室で勉強していました。とても大事な時期なんです。慌てふためく大人より子どもたちのほうが冷静かもしれませんね」
(小学生)
「用事がないかぎり、家から外出してはいけないと言われた。昼間の家はひとりぼっちだし、友達と遊ぶのも禁止されている。ほかに楽しいことが浮かばないです」
この全国一斉の臨時休校。一部地域では、子どもたちのストレスや不安に配慮し、解除する動きもありますが、このまま、春休みまで続くところもあるということです。

政府が設置する専門家会議は、この休校などの効果を、今月19日に明らかにしたいとしています。

今回の異例の措置については、子どもの健康面や感染拡大を防ぐため、必要だったとする意見もあります。
NHKが今月行った世論調査によると、安倍総理大臣の要請を受けた今回の臨時休校について聞いたところ、「やむを得ない」が69%、「過剰な対応だ」が24%でした。

ただ、休校の必要性について、十分な説明がなされたのか、実務を担う現場との調整不足はなかったか、さらに、子どもたち、保護者、学校に与えた影響も大きいと感じます。

卒業式が中止になった学校も多く、一部大学で後期試験が中止となり影響を受けた受験生もいます。ぜひ皆さんの体験や意見、お待ちしています。
社会部記者
文部科学省担当
伊津見総一郎
社会部記者
文部科学省担当
鈴木康太